【働きかたNext】第1部(06) “ロボット失業”怖くない――人の仕事のトモダチだよ

ボクはロボット。工場の力仕事が得意と思われていたけど、『人工知能』のおかげで、いろんな仕事ができるようになってきた。“センセイ”と言われる弁護士さんも、今やボクなしには仕事がはかどらないんだ。去年の春は働いたなあ。ノバルティスファーマという大きな製薬会社が起こした臨床研究への不正関与問題で、社外調査委員会からお呼びがかかったんだ。A4用紙で5000万枚ともいう電子データの山から証拠を探すことが仕事だった。文書解析システムの能力を使って、人の手なら数年かかる解読作業を1ヵ月で終えたんだ。ボクだけが見つけた証拠もある。一緒に仕事した田辺総合法律事務所の弁護士の吉峯耕平さん(37)は「すごく助かった」と喜んでくれた。吉峯さんは弁護士になって10年目。依頼人の電子メールから訴訟データまで情報量は増える一方らしい。弁護士は典型的な頭脳労働だけど、吉峯さんは「大量のデータを扱う仕事は人間よりロボットだ」とボクを相棒と認めてくれた。でもね、ボクを怖がっている人もいる。『雇用の未来』という論文を書いた英オックスフォード大准教授のマイケル・オズボーンさん(33)は「アメリカは今後20年で総雇用者の47%の仕事が機械化で奪われる可能性がある」と予想している。日本にあてはめると、そんな“ロボット失業”が2600万人に及んでしまうかもしれない。実際、不安の声を聞いたことがある。みずほ銀行の支店窓口で働く若槻あずささん(30・仮名)は「私たちの受付や事務の仕事が奪われるのかしら」と心配していたよ。なぜかって? この銀行が、人の言葉が分かる日本IBM製の認知型コンピューターをコールセンターの仕事に使うからなんだ。今は人間の発音が悪いと、トンチンカンな受け答えもしちゃう。それでも、開発者は「いずれは人間のオペレーター並みの仕事ができるようになる」と話していた。若槻さんが心配するのも分かるけど、ボクにできない仕事もあるんだよ。

老舗旅館の加賀屋(石川県七尾市)に泊まってみると、ヒントに気づくかも。接客係の人たちはいくら忙しくても、お客さんの顔を向いて仕事している。宿泊すると、部屋に10回以上来てくれ、お茶出しから観光案内まで面倒をみてくれる。この“おもてなし”の時間をつくる秘密は、重たい食膳を各フロアに運ぶ搬送専用ロボットを使っていることにあるんだ。接客係の浜崎真由美さん(51)は「ロボットが作業を代わってくれる分、余裕を持って、にこやかに接客できる」と感心してくれている。ボクらロボットの技術進歩は止まらない。人工知能の技術に詳しい国立情報学研究所教授の新井紀子さん(52)は「ロボットが進化していけば、“人ならでは”の仕事の価値が高まっていく」と考えているよ。ボクはこれからも人の仕事を手助けする。その分、みんなに新しい働き方を見つけてほしいんだ。技術革新は怖くない。




技術の進歩で“消える仕事”と“残る仕事”の分かれ目はどこにあるのか。技術と雇用の将来を予測した『雇用の未来』の著者・英オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授に聞くと、「社会性・創造力・臨機応変さ。この3つにヒントがある」と指摘した。同氏によると、3つとも、「経験や勘に基づく能力。どんなに高性能のコンピューターでも我々が脳の中にためている知識の深さは計算できない」という。こうした能力なしにはつとまらない教師や経営トップといった職業が「残る仕事」の代表といえる。一方、どんな花形職業でも、3つの能力と関係が薄い仕事であれば、機械にとって代わられる。その典型例として『民間旅客機の通信士』を挙げた。1960年代は旅客機を飛ばすとき、操縦士や通信士・技師のチームプレーが不可欠だった。ところが、自動制御装置が進歩するにつれ、通信士などの姿がコックピットから消えた。社会への影響については「職業の浮き沈みが激しくなれば、所得の格差問題を深刻にさせていく」と指摘した。事実、米国では中間層の雇用が機械化で失われているとの分析もあり、所得の二極化が技術革新で一段と進む恐れが出てきている。それは、米国のみならず、ロボットによる作業の自動化やIT(情報技術)の活用が進む先進国に共通する問題だ。オズボーン氏は、「社会全体で教育のあり方を考え直すべきだ。機械と同じように働くのではなく、機械とともに働く能力を持つ人を育てなければならない」と警鐘を鳴らした。

