純愛ノンフィクションの“不純な”思惑を追及!――32万部ベストセラー『殉愛』騒動と“たかじん利権”、これが真相だ!

2014年11月に発売されるや、たちまち32万部のベストセラーとなった百田尚樹『殉愛』。同年1月3日に他界したやしきたかじんと3番目の妻の闘病生活をつづったこの“純愛ノンフィクション”、調べるほど実に生臭い“たかじん遺産”囲い込みの思惑が透けて見える。 (本誌『殉愛』騒動取材班)

浪花の視聴率王・やしきたかじんが食道がんで世を去ってから1年。10億円とも言われる遺産と“たかじんブランド”の利権をめぐる関係者の争いは、ここに来て新たな局面に突入したようだ。引き金になったのは、2014年11月7日に発売された1冊の本『殉愛』(幻冬舎)。帯の言葉を借りれば「誰も知らなかった、やしきたかじん最後の741日」「かつてない純愛ノンフィクション」という内容で、著者は『永遠の0』『海賊と呼ばれた男』などで知られるベストセラー作家の百田尚樹。たかじんの2年間にわたる闘病生活を支え、壮絶な最後を看取った3番目の妻・家鋪さくら氏の証言と看護日記、さらに病床のたかじんが書き残したという1000枚を超えるメモを元に取材を敢行し、この本を書き上げたという。生前のたかじんとはほとんど交流がなかったうえに多忙な百田が執筆したことも驚きだが、それ以上に驚かされたのが、この本に未亡人のさくら氏が全面協力していたこと。さくら氏に関しては、たかじんが亡くなった直後から様々な話が囁かれていたが、それまで表立ってマスコミの取材に答えたことはなく、周辺から聞こえてくる話もネガティブなものばかりだった。

たとえば『週刊文春』(文藝春秋)は、「彼女はたかじんの死を彼の実母や実弟にも伝えず、火葬は参列者わずか5人ですませてしまった」「火葬場でたかじんの骨を見て『うわ~、焼き上がったマカロンみた~い』と言い放った」「未亡人が(関西の)テレビ局への関与を強め、過去の映像使用にも介入している」といった記事を2回にわたって掲載。その後も総額10億円とも言われるたかじんの遺産をめぐる争いでは、たびたび名前が取り沙汰されており、8月には『女性自身』(光文社)がこんな内容の記事を書いている(要旨)。「たかじんさんはマネージャーに、『俺が死んだら冠番組は全部終わらせてほしい。事務所は好きなようにしろ』と言ったそうです。12月末には遺産配分に触れたエンディングノートの存在も明かし、長女についても金を渡すと明言していたそうです。しかし、遺言状は未亡人が総取りのような内容で、『娘には一切遺産を相続させない』と書かれていた。これに対し娘は、『父親は正常な判断力を失った状態で書かされた』として無効の訴えを起こした」「たかじんの事務所“P.I.S”をめぐって、元マネージャーのK氏と主導権争いを繰り広げ、最終的には新会社“Office TAKAJIN”を設立。たかじんの遺言状をタテに、テレビ局から振り込まれるたかじんの名前を冠した番組の看板料をP.I.Sから新事務所に変更させた」――こうした報道を見る限り、たかじんの唯一の子供で長女のHさんや元マネージャーK氏といった関係者を排除し、遺産を独り占めしようとする悪妻ぶりは、まるで“後妻業のプロフェッショナル”のようでもある。ところが、『殉愛』に描かれたさくら氏の姿は、まったく違ったものだった。




さくら氏は「遺産目当てなどではなく、ただ純粋に愛のため、献身的にたかじんを支え、その遺志を守ろうとしただけ」という天使のような人物として描かれ、その合間には元マネージャーK氏や長女に対する批判・誹謗中傷が巧妙に差し込まれていた。「話が持ち込まれた出版の経緯をふまえれば、“殉愛”はさくら氏が仕掛けた反撃本ということなのでしょう。実際、ほぼ全編にわたってさくら氏の一方的な証言がベースになって語られるストーリーは、とてもノンフィクションと呼べるシロモノではありません」(大手出版関係者)。それでも、関西のカリスマ・たかじんの闘病記録と大ベストセラー作家という組み合わせの話題性は十分で、発売当日の夜には『中居正広の金曜日のスマたちへ』(TBSテレビ系)がこの本を特集し、スタジオゲストとして出演した百田はさくら氏の“天使ぶり”を力説。番組は関西で平均視聴率20.1%(ビデオリサーチ調べ)を記録するなど高い注目を集め、『殉愛』は発売からわずか1週間で6万部を売り上げる好調な滑り出しを見せた。「発売ギリギリまで内容を伏せておき、発売と同時にテレビや雑誌媒体を使ってセンセーショナルな内容をいっきに宣伝するという手法は、幻冬舎の見城徹社長お得意の手法。今の百田本は出せば売れる状況ですし、“殉愛”もノンフィクション本としては異例の初版25万部で、すでに7万部近くを増刷したそうです」(出版業界関係者)。いかにもミーハー受けしそうな美談とメディア戦略。ベストセラー作家のお墨付きを得たさくら氏は、「清楚で奥ゆかしく、たかじんの闘病を支えた立派な女性」として世間に認知され、その愛の証としてたかじんの遺産を手にする、はずだった。

