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【異論のススメ】(32) 立憲民主党の躍進…戦後体制の“保守”に支持

今回の総選挙も、終わってみれば、大勢においてその前後で然したる変化があった訳ではない。小池百合子氏の一人芝居だった“小池劇場”も無残な結果となり、自公連立政権の3分の2議席は維持された。「これなら民進党を分裂させなければよかった」等という情けない話まで出る始末だ。その中で多少興味深いのは、立憲民主党の躍進である。尤も、この政党の面々に対して「彼らは筋を通した」等という評価は全くの筋違いで、実際には彼らは小池氏に“排除”され、止むを得ず新党を立ち上げたのだった。筋を通すというなら、「最後の民進党両院議員総会の場で、前原代表に対してどうして激しく抵抗しなかったのか?」ということになる。前原氏の代表辞任を求めるのが当然であった。実際には、彼らも希望の党入りを期待していたのである。それは兎も角、立憲民主党の躍進の背景には、一定のリベラル勢力があることは間違いない。様々な立場や党派の混成であった民進党が、保守系とリベラル系に分裂することで、民進党のリベラル派支持層が躊躇なく立憲民主党を支持したという構図はわかり易い。

しかし、ここで問いたいのは、「今日、リベラル派とは一体何なのか?」ということである。そして、リベラル派が支持する立憲民主党は、何を旗印にするのであろうか? リベラル対保守の対立とよく言う。この対立は従来、次のように解釈されてきた。「経済界に近い立場から経済成長路線を取り、戦後日本の基本的な社会構造をできる限り維持するのが保守であり、これに対して、経済成長の恩恵を得ない者の利益や社会的少数派の権利を擁護し、より社会民主主義的な方向へと社会を変革するのがリベラルである」と。だが、この対立は殆ど意味を失っている。何故なら、この間、保守である筈の自民党が、矢継ぎ早に“改革”を打ち出してきたからである。「グローバリズムや中国の台頭、北朝鮮の核脅威といった世界状況の変化に対して、日本社会を大きく変えていかなければならない」というのが安倍首相の基本方針である。人工知能(AI)・ロボット・生命科学等、“技術革新”によって社会生活を変化させ、“人づくり革命”や“生産性革命”を断行するという。そして、世界の情勢変化に合わせて憲法を“改正”するという。これほど大きな“変革”を打ち出し、しかも次々に実行している“保守”は嘗て無かった。それに対して、リベラル派は何を打ち出しているのだろうか? 「生活を守れ」「弱者を守れ」「地域を守れ」「人権を守れ」「平和を守れ」「憲法を守れ」という。これではどちらが保守だかわからない。確かに、「グローバリズムや過剰なまでの市場競争や技術革新の恩恵を得られずに、所得が低迷し、雇用が不安定になった人たちの生活を守れ」というのはその通りだ。福祉重視もよい。だがそれなら、安倍政権も同様のことを言っている。安倍政権と対決するには、正面からグローバリズムに反対し、『環太平洋経済連携協定(TPP)』に反対し、成長戦略やグローバル競争に反対し、その上で代替的な政策ビジョンを打ち出さなければならない。立憲民主党の最大の売りは憲法擁護である。態々“立憲”と名付けた所以もそこにある。しかし、護憲を訴えるのなら、リベラル派は幾つかの基本的な問題に答えなければならないだろう。先ず一般論として、「平和憲法の下で日本の防衛をどうするのか?」という大問題がある。平和憲法によって軍事力を保持せず、アメリカ軍とアメリカ政府の世界政策・対日政策に自国の安全を委ねてきたのが戦後日本であった。それをどうするのか? そして、より具体的な問題として、「核攻撃も辞さない」と宣言している北朝鮮の脅威にどう対応するのか? 日米同盟が不可欠だというなら、改めて集団的自衛権をどうするのか? 更に、自衛隊は合憲なのか否か?――これらの問題に、リベラル派は答えなければならない。民進党が、一部のリベラル派の支持は受けながらも、国民の大きな支持を得られないのは、結局、これらの決定的な課題に答えられないからである。森友・加計問題ばかりでは、国民の支持を得ることはできない。




リベラル派が重視する生命尊重も基本的人権も平和主義も全て戦後憲法の基本的な柱であり、それなりに実現された。それらを軸にする憲法は、戦後日本の“体制”なのである。ということは、リベラル派こそは、戦後日本の“体制”を、少なくとも理念の上で代表し、それを“守る”ことを訴えてきた。言い換えれば、彼らは戦後のこの“体制”をできるだけそのまま続けようと言っているに等しい。「性急に変えるな」と言っているのである。逆に、保守とされる側が、1990年代の政治改革・構造改革から始まり、2000年代の小泉改革、それに今日の安倍首相による矢継ぎ早の変革を唱えてきた。そして、「この急激な変革に、実はかなりの国民が不安を持っているのではないか?」と私には思われる。立憲民主党への一定の支持は、今回の選挙で、この党が、皮肉なことに、最も“保守的”で、顕著な主張を繰り広げなかったからではないのだろうか? 「問題は、今や本当の意味での“保守”の意味が不明になってしまい、真の保守政党が無くなってしまった点にこそある」と言わねばならない。


佐伯啓思(さえき・けいし) 1949年生まれ。京都大学名誉教授。保守の立場から様々な事象を論じる。著書に『反・幸福論』(新潮新書)等。


≡朝日新聞 2017年11月3日付掲載≡



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テーマ : 立憲民主党
ジャンル : 政治・経済

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