【働きかたNext】第1部(03) ミドル“こぶ”返上――会社で尖るか、外で試すか

都内の商業ビル。昨年末、40~50代の会社員十数人が集まり、自分の夢を語り始めた。社団法人社会人材学舎(東京・港)が手掛ける『知命塾』。半年の研修と再就職支援をセットにした“大人のキャリア養成所”だ。研修で自己のキャリアを振り返り、専門スキルを洗い出す。「自分の能力の整理が狙いだったが、やはり転職しよう」。情報サービス大手で部長も経験した河合洋(50)は1月末に会社を辞め、第二の人生に踏み出す。河合の例は特殊ではない。人材大手インテリジェンスによると2014年1~6月の転職成功者は40歳超が1割と6年前の4倍の割合になった。大手企業の人員構成で“こぶ”に当たるミドル世代。特に1990年前後のバブル入社組は“お荷物世代”ともいわれる。内閣府によると管理職に就く人はこの20年で4割近く減った。ただでさえ多い世代の座る椅子が消えていく。「ならばいっそ」。そんなくすぶるミドルを中小企業が狙う。

西武信用金庫(東京・中野)の鷺宮支店長・野中利浩(47)は4年前にあるメガバンクを辞めた。「銀行時代に“雑金”と呼んでいた信金に勤めるとは思わなかったが、今が一番楽しい」。当初の年収は銀行時代の半分以下。昨夏に支店長になった野中が鷺宮支店の成績を全66店舗中、64位から20位にあげると年収は元の水準に戻った。西武信金支店長の最高年収は4000万円。メガバンクなら役員級だ。転職者はこの2~3年で約30人。理事長の落合寛司(64)は「活躍したい人は大歓迎」と話す。企業が大量採用したバブル入社組。ポストを用意しきれず人件費も高い。本来は若者や女性に経営資源を配分したい。人事担当者からはそんな本音がちらつく。ただ下手に動けば優秀なミドルや若手の遠心力に働く。再建中のシャープが検討するミドル対策はこんな具合だ。部課長など役職ごとの評価基準を一元化し、約3000人の管理職を競わせる。降格者も出し、希望退職の定期実施も視野に入る。「温情主義は続けられない」(執行役員の深堀昭吾・55)。社内は「厳しい時代が来る」(50代・技術者)と警戒する。




取材班が20~50代の働き手に聞くと、75%が「管理職になりたくない」と答えた。日本で働く部課長は146万人。本来は経営陣と現場をつなぐ扇の要だ。会社を束ねる力が弱まれば、企業の競争力も揺らぐ。昨年秋、年功色を薄めて成果反映型の賃金制度に変えたパナソニック。今年4月に“部長”と“課長”職を14年ぶりに復活させる。狙いは「強いリーダーの育成」(常務の石井純・58)だ。ミドルに明確な役割を与え、部下を率いるマネジメント力を鍛え直す。若手が見るのもミドル。「自分たちがどんな働き方を選ぶかが会社の未来を決める」(田中美保・仮名・45)。自覚と決意が芽生えれば“ミドル”は再び輝きを放つ。東大大学院教授の柳川範之(51)は「70歳近くまで働くなら“人生二毛作”を考えるべきだ」と指摘する。40代は折り返し地点。選択権はミドルにある。会社に残って尖るか、外で試すか。その緊張感が個人と会社を強くする。 《敬称略》

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日本の年代別の人口構成を見ると、大きな“こぶ”は今2つある。バブル世代など40歳代のミドル層と、60歳代のシニア層だ。定年延長が進むなか、シニアを抱えるコストをどう捻出するか。どんな仕事を割り振るか。企業は対応を迫られている。

私鉄大手・京阪電気鉄道の研修施設。「安全とは何か」。59歳のベテラン鉄道マン・角田謙二さんは研修課長として若い乗務員に安全意識の大切さを教育する。「自分の体験を伝える」と60歳を過ぎても働く考えだ。同社は2013年、定年を段階的に65歳まで延長する一方、45~55歳のミドル層の賃金上昇を抑える制度を導入した。シニア雇用でかさむ人件費を働き盛り世代の負担で賄う。問題は仕事の確保だ。年70~80人のシニアが増え、数年後には「仕事が不足する」という。国立社会保障・人口問題研究所によると、日本の60~70歳代の割合は2002年の21%から、2035年に27%まで上がる。定年延長が今後もさらに進めば、シニアを抱える企業の負担は一段と増す。定年を見直す動きもある。厨房機器販売大手のテンポスバスターズはいち早く定年を廃止した。従業員約600人の3割がシニア。年齢を問わず営業実績で評価する。入社8年目、65歳の佐藤善治さんは“バリバリシニア”の一人。競争が厳しい中、年450万円以上を稼ぐ。会社を支える今のミドル層も20年後には60歳代の“こぶ”になる。大量のシニア層が社会に生み出される際に、企業に必要とされる存在でいられるか。将来を見据えた働き方が問われている。