ところが百田とさくら氏には、発売直後から強烈な逆風が吹き始める。ネットの世界で、『殉愛』に書かれた内容に対する疑惑が次々と噴出しはじめたのだ。疑惑の発端は、さくら氏の過去を知るという匿名の人物によるネットへの書き込みで、「彼女は年下のイタリア人と結婚していました」「今は削除されていますがブログをやっていたはず」というもの。通常であれば、そのままネットの中に埋没しても不思議ではない真偽不明の情報だが、これに反応したのがネットの住民たちだった。彼らは既に削除されていたさくら氏が書いていたと思われるブログをネットの海から掘り起こし、その全容を検証してみせたのだ。「シャネルとバーキンをこよなく愛し、高層マンション・タクシーの完全都会っ子生活から一転、恋した相手はイタリア・田舎っ子の彼……。慣れないカントリーサイドで国際結婚ブログ」という本人の紹介文から、どんな内容だったのかはおおよそ想像がつくだろう。後にさくら氏は、自分の過去の婚姻歴が暴かれたことに関し、「それは事実ですが、そういうセンシティブなプライベート情報は一部の人しか知らず、また戸籍を見ないと分からない。そうした情報がネットに掲載されることに恐怖を感じます」と週刊誌に語っているのだが、何のことはない。その情報のほとんどは、自分がネットに発信していたものだったのである。とにかく、ネット民の凄まじい取材力は、わすか数日で「さくら氏がイタリア人男性と結婚していたことはほぼ間違いない」という結論を導き出し、これで『殉愛』の信憑性はいっきに地に落ちることとなる。

婚姻歴の有無どころか、『殉愛』でのさくら氏ははっきり「独身」と書かれている。この本がたかじんとさくら氏の愛の物語であるのなら、出会った際にさくら氏が結婚していたかどうかは重要なポイントのはずだ。書かれていることは「すべて事実である」と明記している本の内容に明らかな“捏造”が見つかった以上、読者が不信感を持つのは当然で、ネットではさくら氏の過去に関してさらなる調査が繰り広げられた。「実際に籍は入れなかったようだが、アメリカ人男性と結婚するといって渡米したことがある」「新地でホステスのバイトをしていたことがあり、客として知り合った奈良のパチンコ店経営者と結婚したことがある。この前後に改名もしたようだが、1年ほどで離婚」「さくらがたかじんと結婚した後、イタリア人夫がいきなり高額な車やバイクを購入したようだ」「たかじんはさくらの結婚歴を知っていたのか。いや、そもそもイタリア人夫と離婚していなければ、たかじんとの結婚は重婚になるのでは?」。ちなみに日本の法律上は“重婚”ではなかったようだが、少なくとも交際を始めた当初のたかじんは“不倫関係”だったということになる。また、イタリア人男性の前にも別な婚姻歴があったことに関しては、後にさくら氏が週刊誌の取材の中で事実と認めている。

