【カオスを飲み干せ!挑発的ニッポン革命計画】(141) 中国で進化する“超AI監視社会”が世界を覆う日

昨年12月、中国政府は人工知能(AI)分野における目標と戦略を掲げました。曰く、今後3年以内にトップランナーであるアメリカに追いつき、2030年までに“世界のリーダー”になる――。これは決して絵に描いた餅ではありません。近年、『アリババ』・『百度』・『テンセント』といった有力な中国系IT企業は、AI研究に巨額の費用を投じていますし、約14億の人口という圧倒的な人的リソースを基にしたディープラーニング研究もアメリカ以上に進んでいるといいます(※事実、ディープラーニングに関する論文の発表数では、2013年の時点で中国がアメリカを抜いて世界一となっており、その差は広がる一方です)。見逃してはならないのは、こうした驚異的な進化の背景に、“国民の意向や人権を無視できる”という中国ならではの事情があるという“不都合な真実”です。例えば、中国国内には昨秋の時点で監視カメラが1億7000万台設置されており、今後3年間で更に4億台が追加されると推定されています。こうした監視カメラの多くにはAIが搭載され、顔認証等の識別技術により、群衆の中にいる個人の行動を特定・監視できるレベルに達しています。また、同じ12月にはイギリスの国営メディアである『BBC』が、中国の犯罪者追跡システムの精度がどれほど高いかについて、現地の警察当局の協力を得て中国南西部の都市で実証実験をしたと報じています。その結果、何と人混みの中に紛れ込んだ指名手配犯役の人間は、たった7分以内で“捕獲”されてしまったというのです。この監視カメラシステムは、瞬時にして人の顔と歩き方を識別して個人を特定し、データベースと照合して年齢、性別、身長、民族アイデンティティーを判定。その上、親族や知人といった人的ネットワークまで割り出すことができるそうです。

ここまでくると、犯罪者のみならず、中国当局の意に反する行動を取る人権活動家やメディア関係者らは、一度ターゲットとなってしまえば逃げ切ることはかなり難しいでしょう。更に、中国当局が住民に対して苛烈な人権侵害を行なっている新疆ウイグル自治区では、“体内”にまで監視が及んでいます。当局は、同自治区に住む12歳から65歳までの住民を対象に、“無料検診”という名目でDNAや血液のサンプル、指紋、虹彩、血液型等の生体データを収集し、既に同自治区の総人口の9割に当たる約1900万人分のデータを集めたと報じられています。まるで戦前の日本の隣組制度のように、各住民に密告を促す従来の方法と並行して、超高度なAI技術でも人々を監視する。しかも、その精度は巨大規模のディープラーニングによって日々、向上していく――。これがAI大国・中国の“暗黒面”なのです。欧米等の民主主義国家では到底許されない人権無視をものともせず、何億人もの“モルモット”を使えるというアドバンテージを生かした中国のAI監視技術は、同じく国民への人権弾圧が問題視されているエチオピア等に輸出されているといいます。権力者にとっては願ってもない“統治補助システム”でしょう。ただ、その技術の恩恵を受けるのは独裁国に限りません。日本を含めた先進国も、こうした技術を“防犯目的”、或いは少子高齢化社会における“徘徊高齢者の監視・保護”等といった“善意の利用”の為に買うことは、十分にあり得る話です。嘗ての冷戦時代は、東西両陣営が「相手にはネジ1本渡すものか」という猜疑心に取りつかれ、世界は真っ二つに断絶されていました。しかし、現在の国際社会ではそうした壁も無く、モノも情報も技術も盛んに行き交います。表面的には“人道的”な国家であっても、“非人道”を平気でやる国家と資本主義のルールの中で取引をすることは躊躇しません。しかも、AIの技術は非常に汎用性が高い。世界中の人類の知力が1つに結集し、絶え間なく進化していきます。

たとえその根元に、中国共産党が一党独裁を続ける為の“人権侵害ツール”として開発された“土台”があるとしても、他国のポジティブな技術者や研究者はその経緯をロンダリングし、更に進化させていくでしょう。そして、其々の“善意”でチューニングされた技術革新は、残念ながら、いつしか再び資本主義のルールの中で中国に還流し、次の弾圧の為のツールとなるのです。これは、シンギュラリティー(※技術的特異点)を超えてAIが人間を支配するとか、進化したAIが暴走して人類を減ぼすとか、そういった類いの所謂“AI脅威論”ではありません。もっと具体的で、且つ現在進行形で進んでいる社会的な問題です。巨大な独裁政権が人権を無視した“社会実験”を続けていることはもっと問題視されるべきだし、そこから生まれた技術が善意でロンダリングされ、世界中で運用されるのも、僕は非常に気持ち悪い。これは、“技術には罪は無い”というような単純な話ではありません。本当にそれでいいんですか? そんな世界は、僕には手塚治虫ですら考えつかなかったような“ウルトラディストピア”にしか見えません。


Morley Robertson 1963年、ニューヨーク生まれ。父はアメリカ人、母は日本人。東京大学理科一類に日本語受験で現役合格するも3ヵ月で中退し、ハーバード大学で電子音楽を学ぶ。卒業後はミュージシャン・国際ジャーナリスト・ラジオDJとして活動。『スッキリ』(日本テレビ系)・『みんなのニュース 報道ランナー』(関西テレビ)・『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)・『ザ・ニュースマスターズTOKYO』(文化放送)・『けやき坂アベニュー』(AbemaTV)等に出演中。近著に『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)・『悪くあれ! 窒息ニッポン、自由に生きる思考法』(スモール出版)。


キャプチャ  2018年1月29日号掲載
スポンサーサイト

テーマ : 中国問題
ジャンル : 政治・経済

Categories
Profile

KNDIC

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR