日本企業、低迷の危機…裏に“男のふがいなさ”――人事の7割が男子弱体を実感、タフな仕事は女性社員が頼り

労働人口が減少する中で、女性活用の必要性が一段と高まっている。だが、人口減少という難題は、女性活用だけでは解決できない問題だ。女性の社会参画を進めると同時に、男性社員もこれまで以上に発奮し、労働効率を高めていくことが欠かせない。ところが日本では、若者から高齢者まで「女性に比べ男性の元気のなさが目立つ」と言われ始めている。本誌の調査では、“男性弱体化”が企業運営にまで影響しつつある実態が浮かび上がった。競争力の低下を防ぐため男性中心の現場に、意識的に女性を送り込む企業も出始めている。 (編集部 宇賀神宰司・宗像誠之・西雄大・齊藤美保)

「筆記、面接と進むにつれ、ここ数年、男子がくしの歯が欠けるように脱落していく。単純に優秀な人材から採用しようとすれば、新入社員の大半が女性になりかねない」。大手運送業に勤める人事担当者のA氏は、採用活動での悩みについてこう話す。この会社の採用過程は、履歴書審査・筆記試験・1次・2次・最終面接の5段階。筆記試験は得点上位者が、面接では面接官による採点上位者が勝ち進む。男子学生も筆記試験までは食らいつくものの、面接になると一気に厳しくなる。対話能力・語学力・第一印象・志望動機・将来への展望・快活さ・力強さ…。公正に採点するほど女性ばかりが高得点を記録してしまうという。「優秀な女性の入社は大歓迎。ただ、会社が女子校のようになってしまうのも困る」。悩んだ末に2年前から始めたのが、男子にこっそりげたを履かせることだった。あからさまに男女差別をすると法に抵触する。そこで面接の判定基準に“今どきの男子”が有利な項目を設定した。例えば「育て甲斐(今後の伸び代)があるかどうか」。「これなら間違いなく、今時点で完成度の低い男子が有利になる」とA氏は苦笑いする。その甲斐もあって、今のところ、新入社員の男性比率を6割台に維持できているという。A氏の悩みは、一部業界での特殊な現象ではない。日経ビジネスが日経HRに依頼し、2014年12月中旬、主要企業の人事担当者を中心に150人に実施した調査では、全体の71%が「男性より女性の入社希望者の方が優秀」と回答。自由回答欄には「男子は体力自慢だけ」(精密機械)、「男子はチャレンジ精神ゼロ」(自動車)といった辛辣なコメントがあふれ返った。




そんな状況でも多くの企業は男性を採用せざるを得ない。ある地方銀行の採用担当者は「試験も面接も合格点に届いていない男子学生の採用は少なくない」とまで打ち明ける。だが調査からは、そうやって強引に採用した新人男子が入社後、少なからず混乱を起こしている実態も判明した。「営業研修を実施しても外回りに行かない。理由を聞くと『入館証を自宅に忘れたため、外出すると戻れなくなるから』」(マスコミ)などは序の口。中にはこんな耳を疑う事例もある。ある流通企業に入社した男性社員に電話営業を指示したB氏。取引先数十社の電話番号を渡して外出し、夕方に戻ってみると、新人はまだ1件しか電話できていない。事情を聴くと、日がな一日、商談先との会話のシミュレーションをしていたという。机の上を見ると、商談を切り出した際の相手の対応別に事細かなフローチャートができていた。「まるで神経細胞のように枝分かれしていくシミュレーション表は壮観だった。でも、隣で同期の女性社員が20件以上、電話をしているのに、これはない」。B氏はこうあきれ返る。

