【カオスを飲み干せ!挑発的ニッポン革命計画】(106) あのドクちゃんが36歳で広島に…知られざる国内事情とは?

“ベトちゃんドクちゃん”で知られるグエン・ドクさんが、今月から広島国際大学の客員教授に就任。平和や命の大切さ等を講義することになったそうです。現在36歳となったドクさんが何故、広島で“平和や命”を語ることにしたのか――。その本心は知る由もありませんが、彼の母国・ベトナムの国内事情や政治的背景は、殊の外複雑です。ドクさんは、兄のベトさんと下半身が繋がった“結合双生児”として生まれ、後に分離手術に成功(※ベトさんは2007年に死去)。これは、ベトナム戦争でアメリカ軍が大量散布した枯れ葉剤の影響とされています。誤解を恐れずに言えば、“ベトちゃんドクちゃん” はアメリカの非人道的行為の被害者として、社会主義国ベトナムの反米プロパガンダの象徴的存在となりました。尤も、ベトナム国内において反米機運が主流派を占めていた時代までは、ですが。

この20年、ベトナム社会は大きく変容しました。1995年の米越国交正常化により、両国は急接近。出生率の凄まじい上昇で、“戦後生まれ”が既に多数派となった現在のベトナムでは、若者らは反米どころかアメリカへの憧れを隠そうともしません。首都・ホーチミンの『マクドナルド』や『スターバックス』には行列ができ、ベトナム戦争で使用された枯葉剤の製造メーカーである『モンサント』でさえ、ベトナムの農業ビジネスに深く食い込んでいます。極めつきは昨年5月、ベトナム戦争終結時から続いたアメリカによる武器禁輸措置が全面解除されたこと。それまでロシア頼みだった軍事分野でも、ベトナムはアメリカと協力関係を築くことになった訳です。その背景には、膨張を続ける中国の脅威があります。1979年の中越戦争以降、2国間では南シナ海の領有権を巡り、何度も軍事衝突が発生。近年は海底油田の開発も絡み、緊張は高まる一方です。国民の反中感情も深刻で、若者を中心とした反中デモが頻繁に起きています。嘗ての敵国であるアメリカと組んででも、“今そこにある危機=中国”に対抗したい。そんな思惑を持つベトナム政府は、アメリカ政府に枯葉剤被害者への補償を求めこそすれ、声高に謝罪を要求するようなことはしていません。「自国の地政学的立場を考えれば、超現実路線(※米越連携による対中戦略)を取るしかない」との判断でしょう。




反米から親米・反中へ。こうした母国の変化は、ドクさんの“立ち位置”にも少なからす影響を与えた筈です。戦争の凄惨さを知らぬまま急速な経済発展に沸く戦後世代は、既に国民の過半数を占め、反米的な主張には馴染まない。そして政府も、嘗てのように反米プロパガンダを展開することはない――。昨秋、広島を初訪問したベトさんは、こう発言しています。「原爆と枯れ葉剤の被害は、どちらも戦争によるもので、同じ痛みを共有しています。世界では今も戦争が繰り広げられていますが、争いを止め、化学兵器や核兵器は廃絶しなければなりません」。この言葉通り、彼は純粋に広島で戦争の悲惨さを語りたいのでしょう。ただ、こうした母国の“変化”も、彼の人生の選択に何かしらの影響を与えたのではないか…。僕にはそう思えてなりません。


Morley Robertson 1963年、ニューヨーク生まれ。父はアメリカ人、母は日本人。東京大学理科一類に日本語受験で現役合格するも3ヵ月で中退し、ハーバード大学で電子音楽を学ぶ。卒業後はミュージシャン・国際ジャーナリスト・ラジオDJとして活動。現在、『NEWSザップ!』(BSスカパー!)・『モーリー・ロバートソンチャンネル』(ニコニコ生放送)・『Morley Robertson Show』(Block.FM)・『所さん!大変ですよ』(NHK総合テレビ)・『ユアタイム~あなたの時間~』(フジテレビ系)等に出演中。


キャプチャ  2017年4月24日号掲載




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