【震災5年・復興】(07) 減る応援、山積みの事業

20161101 05
東日本大震災の津波で、人口の1割近い約1800人が死亡・行方不明となった岩手県陸前高田市。市中心部では今、嵩上げや高台に造成した約300haの土地を区画整理し、住宅や商店を再建する事業が進む。「まるでジグソーパズルです」。同市市街地整備課の福田稔さん(62)が溜め息を吐く。住宅や店舗が混在していた街を再編する事業。被災者の中には、高台への移転を希望する人もいる。地権者1人ひとりに意向を確かめ、配置を決める地道な業務を連日、同課の職員34人が夜更けまで続けている。陸前高田市は震災前、全国の自治体と同様にスリム化を進めてきた。1996年に357人いた正職員を、2割減の293人まで縮小したのは2010年。足りない人数は嘱託や臨時職員で補った。その翌年に津波に襲われ、全職員443人の25%に当たる111人が犠牲になった。避難所の運営・仮設住宅の管理・壊滅した街の復興計画…。パンク状態に陥った市に手を差し伸べたのが、全国からの応援職員だった。今年度、市に派遣されたのは、全職員の18%に当たる88人。予算規模が震災前の最大12倍に膨らんで、業務量が激増し、心身に負担がかかる地元職員を支える。福田さんもその1人で、神奈川県から派遣された。だが、支援の動きは鈍りつつある。

「新年度から職員の応援を取り止めたい」。岩手県野田村に昨年暮れ、派遣元の自治体から突然、電話が入った。職員94人の内、応援職員は23人。この自治体からの派遣は数人とはいえ、貴重な戦力で、村幹部は「これまでの支援に感謝している。でも、未だ復興事業は残っているのに…」と頭を抱える。同じ連絡は、宮城県女川町にも2自治体からあった。大阪府河内長野市は、2013年度から続けてきた岩手県大槌町への職員1人の派遣を今月で止める。「希望者がいなかった。『遠いから』というのが理由で、断腸の思いだが止むを得ない」。同市人事課の東部昌也課長は話す。被災地の自治体は、街づくりの即戦力となる土木職員を特に求めているが、広島市は2014年8月の土砂災害後、宮城県石巻市等に派遣していた土木職員6人の内、5人を呼び戻した。人事課は、「要望に応えたいが、こちらも復旧の為に人が必要だから」と打ち明ける。被災自治体も自力での補充を模索し、陸前高田市は土木・建築技師の新規採用を試みている。しかし、この2年の受験者はゼロ。「景気のいい民間に人材が流れている」と総務部の担当者は嘆く。総務省によると、岩手・宮城・福島3県と各県の市町村に派遣されている応援議員は、昨年4月現在で2195人。年度初めでピークだった2014年4月に比べて、32人減った。国は「“復興・創生期間”が終わる2020年度までは人件費を負担する」としているが、大槌町の平野公三町長は「応援職員が去った後を見据え、若手を育成しなければ」と危機感を募らせる。部課長27人の内、応援職員は4割の11人。津波で犠牲になった職員40人を新規採用で補った結果、10~30歳代の地元職員が7割を占める歪な形になった。陸前高田市は今後の応援職員の減少を見越し、2020年度までの人員計画を立てた。復興で膨らんだ事業や組織は、軈て縮小の道を辿る。被災自治体の課題は、“復興後”にもある。




20161101 01
■被災地42首長アンケート
東日本大震災で大きな被害を受けた岩手・宮城・福島3県の沿岸と、東京電力福島第1原発周辺の計42市町村長に本紙が行ったアンケートでは、復旧・復興の完了時期について「5年以内」と答えた首長が最多の16人に上るが、「復興は道半ば」と捉えていることがわかった。生活再建を巡る住民意向の変化や、今も尚残る風評被害等、悩みは尽きない。

復旧・復興の完了時期を「5年以内」としたのは、岩手4人・宮城8人・福島4人の計16人。「4年以内」は4人で、「3年以内」は5人。「2年以内」は3人、「1年以内」は2人だった。「5~10年以内」は7人。この内の6人と、「見通せない」とした5人の計11人は福島県の首長で、原発事故による避難が続く中、大半が先行きの厳しさを指摘した。アンケートでは、当初の見通しと異なる現実に戸惑う声も聞かれた。「住民の意向の変化に苦慮している」と訴えるのは、宮城県名取市の佐々木一十郎市長。市は当初、津波被害を受けた閖上地区の嵩上げ事業の対象面積を70haと計画していたが、2年前に32haへと大幅に縮小した。住民の合意形成に時間がかかり、区域外で自力再建する人が相次いだ為という。岩手県大船渡市も、高台への集団移転事業の参加は、当初の656戸から366戸に。戸田公明市長は「時間の経過と共に計画が縮小するのは止むを得ない」とするが、市によると、確保すべき用地の見直し等で、事業は想定より1~2年遅れるという。また、災害公営住宅(復興住宅)の建設で「管理する公営住宅が震災前の約3倍になる」(岩手県山田町)等、維持管理の負担増を訴える首長も多かった。原発事故に伴う風評被害を巡っては、福島県の首長から「国の対策の効果が表れていない」(南相馬市)、「払拭には相当の時間がかかる」(川俣町)との意見が出た。

