【カオスを飲み干せ!挑発的ニッポン革命計画】(90) ドナルド・トランプ大統領を生んだアメリカ社会の深刻過ぎる“知的格差”

「ここまで落ちるのか」――。アメリカ大統領選の取材で訪れたアメリカの街・人々・空気に接した僕は、そんな思いを抱かざるを得ませんでした。約20年ぶりに長期滞在したニューヨークの街は、あまりにも疲弊していました。五番街の有名デパート前ですら、尿の臭いが立ち込め、タクシーのシートは破れて剥き出しになり、レストランのメニューも触っただけで手がベトベトになる。ボロボロのインフラと、それを当たり前のこととして放置する人々。「昔からニューヨークなんてそんな街だよ」と嗤う“アメリカ通”もいるかもしれませんが、僕は肌感覚として、アメリカ社会全体が落ちるところまで落ちていることを痛感しました。経済格差の問題はどの国でも深刻ですが、大統領選取材で様々な立場の人にインタビューして感じたのは、アメリカ社会に横たわる甚だしいほどの“知的格差”です。たとえ若くても、賢い人はとてつもなく頭がキレる。物凄いスピードで、高尚且つ洗練された議論をする。日本では中々お目にかかれないレベルのインテリが社会の上層部にいることは、間違いありません。

しかし一方で、超がつくほどの教育格差は、中間層をごっそり押し下げた。“押し潰されたピラミッドの下”に位置する人々の多くは、教育機会に恵まれず、嘗てのナチス・旧ソビエト連邦・中国共産党がやってきたプロパガンダの焼き直しのようなドナルド・トランプの陰謀論にも素直にハマってしまい、それを『フェイスブック』等で広めていった訳です。彼を応援したメディアも、この状況に見事に乗っかりました。トランプが体現するアンチエスタブリッシュメント思想だけを信じ、デマ記事にも検証せずに飛びつく人々に対し、報道とも呼べないような“可燃性の高いネタ”を常に提供し続けたのです。アメリカが強かった頃の中産階級――言い換えれば、“常識人”であれば殆ど誰も引っかからないような稚拙なキャンペーンの真偽を検証できない人たちが相当数いたことは、「トランプが6220万票も獲得した」という事実が何よりも物語っています(そのトランプが「強いアメリカを取り戻す!」と豪語している訳ですが…)。この歪んだ状況がここまで放置されてきたのは、知的格差があまりにも大き過ぎて、“強者と弱者”が其々別世界に住んで、交わることが無かったからでしょう。




例えば日本でも、左右両陣営に“信じたいものしか見ない人たち”は一定数いますが、良識的な一部の知識層が、その怪しい言説を丁寧に潰していくことが多い。インターネット上の一見、不毛な論争も、それを見ている多くの人たちが冷静になるという面では、意味があるのです。結果として、日本のマジョリティーは真ん中に寄り、インテリ層も普通の人も、圧縮された金魚鉢のような社会に共存している。自然と知的レベルも真ん中に吸い寄せられる傾向があります。僕はこのような日本社会に対し、「“飛び抜けた才能”が生まれない欠陥がある」と感じていますが、現在のアメリカ社会はその真逆で、全く圧縮されない知的格差が、収拾のつかないレベルになってしまっている。この悲惨な状況を改善するには、1世代どころか2世代・3世代と長い時間がかかるかもしれません。


Morley Robertson 1963年、ニューヨーク生まれ。父はアメリカ人、母は日本人。東京大学理科一類に日本語受験で現役合格するも3ヵ月で中退し、ハーバード大学で電子音楽を学ぶ。卒業後はミュージシャン・国際ジャーナリスト・ラジオDJとして活動。現在、『NEWSザップ!』(BSスカパー!)・『モーリー・ロバートソンチャンネル』(ニコニコ生放送)・『Morley Robertson Show』(Block.FM)・『所さん!大変ですよ』(NHK総合テレビ)・『ユアタイム~あなたの時間~』(フジテレビ系)等に出演中。


キャプチャ  2016年12月19日号掲載



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テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

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