【カオスを飲み干せ!挑発的ニッポン革命計画】(99) 日本メディアのトランプ記事が伝えないこれだけのこと

「もどかしい」――。ドナルド・トランプ大統領に関する日本のマスメディアの報道を見るにつけ、そんな思いが募ります。例えば今月1日、カリフォルニア大学(以下“UC”)バークレー校で、トランプを支持する識者に対する大規模な抗議デモが発生し、一部が暴徒化した件。朝日新聞デジタルは同月3日、『反トランプデモが暴徒化、米大学閉鎖 講演会場に花火も』との見出しで、次のように伝えています。「【前略】トランプ大統領を支持する英国人コメンテーターが講演することに反対する若者たちのデモが暴徒化し、大学が閉鎖された。【中略】講演する予定だったのは、保守的なニュースサイト“ブライトバートニュース”のミロ・イアノポウロス氏。数千人が集まったデモは、当初は平和的だった。ところが黒装束姿の数十人が加わり、調演会場に花火などを投げつけたり、窓ガラスを割ったりした。講演は中止された。【後略】」。…間違ったことは書かれていません。しかし、逐語訳過ぎて、物事のニュアンスや事件の背後関係が全くわからない。

先ず、講演する予定だったイギリス人コメンテーターの名前ですが、ギリシャ系イギリス人なので、“ミロ”ではなく“マイロ・ヤノブルス”(※或いはヤノポロス)という発音になります。既に出ている他の日本語記事でも、そう表記されています。彼はトランプを強力に後押しする極右勢カ『Alt-right』のアイドル的存在で、ブライトバートニュースは“保守的”どころか、あらゆるマイノリティーや女性への差別を隠そうともしない“極右”なニュースサイトです。更に言えば、今回の講演会はマイロが2015年末から続けてきた“デンジャラスファゴット(危険なオカマツアー)”なる全米行脚のファイナル。一方、UCバークレー校は言わずと知れたリベラルの総本山。そしてその5日前には、トランプが一部イスラム圏国からの入国禁止令を出したばかり…と、どこから見ても炎上する要素満載でした。また、暴徒化した黒装束の正体も記事ではわかりません。彼らは『ブラックブロック』といい、元は1980年代のヨーロッパで生まれたアナーキスト集団。トランプの大統領就任日にも彼方此方で暴徒化していたように、要は古くからの左翼活動家が“トランプ祭り”に便乗して暴れているという図式です。これを見て「反トランプデモが暴徒化した」というのは、あまりに乱暴過ぎます。




今回は偶々朝日の記事を例示しましたが、基本的にはどの媒体も同じです。日本の多くの報道では、コンテクスト(文脈)がごっそり抜け落ち、本当の意味でのトランプ政権の深刻さが伝わらず、「トランプも反対派もどっちもどっちだな」といった誤解だけを生んでしまいます。「メディアの努力が足りない」等と一刀両断にするつもりはありません。文字数等の問題もあるでしょう。しかし、「日本メディアの薄い記事や、背後関係を全く読み取ってくれない機械翻訳に頼るばかりでは、英語圏の真面な情報は入ってこない」ということです。それに気付きもせず、「これって日本で言えば○○と同じだよね」等と議論する“日本に置き換える病”の空虚さよ…。僕のこのもどかしい気持ち、少しは伝わるでしょうか?


Morley Robertson 1963年、ニューヨーク生まれ。父はアメリカ人、母は日本人。東京大学理科一類に日本語受験で現役合格するも3ヵ月で中退し、ハーバード大学で電子音楽を学ぶ。卒業後はミュージシャン・国際ジャーナリスト・ラジオDJとして活動。現在、『NEWSザップ!』(BSスカパー!)・『モーリー・ロバートソンチャンネル』(ニコニコ生放送)・『Morley Robertson Show』(Block.FM)・『所さん!大変ですよ』(NHK総合テレビ)・『ユアタイム~あなたの時間~』(フジテレビ系)等に出演中。


キャプチャ  2017年3月6日号掲載
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