【カオスを飲み干せ!挑発的ニッポン革命計画】(115) まさかの『パリ協定』離脱&カタール断交で見えた仁義なきトランプ後の世界

アメリカが長年かけて作り上げてきた、自国を軸としたデリケートな世界秩序を突然放り投げ、一斉に手を引いてしまったらどうなるか――。就任以来、ドナルド・トランプ大統領はそんな危ない“実験”を続けていますが、どうやら結論は「一度壊れた世界は、もう元には戻らない」ということになりそうです。例えば6月1日、トランプ大統領は、国際的な地球温暖化対策の枠組みである『パリ協定』からアメリカが離脱すると表明しました。抑々、この協定は、バラク・オバマ前大統領が主導して中国を巻き込み、発効したもの。駐中国アメリカ代理大使は、この決定に抗議し、辞任を表明しています。また、6月5日からサウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)等7ヵ国がカタールに国交断絶を宣言した問題でも、アメリカの振る舞いは目を覆いたくなるほど酷いものでした。トランプ大統領がツイッターでサウジ側を強く支持する発言をした傍から、国防総省は「カタールの長年に及ぶ駐留アメリカ軍への支援と、地域安全保障への尽力に感謝する」と真逆の見解を表明したのです。この“断交事件”の背景は複雑です。事の発端は、カタールの首長がトランプ政権への批判やイランへの接近を臭わせる発言をし、これにサウジが怒ったというものでした。ところが、『CNN』等の報道によれば、このカタール首長の発言自体が、ロシアのハッカーがカタールの国営通信社のシステムに侵入して発信させた“フェイクニュース”だったというのです。今回の断交に関して、ロシアが実際にどれほどの影響を及ぼしたのかは闇の中です。ただ、中東問題に関しては、これまでもあらゆるガセ情報が流され続けてきました。それに(少なくとも表向きは)動揺せず、泰然自若と構えることこそがアメリカのプレゼンスの肝であり、“賢者の選択”だった筈です。国防総省のカタールに対するコメントは、こうした流れを踏まえたものでした。

ところが、トランプはこうした戦略を放り投げ、(ロシアの戦略に騙されたか、わかっていても乗っかった)サウジ側に露骨に肩入れしてしまった。1人の大統領によって、アメリカの外交が素人化してしまったのです。アメリカという国が世界各地で莫大な投資を行い、時に汚い工作や残虐行為に手を染めつつも、ある種の安定に寄与してきたのは紛れもない事実です。その歴史的経緯を踏まえると、トランプのあまりに粗暴なやり方は、世界各国のアメリカに対する信頼――特に、アメリカの発信する理念や道義に対する信頼を間違いなく破壊していく。今後、アメリカは“世界の基軸”の地位からは滑り落ち、その権益や影響力は極めて限定的になっていくでしょう。そして、これまでアメリカが“世界の警察”として振る舞うことで微妙な安定を保ってきた中東地域等では、ロシアや中国がその隙間に入り込んでくる筈です。カタール問題は、“トランプ後の世界”のカオスぶりを示唆しているような気がしてなりません。こうした傾向は北朝鮮問題でも同様です。トランプ政権は、核ミサイル開発を進める北朝鮮にあれだけ脅しをかけたものの、結局は何もできませんでした。少し視点を変えると、平和主義の日本人には信じたくない現実が見えてきます。それは、ロシアや中国は「北朝鮮が核保有してもいい」と考えているということです。「北朝鮮問題は、“アメリカの影響力減退=世界の多極化”を望むロシアや中国の戦略の為に利用されている」と言っても差し支えないでしょう。何故なら、北朝鮮の核保有が現実となれば、もうアメリカはおいそれと東アジアの問題に手出しできなくなるからです。中国は対北朝鮮制裁に一向に本気にならず、ロシアも貿易や軍事技術の供与を通じて北朝鮮を“下支え”していますが、その背景には“アメリカ排除”という共通の利害がある訳です(※トランプの性急な言動が、図らずもそれを後押ししてしまったとも言えます)。




アジアを捨てたアメリカは、大西洋側だけを向いてイギリスとの同盟を兎に角堅持する一方、フランスやドイツとは一定の距離を保つ。こうして『北大西洋条約機構(NATO)』は益々弱体化し、気付いた時にはヨーロッパにロシアの軍事力が迫り、アジアからアフリカには『一帯一路』を掲げる中国マネーの権益が延びる――。この辺りが、ロシアや中国の描く理想のユーラシア大陸のエンドゲーム(着地点)でしょう。こうなると、世界のモラルも大きく変わります。“中華帝国圏”では中国共産党の意向が規範となり、ロシア圏では多様性を許さない反リベラリズムが規範となる。世界の各地域を“大きなローカルルール”が支配し、アメリカが第2次世界大戦後に啓蒙してきた自由や平等の精神は隅に追いやられてしまう。そんな状況下でも、何故かアメリカの力を信じているのが、他ならぬ日本人です。「憲法9条を守れ」という平和主義は、はっきり言ってしまえば、アメリカの核を含む圧倒的な軍事力を背景にした“旧世界秩序”の中でしか成立しないサブカルです。中国が日本の改憲を警戒するのは、“平和の為”だと本気で思いますか? そんな訳がない。そのままのほうが都合がいいからですよ。但し、ゲームのルールが変わりつつあることを理解できていないのは保守も同じです。改憲議論は“誇り”や“尊厳”を取り戻す為ではなく、あくまでも「現状に対応する為にやるかどうか?」という点が本筋の筈。アメリカの弱体化に備えて、最終防衛線を引く為に改憲するのがベターかどうか? そういう軸となる議論が、日本には全く無い。本当は、北朝鮮の核開発が表面化した1990年代に、憲法改正や日本の核保有(※アメリカとの共同保有含む)をタブー無しで議論するべきだったのですが…。一旦、アメリカの退潮が始まってしまえば、トランプの次の大統領がどんなに真面であろうと、その流れを止めることはできない。そして、アメリカが退いたアジアには、巨大な中国とならず者の核保有国家・北朝鮮が残る。政治もメディアも核心を避け続け、未だに安倍政権がアメリカに全力でベットしている日本に、その現実を受け入れる準備はあるでしょうか?


Morley Robertson 1963年、ニューヨーク生まれ。父はアメリカ人、母は日本人。東京大学理科一類に日本語受験で現役合格するも3ヵ月で中退し、ハーバード大学で電子音楽を学ぶ。卒業後はミュージシャン・国際ジャーナリスト・ラジオDJとして活動。現在、『NEWSザップ!』(BSスカパー!)・『モーリー・ロバートソンチャンネル』(ニコニコ生放送)・『Morley Robertson Show』(Block.FM)・『所さん!大変ですよ』(NHK総合テレビ)・『ユアタイム~あなたの時間~』(フジテレビ系)等に出演中。


キャプチャ  2017年7月3日号掲載
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