【震災5年・復興】(10) “職住分離”未来に繋ぐ

20161115 01
宮城県東松島市の漁師・大友康広さん(33)は、東日本大震災の津波で漁港近くの自宅を失った。港も損壊した。約300m内陸に自宅を再建したその年の暮れから、隣の漁港まで約20分のマイカー通動が始まった。「自宅から海が見えない。漁の合間に、『ちょっと網の修理でも』ということもできない」。不便で、ぎこちない感じがした。あの日から5年、加工業者が被災したことで激減した売り上げは、震災前の7割まで回復した。2014年夏から食材宅配の情報誌と手を組み、魚の販売を始めた。獲れた魚をスマートフォンで撮影し、自身の『フェイスブック』で発信する。全国の顧客と繋がっている。自宅周辺では住宅建設が増えた。いつの間にか“通勤漁師”にも慣れた。「生活スタイルも仕事の方法も変わったが、少しずつやっていける自信がついてきた」と大友さんは言う。岩手県宮古市で唯1人の櫂職人である三浦勝広さん(74)も2年近く、高台の自宅から車で港まで通い続ける。自宅兼作業場を失い、娘たちは安全な家を望んだ。後継者はいない。“廃業”の2文字が頭を過ったが、漁協から入った櫂30本の注文で思い留まった。ウニ漁等の微妙な操船に櫂を使う漁師が未だいる。「俺の仕事は復興の役に立つ」。自宅跡地にプレハブ小屋を設け、仕事を再開させた。念願の新しい作業場が今年、完成した。仕事始めは明日を予定している。

宅地と商業地等を内陸と沿岸に分ける“職住分離”の空間は、1000年に1度とも言われる津波も想定した、謂わば未来を考えた街だ。そこには願いがある。岩手県大船渡市三陸町では昨夏、仮設商店街の9店が沿岸部で再スタートを切った。理容師の葛西祥也さん(43)もその1人。2012年11月に再建した高台の自宅から店に通う。沿岸部にあった嘗ての自宅兼店舗と違い、移動の手間、2軒分の光熱費もかかる。それでも自宅再建後、7回の津波注意報が出る度に“逃げなくていい暮らし”を噛み締めた。津波で自宅にいた父を失った。多くの遺族が、新しい街に託した願いを忘れていない。「二度と家族や家を失いたくない。この暮らし方を後世に繋いでいく」。被災者たちは、深く傷付いた故郷の土地を思い続けながら、暮らし方・繋がり方を変えていく。2万人余の町民が45都道府県・530市区町村に散らばる福島県浪江町。避難町民で作る『まちづくりNPO新町なみえ』運営のフェイスブックには、各地の町民から連日、近況や集会等の情報が寄せられる。同県郡山市に避難する理事長の神長倉豊隆さん(65)は言う。「其々が避難先で頑張っているとわかるから、自分も頑張れる」。岩手県陸前高田市の畳職人・菊池純一さん(58)は、流された自宅の跡地周辺を撮影し続ける。津波で亡くなった長男の勇輝さん(当時25)ら家族7人が暮らした大切な場所だ。写真は1000枚超。大量の土砂が運び込まれ、嵩上げが進んでいく様子も記録した。昨春、その大切な土地にとうとう土砂が盛られた。「自分の歩みが消されてしまうような思いがした」。完成すれば、圧縮された厚み十数mの盛り土の下に埋もれる。その上に、誰かの住宅か商店が建てられる。それでも菊池さんは、住民たちと街作りの勉強会を開く。内陸部の土地にプレハブの畳店を再開した。自宅は跡地から1km離れた高台に再建する。願いがあるのだ。「勇輝たちに見せたい。震災前より良くなった街を」――。




20161115 02
■巨大津波、対策進む
南海トラフ巨大地震で津波被害が想定される14都県・139市町村へのアンケートでは、津波避難タワーの建設や公共施設の高台移転等の対策が進んでいる現状が明らかになった。今後、起こり得る地震に対し、東日本大震災を教訓にしようとする取り組みは各地で行われているが、課題も多い。

高知県黒潮町の入野海岸西端に位置する万行地区には、2基の津波避難タワーが並ぶ。津波による浸水想定が深さ4mだった2010年に高さ8mのタワーを整備したが、東日本大震災後の新たな想定は9.5mになった。町は2014年、高さ14mの新タワーを直ぐ隣に建設した。町は津波映像を研究し、新タワーは大型漁船がぶつかっても耐えられるよう、支柱の直径を2倍にして、中にモルタルを流し込んで強化した。事業費は、旧タワーの約7倍に当たる約2億400万円。万行地区の高台は、中心部から約2km先で、高齢者だと徒歩20~30分かかる為、300人が収容できる新タワーは“命綱”だ。昭和南海地震(1946年)でリヤカーに乗って逃げた区長の澳本剛さん(74)は、「『津波が来たら諦める』と言っていたお年寄りが、新しいタワーを見て避難訓練に参加するようになった」と語る。津波は最短5分で到達し、最大8.6mと試算した静岡県吉田町は震災後、“歩道橋型”のタワーを5基建設した。一般に、住宅地では用地が問題になるが、道路上の為、取得が容易で、全国から100件近い観察があった。同町防災課の大石悦正課長は、「問い合わせが多く、今後、各地に広がる可能性はある」と話す。アンケートでは、整備済みは212基で、事業費は計約250億円に上った。

