【私のルールブック】(110) 「あなたが持っているモノを全て捨ててください」…

映画を監督したり、舞台を演出する際のキャスティングにおいて、大雑把に2通りのパターンがあるとする。1つは、私自身がその役者さんに惚れ込み、出演をお願いする、至極真っ当なパターン。この場合は、既にその役者さんの演技方法等を全面的に支持・信頼した上での依頼なので、稽古に入ってもスムーズに事が進む。そしてもう1つは、お付き合いのあるマネージャーさん等に推薦されるパターンである。こちらの場合は得てして、「まだまだなのですが、どうか鍛えてやって下さい」との文言が付け加えられる。とはいえ、名前は売れていなくとも、勘の良い子は直ぐに私の演出思考を理解し、稽古に支障を来すことなく付いてくる場合もあるが、やはり多くは何かが足りなく、何かが欠けていたりする。ただ、足りなかったり欠けている場合は、それほど時間は掛からないものなのです。だって、足りていない隙間を何かしらで埋めてあげれば済む話ですから。

実は、一番厄介なのは捨てられない子だったりするのです。捨てられないとは? 例えば、キャリア5年ほどの若手の役者さんがいたとします。小劇団での経験をプラスすれば、芸歴は10年としておきましょう。10年も役者をやっていれば、それなりにノウハウを身に付け、演ずることの快感も経験していれば、怖さも理解しているでしょう。で、意外とプライドも高く、このシチュエーションで泣かなくてはならないのであれば、ストレートに泣いても面白味がないので、「ちょっと捻って涙を流してみよう」とか、良く言えば芝居の幅はそこそこ広いと受け取れなくもないですが、悪く言えば計算が透けて見えてしまうタイプと取れなくもない。要は全体的なバランスが悪いんですよね。キツい言い方をすれば、頭でっかちになり過ぎて実が伴っていない役者さんといいますか、芝居はできるのに売れていないという時点で、バランスが取れていない訳ですから。




ただ、私はどちらかというと、そういう役者さんたちとお仕事をするほうが好きなのです。で、好きであるが故に、必ず意地悪な注文を押し付けます。「今、貴方が持っているものを全て捨てて下さい」と…。皆さんならどうしますか? 私も若かりし頃、とある監督さんに言われました。で、私は捨てることができませんでした。捨てた振りをして誤魔化してしまいました。ですが、クランクアップした後に監督から、「捨てろって言われても難しいよな」と…。監督は、私の捨てた振りを見抜いていたということです。で、監督は続けて、「じゃあ、捨てるじゃなくて、一時荷物預り所に預けておくだったらできたか?」と。「君のキャリアを否定するつもりはない。でも、君が新しい何かを必要としているならば、1回手ぶらになってほしかった。大事なものを手放してほしかった。しかし、人間って生き物は、『捨てろ』と言われた途端、何故か『捨てたくない』という衝動に縛られてしまう。でも、よくよく考えれば、何年か掛けて身に付いた物は、たとえ捨てたとしても拾いに戻ればいいだけの話で、それほど怖いことではないんだよ」。目から鱗でした。さぁ、目から鱗が落ちてしまった私は、その後どうしたのでしょうか?


坂上忍(さかがみ・しのぶ) 俳優・タレント。1967年、東京都生まれ。テレビ出演多数。子役養成に舞台の脚本・演出等、多方面で活躍中。


キャプチャ  2017年7月27日号掲載

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