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こうして、およそ『殉愛』に描かれた女性とはまったく違った顔の“さくら像”が浮かび上がってきたわけだが、実はこうした疑惑が話題になっていたのはネットの世界のみ。ベストセラー作家である百田への配慮もあってか、週刊誌は軒並み沈黙し続けた。百田も、この時点ではまだ読者を騙しとおせると踏んでいたのだろう。Amazonでの書評欄で『殉愛』の低評価を目にした百田は、ツイッターに“逆ギレ”とも取れる怒りのツイートを連投しはじめたのだ。「未亡人に対する誹謗中傷がひどすぎる! 実態も真実も何も知らない第三者が、何の根拠もなく匿名で人を傷つける。本当に人間のクズみたいな人間だと思う!」「【略】非難されるところなど何もない未亡人を攻撃して、何が楽しいのか。恥を知れ!」。言うまでもなく、百田が憎くて非難していた人間などごく一部。批判の大半は“すべて真実”として書かれた本に明らかな捏造があったことに怒っただけなのだが、こうした暴言が“燃料”となって『殉愛』の話題はネット上でさらなる大炎上を続け、ほどなくして百田もようやく捏造疑惑を認めざるをえなくなる。「彼女の離婚の話を書くかどうかは、実は大いに迷った。本人ができれば知られたくないというプライバシーを明かす必要があるのか、と。誰にでも伏せておきたい過去はある。それに本のメインテーマはそこではない」「本に離婚歴を書かなかったというだけで、ネット上では『とんでもない悪女』という評判が立った。すべては私のミスである。以上!」。とても反省しているとは思えない“上から目線”は御愛嬌としても、結婚の事実を知っていながら嘘を書いてしまった時点でノンフィクション作家としては致命的な行為なのだが、それでもなお見苦しい弁明を繰り返す姿は、さらなる批判と疑惑の追及に拍車をかけることになった。

実際『殉愛』に関しては、その後もさくら氏の経歴や言動を中心に様々な疑惑が噴出し続けた。「テレビを見ないので、出会ったときにたかじんのことは知らなかったが、ナイナイ矢部のファンだったのはおかしい」「本当に5000万円をポンと出してくれる裕福な伯父がいるのか?」「2人は一度も肉体関係がないままだった」等々。その中でも最大の疑問点とされたのが“たかじんメモ”の真贋だ。生前のたかじんと親交のあった人たちからも、「たかじんってあんな字を書いたっけ? もっと読みづらい変ちくりんな字だった記憶が……」「筆跡が違うのは明らかですよ!」「テレビにあのやしきメモが出たとき、笑った。この人達は正気なのかと」といった声が出たこともあって、疑惑はいっきに拡大。真相をめぐってはいまだに検証・調査が続いている。さらに11月21日には、長女Hさんが幻冬舎に対して『殉愛』の出版差し止めと損害賠償訴訟を起こしている。提訴を知った百田は、「裁判は面白いことになると思う。虚偽と言われては、本に敢えて書かなかった資料その他を法廷に出すことになる。傍聴人がびっくりするやろうな」と挑発的なツイートをアップしながら、すぐに削除するという愚行を繰り返してみせている。強がりや言い訳を重ねるほど、物書きとしての信頼を自ら貶めていく姿はもはや哀れですらある。

長女Hさんの提訴は思わぬ方向にも影響を及ぼした。提訴の2日後の『たかじんのそこまで言って委員会』(読売テレビ)で予定されていた『殉愛』の特集が、直前ですべてカットされたというのだ。「“金スマ”と同様、さくら氏や百田を持ち上げるヨイショ企画ですが、関西ローカルということでさらに過激になっており、長女や元マネージャーKを実名で批判する内容だったと言われています。さすがに訴訟になった案件を一方的に取り上げたのでは放送法に抵触する恐れがありますから、急遽カットしたそうですが、そもそもそんな一方的な内容を放送しようとしていたこと自体が問題なんですけどね」(関西在住のジャーナリスト)。もともと、『殉愛』にはたかじんの冠番組『たかじん胸いっぱい』(関西テレビ)・『たかじんNOマネーBLACK』(テレビ大阪)・『たかじんのそこまで言って委員会』(読売テレビ)の関係者が実名で大量に登場しており、さくら氏を褒め称える一方で、長女Hさんや元マネージャーのK氏に対する辛辣な批判を繰り返し証言しているのだが、では彼らはなぜ百田の取材に対しさくら氏に有利な証言ばかりをしていたのか。実は、ここに今回の『殉愛』をめぐる騒動を読み解く鍵があるという。

