経営者の質が問われる時代――“プロ経営者”は本当に必要なのか

「新君、おめでとう!」。私がジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)日本法人の社長になった1982年、米国本社からCOO(最高執行責任者)が東京にやってきた。もちろん彼はただ祝辞を言いに来たわけではなく、非常に大事なことを伝えに来ていた。「あなたが社長を退任する時点で業績がよいだけでは、あなたの評価は最高でも50点だよ」。残りの50点は何なのか。驚きながら尋ねると、彼はこう続けた。「この会社を引き継げる後継者を育てられたかということだ。そこまでできて100点になるんだよ」

J&Jでは昔から「Promotion from within」という言葉が使われる。「内部から昇進させよ」という意味だ。米国の会社では「外部からプロ経営者を招くもの」というイメージが一部の日本人にはある。たしかに食品のナビスコからIBMに移って、同社の業績を劇的に回復させたルイス・ガースナーなど著名なケースがあるのも否定しない。だが、実際には米国企業も内部で持ち上がってくるのが大半だ。しかも、後継者の育成自体が経営者の仕事にもなっている。GEのジャック・ウェルチは20年のCEO在籍中、適切な後継者を見極めるために、世界で200人の候補を挙げて時間をかけて競争させた。これは非常に理にかなっていると思う。私は1959年のシェル石油への入社を皮切りに、日本コカコーラ・J&J・フィリップスなど6社を経験、うち3社で社長職を務めたが、後継者を含む人材の育成にはつねに最重要案件として取り組んできた。だが、多くの日本企業のビジネスを見ていると、この後継者育成という大事業が軽んじられているように思えてならない。




2014年は複数の会社で外部からの経営者就任が話題になった。日本コカコーラから資生堂へ、ローソンからサントリーへ、同業の外国人が武田薬品工業へ。資生堂に移った魚谷雅彦さんのように、いずれも優秀な人達なのだろう。ただ、私はこうした“プロ経営者”をもてはやす風潮が正しいとは思えない。どこの企業でも内部では長く働いてきた人間のほうが外部の人より、人でも技術でもリソースを十全に知悉している(はずだ)からだ。つまり一寸辛口で言うと、外部に経営者を探さざるをえないのは、内部で経営者にふさわしい人材を育成できなかったことの証左でもある。外部人材の失敗例で言えば、ソニーの元CEOハワード・ストリンガーもその1人だろう。彼は日米英で3分の1ずつ暮らし、ホテルを拠点にして仕事をしていた。そんなやり方では核となる事業への注力やよい人材の育成など、まともに仕事などできるはずがない。案の定、ソニーは彼の時代に加速度的に凋落していった。経営者としてふさわしい人間の条件はさほど特別なことではない。私がJ&J日本の代表になった頃、J&J米国本社のCEOに「トップリーダーに必要な資質とは何か」を尋ねたことがある。彼は「2つある」と答えた。「平均より上の知性と並外れて高い道徳心だ」。優秀な知性や数理能力といった答えではないことに“目からウロコ”だった。知性は多少高いくらいでよいが、道徳心は著しく高くないとダメだという意見。これには世界のトップとしての経験が裏打ちされていると感じた。

では、経営者のなすべき仕事とは何か。それには3つあると考える。1つは、社員に方向性を与えることだ。方向性とは“理念+目標+戦略”の1次方程式で説明できる。これらを策定した上で、社員が納得できるよう説明できるのが仕事の第一である。2つ目は、結果を出すことだ。経営とは数字という結果で判断されるもので、結果なくして経営の資格はない。ただし、結果を焦るあまり法令や道義を破ってはいけない。正しいプロセスが肝要だ。そして3つ目が、前述の人材育成だ。では、社員や後継者としてどんな人材育成をすべきか。社員に最初に求めるのは信頼だ。言行一致や有言実行、嘘をつかないといった信頼を重ねることを覚えてもらう。次は尊敬。私利を離れて他利まで考えられるようにすると、自然と尊敬が集まる。そして最後に意欲。本人はもちろん、周囲にも意欲づけできるような2つの意欲を身につけてもらう。総じて言えば、品格高く人間力の高い人材をつくるということだ。

グローバル時代に働くとき、いろいろな国の様々な地位の人に会う機会が増える。そうした場で一番差が出るのが人間力だ。人間力があれば国が違ってもリーダーたりえるし、外国人を相手にしても負けないリーダーシップをとれる。よい後継者を育てるには、単に仕事のスキルのみに限定せず、人間力を含んだ広い観点で取り組む必要があるように思う。ただ、今後徐々にプロ経営者は増えていくだろう。J&Jからもカルビーに移って活躍している人もいる。経営という仕事は同じ業種でなければならないということはなく、他業種でも経営の原理原則を身につけていれば十分成功できる。経営力は移転可能である。プロ経営者をめぐる課題で言えば、受け入れる社員側の許容度が今後議論になるだろう。社員の大多数は純血主義でやってきた人たちだ。かりに声をかけた経営者を三顧の礼で招いても、好き嫌いといった感情ややっかみや反発が根強いと、いかにすぐれた経営者でも結果を出すのは難しい。その意味で、プロ経営者をよしとして日本企業が伸びていけるかは、それを受け入れる社員の問題でもある。これからは入る側・受け入れる側共に、日本のビジネスパーソンの人間力が試される。


新将命(あたらし・まさみ) 国際ビジネスブレイン代表取締役社長。1936年生まれ。早稲田大学卒。シェル石油・J&J・フィリップス等で経営職を務める。2003年から8年間、住友商事のアドバイザリーボードメンバーとして活躍。現在、様々な企業のアドバイザーを務めながら、国内外で講演・執筆活動に取り組む。『経営の教科書』『経営の処方箋』(ともにダイヤモンド社)など著書多数。ホームページはhttp://www.atarashimasami.com/


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