■復興後「人口減る」7割
復旧・復興が完了した時点の人口について、7割の30人が「減る」とした。「見通せない」の4人は何れも福島県。宮城県利府町と仙台市は「増えた」「増える見込み」とした。昨年の国勢調査結果によると、宮城県女川町の人口は、2010年の前回調査に比べて37%も減った。町によると、少子高齢化に加え、町内での生活再建を諦めて内陸部に移る人が相次いだことも要因という。

■政府の対応「評価」9割
政府の震災対応を「評価できる」としたのは、9割近くの37人。岩手県陸前高田市の戸羽太市長は、「震災直後は動きが遅かったり、ニーズ把握が下手だったりして躓いた感じだったが、現在は一定の信頼関係が築けている」とした。2016~2020年度の“復興・創生期間”で、国が復興予算の大半を確保することへの安心感も評価に繋がったようだ。原発事故対応では、福島県の15人中8人が「評価できる」とし、昨年の3人から増えた。「汚染水対策等、一定程度進んでいる」(飯舘村)と、“及第点”を与える意見が目立った。「評価できない」は昨年の10人から5人に減ったが、全町避難が続く自治体からは「復興の歩みが遅い。もう5年。スピード感を持って取り組んで」(大熊町)等の注文がついた。

20161101 02
■今年は“本格復興完遂”  岩手県・達増拓也知事
県政史上嘗てない規模と体制で、復旧・復興に取り組んできた。災害公営住宅は約8割が着工、土地区画整理事業と防災集団移転促進事業は全て始まった。被災した事業所も約8割が再開し、県立学校は全て復旧を終えた。全ての事業が完璧だった訳ではないが、復興はいい方向に進んでいる。一方、2万人を超える被災者が、未だ仮設住宅等での生活を余儀なくされている。不自由な生活が長期化する中、心と体の健康や将来への不安を抱えている。被災者1人ひとりに寄り添った支援が必要だ。しっかり取り組みたい。復興は道半ばだ。「本格的な復興をやり遂げる」という強い意志を込めて、今年を“本格復興完遂年”と位置付けた。災害公営住宅での新たなコミュニティー作りや、水産加工業の人材確保等も進めていく。国には引き続き、復興財源やマンパワーの確保を求めたい。

20161101 03
■交流人口の拡大図る  宮城県・村井嘉浩知事
この5年間、被災者の生活再建や地域経済の再生を最優先課題として取り組んだ。三陸自動車道が整備され、JR石巻線が全線開通する等、復興は着実に進展している。一方で、県内では今も約5万人がプレハブ仮設住宅等で暮らす。水産加工業では、失われた販路の回復や人手不足が解消されない。地域や分野により、復興に差が生じている。昨秋の国勢調査では、被災した沿岸部の急激な人口減少が明らかになった。人口流出は、地域経済の疲弊に繋がりかねない。民営化される仙台空港を活用し、交流人口の拡大にも取り組みたい。宮城県は津波被害だけに留まらない。東京電力福島第1原発事故で発生した“指定廃棄物”は、今も県内で一時保管されている。事故から5年が経過しても、処理は全く進んでいない。国は責任を持って処理してほしい。

20161101 04
■「帰りたい」と思える街に  福島県・内堀雅雄知事
復興の途上というのが、一番率直な思いだ。原発の廃炉・汚染水対策・生活再建・除染に加え、風評・風化という“2つの逆風”。常に目の前に課題が現れ、変化し、複雑になっている。ぶつかり続け、悪戦苦闘した5年間だった。未だ10万人近い住民が避難生活を続けている。昨年9月に避難指示が解除された楢葉町に戻った住民は5~6%で、多くの人がいつ帰るか思い悩んでいるのが現実だ。帰還困難区域等、解除の目途が立てられない地域もある。1人でも多くの人が「帰りたい」と思えるよう、交通インフラの復旧や医療・福祉施設の再開、買い物環境の整備に積極的に取り組んでいく。ただ、災害公営住宅の建設が遅れているのが忸怩たる点だ。福島の復興・再生は確実に前に進んでいるが、残念ながら、向こう5年間では終わらない。財源確保等、国は全力を尽くしてほしい。

※今回のアンケートは、岩手・宮城・福島県で津波被害を受けた自治体と、原発事故後に避難指示区域が指定された自治体の計42市町村長(岩手12・宮城15・福島15)が対象。1月に配布し、全員から回答を得た。


≡読売新聞 2016年3月7日付掲載≡



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テーマ : 東日本大震災
ジャンル : 政治・経済

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