【カオスを飲み干せ!挑発的ニッポン革命計画】(87) アメリカを覆う“アンチエスタブリッシュメント”がドナルド・トランプを勝たせた

最後の最後まで「どちらに転ぶかわからない」と報じられたアメリカ大統領選。“不人気対決”等と揶揄されましたが、政治家としての経験も実力もドナルド・トランプとは比べものにならない百戦錬磨のヒラリー・クリントンは何故、まさかの敗戦を喫するに至ったのでしょうか? 勿論、原因は1つではありません。「単純に彼女の物言いや振る舞いが好きじゃない」という人もいたでしょうし、国務長官時代のメール問題に対する不信感もあったでしょう。一部に根強く残る女性蔑視もあるでしょう。ただ、最も強く影響を及ぼしたことは何かと言えば、僕は“アンチエスタブリッシュメント”の一言に尽きると思います。今回の選挙戦報道では、この言葉が実によく使われました。といっても、ベトナム反戦運動のような先進的な“反体制”ではなく、兎に角、既存の権威・既存の秩序の側にいる人間や組織を単純に敵対視するというのが、現代におけるアンチエスタブリッシュメントです。

政治のプロであればあるほど、何を言っても忌み嫌われてしまう…。元ファーストレディーで、オバマ政権時代には国務長官も務めたヒラリーは、初の女性大統領候補であっても“エスタブリッシュメントのど真ん中”と見られてしまったのです。日本にいるとあまり実感できませんが、アメリカ社会における格差問題は深刻です。多くの人が未来への希望も持てずに取り残され、「もう少し再分配をきちんとしてくれ」という建設的な議論を飛び越えて、「今の社会構造は自分を排除していて、一部の人間がその分を横取りしている」という強烈な被害者意識を持っている。最早、失うものが無い(と感じている)人々が、“破壊的な変化”を求めて、アンチエスタブリッシュメント化しているという構図です。ドラスティックな変化を求める人たちは、右側ではトランプを、左側では民主党予備選でヒラリーに敗れたバーニー・サンダースを強く支持しました。トランプは兎に角、“既存の秩序”を壊すことを約束し続けた。サンダースも、敗色濃厚になった予備選の後半に国際金融や『ウォール街』を批判するあまり、陰謀論めいた主張をかなり強硬にブチかました。事実に基づかない話であっても、多くの人々はそこに望みを託したのです。




こうしたムーブメントがここまで拡大したのも、一般市民がソーシャルメディアというツールを得て、デマや偏り過ぎた主張を検証も無しに拡散できるようになったからです。キャッチコピーや見出しの強烈さとは裏腹に、その多くはよく読めば論理破綻しているのですが、個人個人の中で事実よりも“気持ちよさ”が勝ってしまうと、その“事実ではないもの”がいつの間にか既成事実化していく。こうした潮流は“ポストファクトの時代”とも言われ、アメリカのみならず、ヨーロッパ各国でも極右政党が躍進する為の工ンジンとなっていますが、ある意味、ヒラリー陣営はそれに上手く対応し切れなかったという側面もあります。トランプに1票を投じた人々の肥大化したパラノイアは、政権運営に有形無形のプレッシャーをかけ続ける筈です。トランプ大統領は、この“魔物”に耐えられるのか。僕には、あまり明るい未来は見えません。


Morley Robertson 1963年、ニューヨーク生まれ。父はアメリカ人、母は日本人。東京大学理科一類に日本語受験で現役合格するも3ヵ月で中退し、ハーバード大学で電子音楽を学ぶ。卒業後はミュージシャン・国際ジャーナリスト・ラジオDJとして活動。現在、『NEWSザップ!』(BSスカパー!)・『モーリー・ロバートソンチャンネル』(ニコニコ生放送)・『Morley Robertson Show』(Block.FM)・『所さん!大変ですよ』(NHK総合テレビ)・『ユアタイム~あなたの時間~』(フジテレビ系)等に出演中。


キャプチャ  2016年11月28日号掲載



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テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

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