【震災5年・復興】(08) 逆境バネ、芽吹く産業

20161108 04
東日本大震災では、東北の基幹産業である水産業・農業・畜産業等が大きな打撃を受けた。漁港の多くは損壊し、農地は塩水に浸かり、東京電力福島第1原発事故で汚染された。そんな中、被害をきっかけに蒔かれた産業の“種”がある。原発事故の風評被害が深刻な福島県。川内村は2013年春、国の復興交付金等6億円を投じ、植物工場を建設した。無償貸与された村出資の第3セクターが、1日4000株のレタス等を生産。首都圏のレストラン等で使われ、年間1億円を売り上げる。従業員は22人で、半分は村民だ。施設は密閉されている為、農薬は不要。土も使わず、水に溶かした養液で栽培する。農地の多くが被害を受けた被災地にとって、希望の農業技術だ。「安定供給ができ、洗わずに食べられる。取引を一度も打ち切られたことは無い」と第3セクターの早川昌和社長。ただ、未だ生産態勢は手探りで、昨年度の場合、国等の補助金4000万円が無ければ2400万円の赤字の見込み。太陽光に代わる発光ダイオード(LED)等の電気代が、売り上げの4割近くまで嵩んでいる為だ。植物工場に詳しい千葉大学の古在豊樹名誉教授(農業環境工学)は、「光を無駄に当てないノウハウ等を身に付ける必要がある」と指摘する。福島・宮城・岩手県では、震災前から21ヵ所で植物工場が稼働し、震災後に15ヵ所が新規参入した。

全国では400ヵ所以上に広がり、可能性を秘めた分野。産業は防潮堤等の復興事業と異なり、“種”を蒔き、地道に育てる必要がある。技術向上等、息の長い取り組みが成否を分ける。震災を機に“復興道路”と位置付けられ、工事が加速した『三陸沿岸道路』も、大きなカギを握る。青森県八戸市から宮城県仙台市まで海岸近くを走る359km。昨年末までに43%が開通し、更に、この復興道路を内陸側の高速道路等と繋ぐ支援道路3ルート計225kmも32%が開通した。北東北から仙台・首都圏へと、物流の加速を齎すのは確実だ。水産業が主要産業の岩手県釜石市には、震災後、物流企業等6社が拠点を新設した。その内の1つである『福山通運』(広島県福山市)の小丸成洋社長は昨日、同市内で「物流がしっかりすることで産業が生き、地域が活性化する」と話した。『釜石湾漁業協同組合』の川畑敏幸参事は、「配送時間が短くなれば、より広い地域に鮮魚を届けることができる。道路の開通で観光客も増えれば、地元での消費も拡大する」と歓迎する。巨額の費用をかけて国や『東京電力』が進める福島第1原発の廃炉事業も、確実にビジネスチャンスを生む。40年とも言われる長期事業。被災者にとっては苦難と忍耐の40年だが、長期需要も意味する。震災前から福島県飯舘村に工場を構える精密機械製造の『菊池製作所』(東京都八王子市)は2014年夏、隣の南相馬市に工場を進出。この春から、特殊ロボットの組み立てを本格的に開始する。廃炉作業の支援を見据え、小型無人機『ドローン』等を量産する予定だ。既に地元住民の採用を始めており、「将来的には100~200人規模で地元採用できる工場にして、復興に貢献したい」と同社担当者。1万人以上の住民が避難したままの南相馬市は、「新産業が生まれ、関連企業が集まり、雇用創出に繋がれば、住民の帰還の後押しになる」と好循環を期待する。震災後の環境変化をバネに、復興を支える産業が育つ可能性が、被災地にはある。




20161108 01
■復興実感、遠い福島
東日本大震災から5年を前に、読売新聞は、岩手・宮城・福島3県の被災者500人を対象にアンケートを行った。復興の進み具合は、市町村長の認識と差があることが明らかになったが、復興度合いを点数で評価してもらった設問では、地域差が大きいことも浮かび上がった。ゆっくりではあるものの、復興に向けた動きを感じることのできる岩手・宮城の両県に比べ、福島県の被災者は復興の実感があまり湧いていない。今後の人口予測では、震災前に比べ、3県とも8割以上が「減る」と回答。復興への道程の険しさを窺わせた。