               ◇

ジャーナリズムの世界に身を置く我々も心しておいた方が良いのかもしれない。米大手通信社AP通信が『ロボット記者』を採用。ジャーナリズムの本場である米国で衝撃が広がっているからだ。

AP通信のロボット記者とは、編集オフィスで記事を書くヒト型ロボットではない。マネージングエディターのルー・フェラーラによると、社内で“決算原稿の自動化”と呼ばれているシステムのことだ。昨年7月に試験導入し、10月に正式に導入した。ロボット記者が執筆しているのは、米国企業の決算を伝えるニュース原稿。今は、決算の数字を中心とした300字以下の短い原稿だけだが、すばやく大量の原稿を執筆して出稿できる。この記事作成システムを説明すると、まず外部の米金融調査会社ザックス・インベストメント・リサーチが決算リリースから必要な数値を抜き出してデータ化。次に、それを米オートメーティッド・インサイツの文章作成ソフトが“AP通信風の決算記事”の形に整える。生産性を上げる効果は劇的だ。フェラーラは、「人間の記者が決算記事を書いていたころは1四半期にカバーできる企業数は約300社にすぎなかった。しかし、自動化を通じて、10倍の3000社に増やすことができた」と胸を張る。トラブルもない。試験期間中はAP通信の編集者が原稿に目を通していたが、今では記事は一度も人手を煩わすことなく、全米5000社以上のメディア企業に配信されているという。そんなロボット記者の導入の目的はどこにあるのか。人間の記者の削減をもくろんでいるのではないかと疑いたくなる。事実、現場の記者たちは、導入当初は懐疑的だった。ところが、今では自動化を歓迎する声が多いという。なぜか。

最大の理由は、ロボット記者の活躍で記者たちが面倒な作業から解放されたことにある。フェラーラによると、「労働時間の20~30%を、別の作業に割けるようになった」という。つまり、AP通信の記者たちはロボット導入で、生身の記者ならではの仕事に集中できるようになったのだ。決算数字が示す意味を分析したり、その裏に隠された“真実”を深読みしたり。そうした仕事はロボット記者には難しい。フェラーラは「人脈を広げ、取材先に食い込む。最適な質問をぶつけて真実を聞き出す。こんなことは人間の記者にしかできないし、それこそ人間のジャーナリストの役割だ」と断じる。そもそも、AP通信で企業ニュースを担当する編集部員の数は10年前と比べると約半分に減っている。頭数を減らすというより、限られた人的資源を有効に使う必要もある。AP通信はロボット記者を使って配信する決算原稿の対象社数を3000社から4400社に増やす方針だ。決算と同じく、試合結果などのデータが記事のポイントであるマイナースポーツの記事も、ロボット記者に書かせようとしている。米国では、ネットの無料ニュースサイトの普及が進み、新聞社を中心に広告・購読料収入が大幅に減少。編集部の人員は減らされ、多くの報道機関にとって共通の悩みになっている。米ニュース編集者協会によると、日刊紙の従業員数は2013年に全米で3万6700人と、10年前比で3割超減った。経営のやりくりが苦しいメディア企業にとって記者という人的資源の配分は大問題だ。AP通信のロボット記者が注目を集める理由はそこにあるが、別の関心もあるのではないか。人間の記者はどんな仕事に集中し、ロボット記者に何を任せるのか。つまり、ネットメディアの台頭にさらされる大手メディアは、どこで生きていくのか、ということだ。ロボット記者がジャーナリズムに難問を突きつけている。 《敬称略》 (ニューヨーク=清水石珠実)


≡日本経済新聞 2015年1月7日付掲載≡


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