優秀な男性社員も数多くいるとはいえ、一つの傾向として企業の現場で顕在化し始めている男性弱体化。経営者からは、「ふがいない男性は若い世代に限らず、ベテランや年配にも増えている」という声も上がる。「前近代的と言われようが、取引先の接待はこの業界では避けて通れない商習慣。でもそこを理解してくれるのは今や女性だけ」。こうため息をつくのは大阪に本社を置く建設会社を経営するC氏だ。C氏の悩みの種は37歳で11人のチームを率いている営業課長。仕事はそこそこできるし勤務時間内はそれなりにはつらつとしている。が、勤務時間外は「ここ数年、理由は分からないが、バイタリティーが急にうせた」(C氏)。取引先との忘年会に同行させても、下戸でもないのに烏龍茶を注文。宴席であるにもかかわらず顧客から離れた場所にポツンと座り、スマートフォンに目を向け会話もほとんど交わさない。C氏は営業課長を宴席に同行させるのをやめてしまった。代わりに活躍してくれるのが女性社員だ。女性担当者はビールを飲んで楽しく場を盛り上げつつ、自社の新サービスをしっかりアピールする。1次会でそそくさと帰っていた課長と違って、2次会にも率先して参加。いざという時の無理を聞いてもらうための人脈作りも欠かさない。セクシュアル・ハラスメントと思われると困るため、長年、女性社員の接待への参加は必要最小限にしてきた。しかしある日、参加を打診すると女性社員の多くは「ぜひ行きたい」と二つ返事で了承。強要しているつもりはないし、会社のため得意先とのコミュニケーションを積極的に楽しんでくれている様子だという。「宴席に限らず、クレーム処理などタフな仕事は男の役目と昔は相場が決まっていた。でも、今は女性たちの方が堂々としているし、頼りになる。社会全体がそうなってきているのでは」とC氏は見る。

経営者の中からは「優秀な女性部下を持ったことがきっかけになって、仕事への意欲が落ちる年配男性社員が増えている」との証言も上がっている。大手電子部品メーカーの社長、D氏もそう考えている経営者の1人だ。つい最近も、産業医の診断書を片手に、ある男性部長が「精神的にもう限界だ」と伝えてきた。その部署の主力業務は営業。D氏は海外市場開拓を強化するため、5年前から男性部長の下に語学が堪能な社員を配置してきた。その多くは女性社員だった。中には、2ヵ国語・3ヵ国語を当たり前のように話す女性社員もいる。今振り返ると、グローバル化が進み、彼女たちの活躍の場が増えるにつれ、部長の様子は明らかにおかしくなっていったという。「会社の中では男性が主で女性が従。そんな保守的な考え方を持っている人ほど、元気な女性の進出を受け入れられない。反発して競争意欲を持つならまだいいが、最近の男性は戦意喪失してしまう。特に語学にコンプレックスを持つ男性上司は危ない」。D社長はこう分析する。

全国各地、様々な産業から聞こえてくる男性弱体化に関する証言。専門家の間では「仕事の場における男性の立場が年々弱まっているのは事実であり、その背景には産業構造の転換がある」との指摘が多い。極めて単純化して結論を言えば、今、職場で女性が男性より元気な理由は、昭和から平成にかけ社会全体で“男性が得意な仕事”が減り、“女性が得意な仕事”が増えたから、となる。男性が得意な仕事とは、要するに広い意味での力仕事だ。生物学を専門とする早稲田大学人間科学学術院の山内兄人教授は「脳の違いを中心に性差に関する様々な研究が進められているが、その大半はエビデンスが弱く、血液型占い程度の域にある。それでも間違いなく言えるのが男性は女性より筋力があるという点」と話す。その筋力が必要とされる職場や業務が、この30年で激減した。1985年のプラザ合意に端を発する円高で国内工場の海外移転が加速するとともに、バブル崩壊以降は公共事業が急減。体力を要求される職場自体が減った。同じ仕事の中でも、自動化とIT(情報技術)化で業務の省力化が進展。例えば、パン焼き機の進化により、それまで男性中心だったベーカリー経営が女性も可能な仕事に変わった。また、オフィスの書類はことごとくデジタル化され、ホワイトカラー職場では重い資料を出し入れする作業すらなくなった。

一方、力仕事に代わり、勢力を拡大したのが、コミュニケーション能力が必要な仕事だ。流通やサービス業の発展に加え、一企業の中でも、営業から他部署との連携、外部企業との複合事業まで、対話や折衝能力が必要な業務が増えている。生物学的には、これらはいずれも女性向きの仕事だ。「筋力が弱い代わりに、女性には子供を産み育てるための様々な力が備わっている。子育ては対話と気配りの連続。男性よりコミュニケーション能力が高いのは当たり前」(山内教授)。山内教授によると、女性は男性より我慢強く、環境変化にも強い。「胎児を自分の体内で10ヵ月維持することにも耐え得る体力と精神力は男性にはないもの。生き残る能力は男性の比ではない」(同)。だとすれば、グローバル化や競争環境の激化を背景に職場のストレスが高まる中で、女性の活躍が増えるのは、むしろ自然なことと言える。