アンケートは、震災から1年・2年・3年等節目毎に行ってきたが、今回初めて、被災前に暮らしていた地域の復興がどれぐらい進んだと感じるか、被災者に10点満点で点数をつけてもらった。岩手・宮城両県では、5点を選んだ人が27%と4分の1を超え、最も多かった。「仮設住宅に比べ、住環境は良くなった」と語るのは、宮城県石巻市の無職・高橋英雄さん(76)。昨年7月に災害公営住宅(復興住宅)に入居したこともあって、5点をつけた。ただ、震災後に妻を病気で亡くし、現在は独り暮らし。「仮設住宅時代は集会所でのお茶飲み会が盛んで、住民同士が仲良くなったが、ここでは近所付き合いが無い」と零す。仮設住宅から復興住宅に移った後、「近所付き合いが無くなり寂しい」と答えた被災者は20人を超えた。岩手県大樹町の仮設住宅に住むパートの女性(55)も、1年以内に復興住宅に入居できる見込みが立ったことから5点をつけたが、「津波で浸水した地域の嵩上げ工事等が長引き、市街地に建物は未だ建っていない」と、復興は道半ばと指摘する。一方、避難指示が今も尚、9市町村で解除されていない福島県の被災者。復興の進み具合の点数は、0点が28%で最多となった。ほぼ全域が帰還困難区域に指定されたままの双葉町。震災直後から2年余り町役場ごと避難していた、埼玉県加須市で暮らす同町の幾田慎一さん(67)は、「加須で今も避難生活を送るという異常な状態を強いられたままだから」と、0点をつけた理由を説明した。避難指示が解除されたとしても、即帰還とはならない。避難指示解除準備区域に指定されている飯舘村八木沢から福島市に避難している佐藤次雄さん(75)は、「40戸あった集落で、今も村に戻る考えなのは3戸だけだ。戻るのは高齢者だけで、集落の維持は難しい」と語り、「0点をつけざるを得ない」とした。

20161108 02
■移転志向、福島45%
原発事故の為、古里から福島県内外に避難した人たちの中で、震災前に暮らしていた地域に戻らず、「移転したい」と答えた人は、これまでの調査で最も多い45%に上った。理由は「放射線が気になるから」が最も多く、61%。除染により生活圏の空間放射線量が下がっても「戻らない」と答えた人も、前回調査より21ポイント増えて67%となった。特に、小さな子を抱える親の不安が根強い。飯舘村から福島市へ避難し、2~12歳の子供3人を育てている母親(38)は、「飯舘村には(除染で出た汚染土等を詰める袋の)フレコンバッグが彼方此方に野積みされており、とても我が子を戻せない」と溜め息を吐く。浪江町から郡山市に避難中で、5ヵ月の長女がいる保険代理店業の松下徳弘さん(36)も、「浪江に戻ることは無い」と言い切る。同町では、避難指示区域内の住宅や農地等で優先的に除染が行われているが、山間部は対象外。松下さんは、「帰還が可能になっても、町内には除染されず線量が高いままの場所が必ず残ることになる」と語る。震災から1年の時点を振り返って、当時はどこに住宅を再建したかったかを聞いた設問では、43%は「被災前と同じ地域を考えていた」と答えた。だが、現時点では別の自治体での再建を検討するか、「既に再建した」と回答した人は76%に上り、移転志向がより強まっている結果となった。

20161108 03
■復興住宅「選択」増45%
岩手・宮城両県の被災者に、「被災前に暮らしていた地域は復興できるか?」と尋ねたところ、今回は375が「思う」と答え、「思わない」は41%だった。震災から3年時点で同じ質問を行った際には、「思う」が30%、「思わない」は49%。両県では、状況がやや改善したことが窺える。ただ、暮らす場所については、自力再建を諦め、復興住宅を選択する人も多い。暮らす場所について、現在の方針を尋ねると、「復興住宅」と答えた人は45%に上った。震災から1年の時点の方針を振り返ってもらうと、復興住宅は28%で、月日を重ね、大幅に増えたことがわかる。方針変更の理由は、「自前の資金が足りない為」と答えた人が23%と最も多かった。岩手県大船渡市三陸町の無職・鈴木ツマさん(87)もその1人。「庭付き一戸建てを建て直したかったが、高齢でお金も無いので、1年前から復興住宅に住み始めた」と話す。その他の理由では、「夫婦2人暮らしなので、一軒家でなくてもいいと思い直した」「集団移転を巡り、住民の意見が纏まらなかった」等と回答する人が複数いた。

■被災地の人口「減る」8割超
「震災前に住んでいた自治体の人口は将来、どのように推移するか?」という推測を聞いたところ、8割以上の被災者は「減る」と答えた。福島県では74%が「相当減る」、13%が「やや減る」と回答。「戻ると思う」は3%だけだった。楢葉町は昨年9月、全域で避難指示が解除されたが、町民の大半が帰還していない。同町からいわき市に避難中の無職・箱崎豊さん(77)は、「避難先での便利な生活にも慣れてしまった」として、帰還を躊躇っている。岩手・宮城両県の被災者も、55%が「相当減る」、29%は「やや減る」と答えた。宮城県山元町の無職の男性(66)は、「過疎化が進み、将来、町財政は破綻してしまうのでは」と懸念する。


≡読売新聞 2016年3月8日付掲載≡



スポンサーサイト

テーマ : 東日本大震災
ジャンル : 政治・経済

Categories
Profile

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR