【カオスを飲み干せ!挑発的ニッポン革命計画】(140) 大谷の入団会見に見た“謙譲の美徳”の限界と2018年日本の分岐点

「皆さんの応援で僕を成長させてほしい」――。メジャーリーグの『ロサンゼルスエンゼルス』入りが決まった大谷翔平選手は、入団会見でファンにこう呼びかけました。非常に興味深く感じたのは、この言葉を通訳者が“Please help me.”と訳したことです。大谷選手の謙虚さは、日本ではまさに“謙譲の美徳”と言われるもの。ただ、この姿勢はアメリカにおけるヒーロー像には当て嵌まりません。素晴らしい技能や才能を持ち、高みに上り詰めた人物が、(アメリカ人から見れば必要以上に)謙るという感覚が理解されないのです。通訳者はそれを理解し、“謙り”のニュアンスを消して、「皆でチャレンジして(二刀流という)奇跡を実現しよう!」という方向に上手くチューニングしました。あの言い方なら、バラク・オバマ前大統領の“Yes, We Can”にも近いニュアンス。現地のファンも素直に、「よし、一緒に二刀流を実現させるぞ」という気持ちになったでしょう。

日本ではアスリートから芸能人、政治家まで兎に角、謙る傾向が強い。才能を誇示することは好まれず、ファンや支持者より下まで降りて“傅く”。以前から僕は、「日本ではリーダーらしいリーダーが生まれない」「上にいる者が皆の顔を立てようとし過ぎて“決断”や“革命”ができない」と感じていましたが、今回もそのことを思い出しました。嘗てジョン・F・ケネディ元大統領は、アメリカ国民に“Ask not what your country can do for you, ask what you can do for your country.”と言いました。「国が貴方の為に何をするかではなく、貴方は国の為に何ができるか」と。これは「国に殉じろ」という意味では勿論なく、「受け身で物事を考えず、自分の足腰を鍛えて行動しろ」ということです。そして同時期、アメリ力の黒人たちの間では“Do Your Thing”という言葉が流行しました。直訳すると「お前のそれをやれ」。このニュアンスを日本語で説明するのは難しいですが、「他人のことをとやかく言ったり真似したりするより、自分固有の“何か”を追っていい」という意味で、黒人たちはその言葉に熱狂した訳です。

自分の努力で国や社会を前進させることができ、そして“何か”を実現できる――。当時のアメリカ社会には、そんな信仰心のような雰囲気があった。これを言い換えれば“希望”ということになるでしょう。ケネディが多くの国民の心に火を点けたのは、単に希望を掲げただけでなく、個々人に「“Your Thing”を見つけなさい」とボールを預けたからだと思います。どの時代にも其々の必然があり、光もあれば影もありますから、このことを以て当時のアメリカ全てを肯定する訳ではありません。ただ、そこには長年膠着し続けて冷笑主義に覆われた今の日本社会とは違う変化、そしてそこから生まれる推進力が確かにありました。2018年、日本はまさにその分岐点にいる気がします。国民は国に強請り続けてきた。税率がどうだ、給付がどうだ、と。勿論、権利も大切ですが、その甘えっぷりに限界が来ているのではないか? 受け身体質から脱却し、其々の“Your Thing”を見つけた人から見違えるように変わっていく――。そんな1年になる気がしてなりません。


Morley Robertson 1963年、ニューヨーク生まれ。父はアメリカ人、母は日本人。東京大学理科一類に日本語受験で現役合格するも3ヵ月で中退し、ハーバード大学で電子音楽を学ぶ。卒業後はミュージシャン・国際ジャーナリスト・ラジオDJとして活動。『スッキリ』(日本テレビ系)・『みんなのニュース 報道ランナー』(関西テレビ)・『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)・『ザ・ニュースマスターズTOKYO』(文化放送)・『けやき坂アベニュー』(AbemaTV)等に出演中。近著に『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)・『悪くあれ! 窒息ニッポン、自由に生きる思考法』(スモール出版)。


キャプチャ  2018年1月22日号掲載
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