人工高台は18ヵ所整備された。老朽化すれば修繕が必要になる避難タワーに対し、維持管理費の安さで注目されるのが、“命山”と呼ばれる盛り土による人工高台だ。静岡県袋井市は、江戸時代に高潮対策で築かれ、今も残る命山をヒントに、震災翌年から整備に着手した。来年3月までに、海抜10mほどの命山を12億円かけて計4ヵ所造る。この内、2ヵ所は完成した。浜松市は、遠州灘海浜公園に約1000人が避難できる高さ約10mの“津波避難マウンド”を、2億6700万円かけて整備した。同市は、「普段は市民の憩いの場として利用できる。タワーに比べ初期費用は高いが、長期でみれば維持管理費は安い」とする。公共施設の高台移転も進む。「移転済み」と回答があった55施設の内、消防関連が24施設、幼稚園・保育園が20施設を占めた。他に、小中学校4、高齢者施設と自治体庁舎が各2等。三重県鳥羽市では、市立保育所2ヵ所を高台に移した。以前から移転計画があった『安楽島保育所』は震災後、海抜4m地点の予定地を変更。昨年、同38mの高台に移転した。中谷千穂美所長(58)は、「地震の混乱の中で園児を逃がすのは難しい。ここなら安心」と話す。海岸近くにあった『相差保育所』(海抜3m)も、約4km離れた元小学校(同33m)の校舎を改修し、2013年に仮移転した。和歌山県すさみ町は、町役場等がある中心部の浸水の深さが5~10mと想定された為、保育所・消防署・病院等5施設を、約2km内陸の紀勢自動車道すさみインターチェンジ近くの造成地(2ha)に移転させる計画だ。移転計画は、昨年4月に行われた町長選の争点にもなり、推進派が僅差で勝利した。岩田勉町長は、「造成費用は、別の工事で出た残土を使って抑え、住民も移転の必要性を理解してくれた為、用地取得はスムーズにいった」と話す。

■事前移転、費用で難航
被災地で復興の象徴となった住宅の集団移転。だが、災害前の移転は難しい。高知県黒潮町で15~20mの津波が想定される出口地区は、2013年から集団での高台移転を検討した。町は翌2014年12月、住民を交えた5回目の勉強会で「現段階では困難」と表明した。県によると、国の『防災集団移転促進事業(防集)』を利用し、50戸を高台に移す場合、事業費は17億~19億円。うち、国の補助は半分程度で、町の負担は8億~9億円に上る。人口約1万2000人の町にとっては、1年分の税収に相当する。住民も各世帯で700万~1000万円の負担が必要とされた。同町情報防災課の松本敏郎課長は、「高台移転は最も効果的な防災対策だと思うが、現状では無理」とする。高知県等9県知事会議は、財政負担の軽減を国に要望している。震災後に人口が1割近く減った徳島県美波町の由岐湾内地区(約1400人)では、自主防災組織のメンバーが、災害後の復興の道筋を予め決めておく“事前復興”の計画を練る。津波想定では地区が大部分浸水するとされたこともあり、若者が流出した。危機感を募らせた自主防災組織3団体の有志は、チームを結成。昨年には、徳島大学等と共同で、海抜20mの水田(約8200㎡)に住宅15戸と集会所を造る案を募るコンペを開催した。若者らが事前に高台に移転し、災害後は親等を受け入れる構想で、造成費等の課題の洗い出しをした。同地区自主防災会の酒井勝利会長(71)は、「安心して暮らせる地域を作るのが役目。将来像を事前に考えておけば、津波が来ても古里を復興できる」と強調した。

■所有者不明の土地続出
東日本大震災で復興事業の壁となったのが、用地取得の遅れだ。集団移転の予定地等を買い取ろうとしても、相続登記がされていない等、所有者不明の土地が続出し、手続きが進まなかった為だ。宮城県土木部によると、復興道路や防潮堤の予定地の内、未取得は約5400ヵ所(43%)に上る。登記上の所有者の内、約600人は死亡しており、平均8人程度の相続人がいるとみられる。この為、昨年12月末現在で8500人程度と用地交渉が必要な状況となっている。この問題は、南海トラフ巨大地震や首都直下地震で、何倍もの規模で再現される可能性がある。『東京財団』の研究によると、「相続登記を行わない山林等は今後、全国で約300万ha以上になる恐れがある」という。利用されない土地について、コストをかけてまで登記しないケースが増える為で、人口が減少すれば都市部や住宅地でも起きることが懸念される。同財団の吉原祥子研究員は、「空き家問題も地方で始まったが、既に都市部でも起きている。登記をしないことが、大災害時という一番困った時に、被災者という最も困っている人を、避難生活の長期化という形で苦しめることになる。国は対策を急ぐべきだ」と指摘する。

■首都直下地震、耐震化が課題
今後30年以内の発生確率が“70%”とされる首都直下地震の場合は、耐震化の対策が課題となっている。最悪の被害想定は、約61万棟が全壊・焼失し、約2万3000人が犠牲となる。国は2008年に、79%だった住宅耐震化率を、2020年までに95%に引き上げる目標を立てている。しかし、国土交通省が昨年纏めた2013年の住宅耐震化率は82%に留まり、2008年から5年間で3ポイントしか増えていない。耐震改修や建て替えにかかる高額な費用が、高齢者世帯等を中心に足枷になっているとみられ、約900万戸で耐震性が不足している。世界各地の災害現場を訪れた防災危機管理アドバイザーの山村武彦氏は、「阪神大震災では、脆弱な建物が被害を甚大にした」と指摘。「耐震改修や建て替えの助成額を増やすとか、国や自治体が建物を買い取って、災害に強い集合住宅に造り替えた上で安く貸し出す等、思い切った対策が必要だ」と訴える。 =おわり


≡読売新聞 2016年3月10日付掲載≡



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テーマ : 東日本大震災
ジャンル : 政治・経済

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