実際、かつて男性が中心だった職場で女性が活躍し始めた事例は、枚挙に暇がない。例えば、宅配便大手の佐川急便。同社は今、セールスドライバーを担う女性社員を積極採用している。2011年には、佐川急便の持ち株親会社SGホールディングスの栗和田榮一・会長兼社長の主導で、『わくわくウィメンズプロジェクト』を開始。2015年度までに女性社員比率を30%にする計画を立てており、セールスドライバーなどの営業職は現在、全国約3万4000人のうち4000人を占めるまでになった。労働者不足の解消や企業イメージ向上の狙いもあり、同社では今後も一段と女性の採用に力を入れていく考え。佐川急便東京本社の人事部女性ワクワク推進課の三宮加代課長は「女性にとって魅力ある職場にするために、旧来の男性的な働き方をとことん見直していく」と話す。宅配便のドライバーと言えば、荷物を運ぶ体力こそが重要と思われるが、今はそれだけではない。ネット通販が普及し、毎日のように商品を注文する顧客も増加。それに伴い、商品の引き渡しから不在だった際のやり取りまで、顧客とコミュニケーションを図る場面が増えた。前述の通り、対話は男性より女性の方が得意。加えて、主婦の顧客などからは「1人で家にいて宅配便を受け取る時に、ドライバーさんが女性だとものすごく安心する」との声も少なくない。

そんな動きは、頑として女性を受け入れてこなかった職種にまで広がっている。寿司職人だ。寿司職人を育成する料理学校の東京すしアカデミー。東京都の西新宿にある学校では女性の生徒がおよそ3割を占める。今や寿司は世界的に人気のある料理だ。海外の寿司店は、本格的な江戸前寿司が握れる日本人職人を欲しがっている。同校で広報を担当する谷口弘子氏は「『寿司は男性が握るもの』という先入観が海外にはない。むしろ、語学が堪能でカウンター越しの接客が上手な女性職人は、海外では男性より人気があるようだ」と話す。さらに、宅配・寿司職人に勝るとも劣らず男性職場のイメージが強い鉄道会社でも女性の進出は目覚ましい。改札口・プラットホームの駅員・電車を運行する運転士と車掌などかつては男性が大半を占めていた鉄道の現場。だが、東京地下鉄(東京メトロ)の場合、1992年当時、10人程度しかいなかった現業の女性社員は2014年3月時点で184人まで増えた。駅や地下鉄で働く約8000人の現業社員には泊まりでの勤務が定期的に回ってくる。1999年4月の労働基準法の改正以前は、女性に対して残業の規制や深夜業の禁止などの措置があり、女性社員を増やしようがなかった。だが法改正以降は、応募者も着実に増加。同社自身も仕事や育児の両立支援を積極的に進めた。女性の採用を進める理由の1つとして、人事部ダイバーシティ推進・採用担当課長の増田英子氏は、「インフォメーションカウンターの対応などは、より丁寧で親切だと評判がいい」と話す。現業の女性割合自体はまだ2.3%だが、将来的には15%程度まで高めたい考えだ。

様々な現場で進む女性の進出。それ自体は、これから労働力不足に直面する日本にとって心強いことであり、願ってもない展開と言える。問題は、元気な女性社員にその座を脅かされつつある男性社員を、企業や社会がどのように活用するかだ。実はこうした“男性弱体化”は世界的現象でもあり、男性の失業率増加などを機に経済が低迷する『マンセッション(男性不況)』に見舞われる国も現れている。女性活用に力を入れるのは当然のこと。とはいえ、男性社員も自らに活を入れ奮起しなければ、労働力不足は解消せず、男性不況は到来し、日本に明るい未来はない。男性“活”用は既に十分進めてきた。2015年の今、必要なのは男性“喝”用だ。


キャプチャ  2015年1月12日号


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