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非正規社員・長時間労働・ブラック企業――。働くことにまつわる昨今の話題にはあまり希望を持てないものが多い。昨年末の衆院選で勝利した安倍政権は成長戦略の一環として雇用関連の規制改革を進めるようだが、それで今の閉塞感がぬぐえるかというと、そうは期待できない。働くことの構造そのものを変えていく視点が求められている。

雇用の改革で当面進みそうなのが派遣労働者の受け入れ期限の撤廃や、働く時間ではなく仕事の成果で賃金を払ういわゆる『ホワイトカラー・エグゼンプション』の導入。いずれも経営側は「事業の競争力を高めるため」「多様な働き方に対応するため」と主張するが、労組など労働者側は「不安定な非正規労働者を増やす」「残業が増える」などと反発。労使双方が理解し合ってよりよい働き方が実現するとは言い難い状況だ。現在の雇用システムの上に、接ぎ木のように新たなものを導入しても無理があるのかもしれない。まずは今のシステムを総括する必要がある。日本の雇用の特徴は『メンバーシップ型』『内部労働市場』などであるとする分析が注目されている。労働政策研究・研修機構の浜口桂一郎氏は著書『若者と労働』で、こう指摘する。「日本の“就職”は実態としては“職”に就くことではなく、“会社”の“一員(メンバー)”になることであり、いったん“入社”して“正社員”になれば、職務や時間・空間の限定なく働かなければならない義務を負う代わりに、定年までの職業人生を年功賃金によって支える生活保障が与えられた」。『内部労働市場』も同様に、企業が終身雇用で社員を抱えるシステムを指す。このシステムは高度成長期の日本を支えた。男性正社員がモデルであり、若いうちは低い賃金でも、結婚し子供ができてというライフステージに沿って賃金は増える。会社で担当していた仕事がなくなったとしても、他の部署への配転によって雇用は続き、仕事に必要な技能・知識も基本的に社内で学べた。男性はひたすら会社の仕事にまい進すればよかった。

しかし、バブル崩壊後、企業の業績悪化や世界的な競争激化のあおりを受け、このシステムが揺らぐ。多くの人が正社員からはじき出され、正社員として残ったとしても残業が増えるなど厳しい環境に置かれる人が目立つようになった。それでもなお、日本の雇用の中心にはこのシステムが鎮座して、ひずみが広がっている。このシステム自体を変えていけば新たな地平が開ける可能性はある。改革の1つの方向は“就職”の文字通り、“職”“仕事”に就くという形に変えることだろう。「ジョブ型」(浜口氏)とも呼ばれる。人は会社に就くのではなく、仕事に就く社会をつくるのだ。営業・経理・研究開発など特定の仕事に就くために会社員となるのであれば、無制限に様々な仕事をさせられることも、突然遠隔地に転勤することもなくなるはずだ。ただ、なんらかの事情でその仕事がなくなれば、解雇は当然ともいえる。雇用の流動性は高まり、転職や職業訓練の市場は充実してくとみられる。本来の“就職”ならば、賃金は仕事の対価であり、結婚しても子供ができても増えないだろう。一方で雇用の流動性向上などで会社を超え、それぞれの仕事の市場価値が定まってくる可能性もある。そうなれば、同一労働同一賃金も夢ではない。男女が同じように稼ぎ、共働きで子育てしやすい社会が実現に近づく。派遣か正社員か、成果か時間かといった対立で時間を費やすこともなくなるかもしれない。

事業主だけが、労働者だけが有利という改革はあり得ない。簡単ことではないが、双方痛み分けの中で新しい雇用の姿を探っていくべきときだ。今の雇用を巡る閉塞感を打ち破るためには、自営業の活性化も必要だろう。“雇われる”という働き方に行き詰まったとき、別の道があるというのは心強い。1950年代までは家族従業員も合わせた自営業者の数が全就業者の半分程度を占めていた。しかし以降は減り続け今は10%程度になってしまった。いま一度、自営で生きていこうとする人たちをある程度、守り育てていく社会をつくっていくことの意義は大きい。起業・ベンチャー精神はイノベーションにつながる可能性も大きく、職住が近接した自営業は地域の活性化、コミュニティーづくりにも役立つことが期待できるからだ。 (編集委員 山口聡)


≡日本経済新聞 2015年1月4日付掲載≡


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