【韓国経済のはまった罠】(後編) ウォン高+弱い金融…日本型デフレ不況に陥るか

「我々の経済が新たに飛躍できるか、それとも停滞のトンネルに閉じ込められるか決まる、重大な岐路に立っている」。韓国の朴槿恵大統領は2014年9月1日、経済団体や労働団体の代表ら54人と会談し、こう危機感を露わにした。朴大統領の念頭にあるのは、“失われた20年”と呼ばれた日本型デフレ不況への恐怖に他ならない。経済協力開発機構(OECD)加盟国中で最も低い出生率、急速に進む少子高齢化、正規・非正規雇用の所得格差の拡大、8%に達する若年層の失業率、ウォン高に起因する輸出の収益悪化、アジア諸国で最も高い家計の負債(対名目GDPで86%)、物価安と低成長への移行……韓国経済を取り巻く環境は厳しさを増している。このままでは、日本よりはるかに深刻な長期経済停滞に陥ることは明らかである。さらに、同年4月に発生したセウォル号沈没事故を境に、GDP(国内総生産)の約6割を占める個人消費が急落した。「事故後の自粛ムードで、外食や宴会の取りやめが相次いだため」(韓国経済に詳しいエコノミスト)。4~6月期の実質GDP成長率は前期比0.6%と、7四半期ぶりの低水準に落ち込んだ。そのため韓国の中央銀行である韓国銀行は8月14日、1年3ヵ月ぶりに政策金利を2.25%に引き下げた。利下げで消費にテコ入れする狙いである。

利下げの背景には、韓国にとって最大の懸念材料であるウォン高への配慮が滲む。ウォン高(対ドルレートで)に転換したのは2013年9月以降であり、足元では約6年ぶりのウォン高水準にある。これを受けて、2014年4~6月期の韓国主要企業の決算は大幅な減収減益を余儀なくされた。連結営業利益でトヨタ自動車を上回る韓国最大の企業・サムスン電子でさえ約5000億ウォンもの為替差損が生じ、9年ぶりの減収減益となった。ウォン高による打撃が大きいのは、韓国独自の経済構造にも起因する。一部の財閥系企業の業績に依拠する構造になっており、サムスン電子・現代自動車・LG・ポスコなど10大財閥グループの売上高は、GDPの実に7割超にも相当する。




いびつな経済構造の起因は、1997年に韓国経済がIMF(国際通貨基金)管理下に置かれたことにある。資本の集約化が進み、巨大な財閥系企業が市場を支配する構造が出来上がった。財閥系企業はウォン安による輸出促進と国内で独占的に得た超過利潤を海外展開の原資に充てることで、韓国経済を牽引してきた。こうした集約性の高い“財閥主導経済”は戦略性に富み、ある局面ではとてつもない強さを発揮する。サムスンが世界のスマートフォン市場を席巻したことなどがその好例だ。だが一方で、経済の多様性が消えるため、環境変化への耐性力に欠ける。その結果、良い時と悪い時の差が激しい“ボラティリティの高い経済”という弊害を生みだしている。ウォン高の進行とともに急速に悪化した企業業績は、その象徴と言えよう。ウォン高は、韓国独自の努力ではどうにも克服できない。その背景には米国の金融政策の転換があるからだ。FRBの緩和縮小に伴い、新興国に流れていた投資マネーの引き揚げが始まっている。その一部が経常黒字の増大する韓国ウォンに流れ込んでいる構図だ。

ウォン高の背景はこればかりではない。韓国経済に精通するみずほ総合研究所の宮嶋貴之主任エコノミストは次のように指摘する。「韓国の輸出価格は、強豪国である日本の輸出価格と連動する傾向にある。日本の輸出価格低下に伴い、韓国の輸出価格も低下している。だがウォン高にもかかわらず、韓国の輸出数量は2014年5月まで増加基調を維持している。韓国は無理をして数量の増勢を維持しているわけだ。しかし輸出価格低下によって、韓国製造業企業の収益は確実に圧迫されている。収益圧迫が続けば、設備投資が減少する。設備投資の低下と経常黒字の増加は比例するため、ウォン高圧力がさらに増す悪循環に陥る可能性もある」。つまり韓国の輸出構造には自らの首を絞める“ウォン高の罠”が組み込まれているようなものなのである。

朴大統領は2014年2月、潜在成長率4%達成を目指す新たな経済政策『経済革新3ヵ年計画』を打ち出した。過度に輸出に依存する経済から、内需・輸出の均衡のとれた構造へと転換するというもので、各種の規制緩和やベンチャー企業の育成などの施策が並ぶ。そして同年7月には、総額41兆ウォン(約4兆1000億円)の経済対策を打ち出した。主導した崔炅煥経済副首相兼企画財政相をもじって『チョイノミクス』と呼ばれる施策で、住宅ローンの貸出上限の緩和による不動産市場の活性化や、賃金を増やした企業への税制支援、内部留保の多い企業への課税強化や、設備投資の促進などのメニューが並ぶ。だが、実現は容易ではない。とくに企業の内部留保への課税は、「強制的に労働分配率を上げようという意図だが、韓国国内では効果が疑問視されている」(韓国人エコノミスト)という。内部留保に課税すれば、逆に投資を萎縮させる可能性もあり、財閥系企業は猛反対している。また、韓国経済は“金融”というネックを抱えている。韓国の銀行は規模が小さく、その資本の大半は海外の投資家に握られている。韓国有力企業の資金調達を支えているのは、日本のメガバンクをはじめとした海外の有力銀行というのが実情だ。朴大統領は、歴史認識や慰安婦問題・竹島の領有をめぐって日本と対決姿勢を強めている。だが朴大統領が学ぶべきは、まさに日本ではないか。2015年は“日韓国交正常化50周年”を迎える。韓国が日本の轍を踏まないためにも、朴大統領の歩み寄りが期待される。


森岡英樹(もりおか・ひでき) 経済ジャーナリスト・元神戸大学非常勤講師。1957年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。経済紙記者を経て、1997年、米国コンサルタント会社『グリニッチアソシエイツ』のシニアリサーチアソシエイト、並びに『パラゲイトコンサルタンツ』のシニアアドバイザーを兼任。主にアジア地区の銀行・証券・投資会社の調査分析に携わる。埼玉県芸術文化振興財団常務理事などを経て、2004年に独立。


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