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【カオスを飲み干せ!挑発的ニッポン革命計画】(203) ジュリアン・アサンジは何故世界を手玉に取るトリックスターになれたのか?

数々の“メガリーク”で世間を騒がせ、真実を追求する英雄として持て囃された男は、変わり果てた姿でカメラの前に現れました。匿名の内部告発情報を公開するサイト『ウィキリークス』創設者のジュリアン・アサンジが、4月11日、在英エクアドル大使館でイギリス当局に逮捕されました。性的暴行疑惑を巡るスウェーデンへの身柄引き渡しを避ける為、エクアドル大使館に逃げ込んでから約7年。その間に、彼に対する評価も大きく変わっていったように思います。2007年に創設されたウィキリークスは、2010年4月にある動画を公開し、世界的に注目されました。イラクに駐留していたアメリカ軍のヘリコプターが、イラク市民やジャーナリストをまるでゲームのように銃撃し、殺傷する動画。その衝撃に、欧米メディアは蜂の巣を突いたような大騒ぎになります。その3ヵ月後には、アフガニスタン紛争に関するアメリカ軍や情報機関の機密文書7万5000点以上を公表。更に3ヵ月後には、イラク戦争に関するアメリカ軍の機密文書約40万点の公開に踏み切りました。当時は丁度、中東を中心とする様々な政治的混乱が、大手メディア発ではなく、インターネットを通じて伝わるのが常識になりつつあった頃です。2009年のイラン大統領選挙では、再選されたマフムード・アフマディネジャドの不正選挙を疑う改革派市民が大規模蜂起。『BBC』や『CNN』を始めとする欧米メディアが現地に入れなかった一方、イランの若者が生々しいデモの様子(※例えば、26歳の女性が当局側の民兵に狙撃され、絶命するまでの映像等)をインターネット上にアップし、世界中の人々が“メディアが伝えない真実”を目の当たりにしました。

現地特派員がいないから報じないというなら、世界中報じられていないことだらけじゃないか――。大手メディア不信が世界的に募っていきました。そんな状況下で起きたのが『アラブの春』です。中東各地で続発する民衆蜂起の様子は、SNSによりリアルタイムで実況、或いは映像付きで配信され、ジャーナリズムの新しい潮流を予感させました。こうした追い風を受け、アサンジは手品師のように登場し、持て囃されたのです。超大国アメリカの“裏の顔”を次々と暴露するアサンジは、とりわけリベラル系メディアから大きな評価を得ていましたが、その風向きが大きく変わったのは2016年のアメリカ大統領選挙です。同年7月、ウィキリークスは民主党全国委員会幹部のメール約2万点(※つまり、同党候補のヒラリー・クリントンにとって不利になる情報)を公開し、その後も執拗且つ露骨にヒラリーを貶めるような情報ばかりを出し続けました。これが共和党候補ドナルド・トランプの陣営、延いてはロシアに利を齎したのは周知の通りです。既にエクアドル大使館で籠城生活を送っていたアサンジは、自身の身柄がアメリカ当局に渡ることを何よりも恐れていたでしょう。彼はジャーナリストではなく、ロシアに手を貸すことでアメリカ政府から逃れるという目的を持った活動家(※或いはロシアのスパイ)に過ぎない――。そんな見方がリベラル系メディアにも広がっていきました。今になってみれば、アサンジに心酔し、彼を英雄視した人々にとって“真実”とは何だったのか、非常に考えさせられるものがあります。あれだけハッキングに長け、アメリカ軍の機密情報を手に入れる際には内部告発者のパスワード解読をサポートしたと言われるアサンジが、ロシアの“不都合な情報”にはほぼノータッチだった。

“ロシアのスパイファイル”なるものを公表したこともありますが、その内容は既に公開されていたものの寄せ集めで、ロシア側に“検閲”してもらったような毒にも薬にもならないものでした。「アメリカの真実を暴露した自分は迫害をされている」と主張する彼自身の提示した“真実”が、かなりねじ曲がっていたことは疑いようがありません。ひとつひとつの情報は決して嘘ではない。けれども、自分に都合のいいものの断片だけをバイキング形式のランチのようにかき集めて、プロパガンダに落とし込む――。昔から活動家がよく使う手法を、アサンジはデジタル技術を駆使して現代風にアップデートし、国際世論を手玉に取ってトリックスターになったということです。日本でも、2011年の東日本大震災、及び福島原発事故の直後には、自身の主義主張のままに偽情報を垂れ流す“ジャーナリスト然とした人々”が大勢いました。多くの人が見事に踊らされ、慎重でなければならない大手メディアでさえも、サイエンスやファクトよりもオピニオンに重きを置いた記事を乱発していったように思います。いつだって真実は多面的です。ひとつの結論に向かって突き進んでいくすっきりとした“真実”を見たら、先ず疑うこと。この基本が如何に重要か、我々は改めて知る必要があるでしょう。


Morley Robertson 1963年、ニューヨーク生まれ。父はアメリカ人、母は日本人。東京大学理科一類に日本語受験で現役合格するも3ヵ月で中退し、ハーバード大学で電子音楽を学ぶ。卒業後はミュージシャン・国際ジャーナリスト・ラジオDJとして活動。『スッキリ』(日本テレビ系)・『みんなのニュース 報道ランナー』(関西テレビ)・『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)・『ザ・ニュースマスターズTOKYO』(文化放送)・『けやき坂アベニュー』(AbemaTV)等に出演中。近著に『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)・『悪くあれ! 窒息ニッポン、自由に生きる思考法』(スモール出版)。


キャプチャ  2019年5月20日号掲載
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テーマ : 報道・マスコミ
ジャンル : 政治・経済

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