【カオスを飲み干せ!挑発的ニッポン革命計画】(117) “アジア人蔑視語”のバンド名が使用OK! そこにはどんな意味が?

先日、アジア人に対する“スラント(=吊り目)”という蔑称をグループ名に使用したアメリカのロックバンド『The Slants』の商標登録を巡る訴訟で、アメリカの連邦最高裁判所がバンド側勝訴の判決を下しました。「差別的な言葉を、差別される側(※バンドメンバーは何れもアジア系アメリカ人)が肯定的な意味で使うのはOK」というバンド側の主張が認められた形となります。「社会の断層が深まる現在のアメリカで、態々差別表現を使う必要はない」との意見もあります。しかし、その社会で差別的とされる表現を、臭いものに蓋をするかのように封印したり、表面的な言い換えで“漂白”することが、本当に差別を無くすことに繋がるとは思えません。例えば、奴隷制時代に黒人奴隷たちが口遊んだ“Slave Songs”。人々の悲哀や苦しみ、それを乗り越えようとする明るさ。そして、当時の労働者ならではの卑猥な言葉も飛び出す生々しい歌詞…。歴史の教科書には載らない“エグさ”がそこにはあります。

実は、スレイブソングは長らく、白人のみならず黒人にとっても“振り返りたくない負の遺産”という色合いの濃いものでしたが、昨今では黒人たちの間で再評価する動きもあります。アフリカ大陸から強制的に連れてこられた祖先の“魂の歌”を 知ろう。“白人たちの罪”を糾弾する為でなく、過去と向き合い、未来の差別を無くす為に――と。それを助けたのが、残された記録でした。19世紀の南北戦争前夜、「こうした歌は後世に残すべき」と考えた北軍(※現在のアメリカ合衆国)側の知識人らは、南部の黒人奴隷に直接面談してスレイブソングを譜面に起こし、歌集として出版する等、歴史の保全に努めたのです。翻って、日本はどうでしょうか? 戦後も暫くの間、日本社会には様々な差別が剥き出しでした。僕が幼少期を過ごした昭和40年代も、子供が見る漫画やアニメには、東アジアの国々等に対する差別意識、或いは欧米に対する歪んだ劣等感が生々しく表出していたものです(※日米ハーフとして日本社会を生きていた僕は、より敏感にそれを感じ取ったのかもしれません)。




しかし、時代を経る毎に日本の言論空間やメディアは“漂白”されていきました。24年前、作家・筒井康隆氏の断筆宣言に至った『日本てんかん協会』との騒動は象徴的な事件ですが、それ以降も“表現規制”は雁字搦めになるばかり。今やテレビのプロデューサーから作家・芸術家・ミュージシャンまで、日本の表現者には「問題を起こしたくない」という体質が染み込んでいますし、近年では例えば『妖怪人間ベム』等過去の名作アニメが再放送される際、多くのセリフに“ピー音”が重ねられてしまうという事例もあります。“漂白されたコンテンツ”だけの社会が、本当の意味で差別を無くせるのか――。“今、その社会で差別とされるもの”は、時間の経過と共に消えていくかもしれませんが、暫くすればまた別の“差別の芽”が顔を出すでしょう。差別とは人の心から決して無くならないものだからこそ、正面から向き合う必要がある。表現を表面的に削るだけでは差別は無くならない。それもまた、1つの真理なのだと思います。


Morley Robertson 1963年、ニューヨーク生まれ。父はアメリカ人、母は日本人。東京大学理科一類に日本語受験で現役合格するも3ヵ月で中退し、ハーバード大学で電子音楽を学ぶ。卒業後はミュージシャン・国際ジャーナリスト・ラジオDJとして活動。現在、『NEWSザップ!』(BSスカパー!)・『モーリー・ロバートソンチャンネル』(ニコニコ生放送)・『Morley Robertson Show』(Block.FM)・『所さん!大変ですよ』(NHK総合テレビ)・『ユアタイム~あなたの時間~』(フジテレビ系)等に出演中。


キャプチャ  2017年7月17日号掲載




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