たかじんの死後、3本の冠番組は揃って番組タイトルに“たかじん”の名前を残すという異例の決定を下している。死してなお“たかじん”の名前にはそれだけの価値があるというわけだが、その権利を受け継いださくら氏を抱え込むことができれば、関西のテレビ業界では十分に商売を続けることができる。「“殉愛”の目的は、関西のテレビ局関係者たちがさくら氏を利用して、長女のHさんや元マネージャーのKを“たかじん利権”から外すことだったのではないかという指摘があります」(関西のテレビ局関係者)。関係者がこうした見方を強めたきっかけが、2014年3月3日に開かれた『偲ぶ会』だったという。会ではさくら氏が会場の中央席に堂々と座り、実母・実子のHさん・弟さんなどの肉親は端の席に追いやられていたというが、それでも出席できただけまだマシだったようだ。会に出席した人物が証言する。「実は、元マネージャーのK氏が事前に、たかじんさんが生前の仕事でお世話になった関係者のリストを作ってさくら氏に伝えていたはずなんです。ところが、このリストからかなりの人間が外されてしまったため、特にたかじんさんと古くから親交のあった音楽業界やP.I.Sの関係者はほとんど来ていませんでした」

『偲ぶ会』の開催を含め、現在は何人かの番組関係者がさくら氏と新事務所をサポートしているようだが、なかでも中心的な存在として名前が挙がっているのが、制作会社『ボーイズ』の代表取締役・相原康司氏だ。「ボーイズはたかじんさんが出資して作った制作会社で、ほとんどたかじんさん関連の番組だけで食ってきたような会社です。現在も読売テレビ“たかじんのそこまで言って委員会”とテレビ大阪“たかじんNOマネーBLACK”を制作していて、社長の相原氏は“殉愛”にも実名で登場し『たかじんのイチの子分』と紹介されています。それだけに、たかじんさんが亡くなって一番困ってるのは間違いなく相原氏でしょう」(関西のテレビ局関係者)。さらに面白いことに、今年6月にはそのボーイズの取締役にさくら氏が就任しているのだ。「いわば“たかじん利権”でつながった利益共同体のようなもの。預貯金や不動産の遺産は別にして、たかじんさんに関わる権利関係はほとんどさくら氏が継承していますし、相原氏にとってはまさにメシの種。万が一にもたかじんさんの名前を引き上げられでもしたら、番組自体がなくなりかねない。一方、権利はあってもそれをお金にする術のないさくら氏にとっても、テレビ業界に幅広い人脈のある相原氏は頼りになる存在なのでしょう」(同前)

現在のところ、さくら氏は巨額の遺産を手にしたわけではない。たかじんの遺産は宙に浮いたままになっており、それどころか、今後の状況によっては思うような大金を手にすることはできない可能性すらあるというのだ。というのも、これまで報じられた情報を総合すると、不動産や株を含めたたかじんの遺産総額はおよそ8億6000万円。遺言書には、「うち3億円を大阪市に、2億円を“たかじんメモリアル”をやってもらう一般財団法人・OSAKAあかるクラブに、1億円を母校の桃山学院高校に遺贈し、残りをさくらさんが相続する」という内容が書かれていたという。つまり、「遺産総額のうち6億円は寄付で、残りがさくら氏」というわけだ。ただし、法的には遺言書の内容にかかわらず、長女のHさんには遺産総額の4分の1を相続する権利がある。つまり2億1500万円は長女が相続できるため、遺言通り6億円を寄付すれば、さくら氏の取り分は約4500万円しか残らないことになる。「これ以外にも、自宅金庫に1億8000万円が入っており、さくら氏は生前にたかじんと交わした業務委託費と主張していますが、扱いは流動的なままです」(週刊誌記者)

さくら氏は他にもさまざまな権利関係を継承しているが、こちらも意外なことにそれほど多くの収入は見込めないのだという。たとえば、たかじんは歌手としてのヒット曲は多いが、作詞・作曲はしておらず、カラオケでいくら歌われても歌手のたかじんに対する印税は発生しない。もちろんCDなどが売れれば印税は入ってくるのだが、現代はよほどの付加価値がなければCDが売れない時代でもあり、多くは望めない。残るは『やしきたかじん』という名前を使った商売。今のところ、たかじんの名前が残る番組の看板料に加え、オフィシャルウェブサイトを立ち上げて番組やライブのアーカイブ事業も開始しており、他にも記念ミュージアムやグッズの販売、たかじんの名前を使ったイベントのプランニングなども考えられる。「看板料は年間1億円超なんて報道もあったけど、そんなにあるわけない。下手すれば2ケタ低いんと違うか。そういえば、元マネージャーのKさんが以前P.I.Sに所属していた佐々木清次という歌手と一緒に追悼コンサートを企画したんですが、早速さくら氏側から中止の要請が入ったそうです」(関西のイベント関係者)

いずれにせよ、関西のテレビでは間もなくたかじん1周忌の追悼企画が流れることになるはず。さくら氏に流れる映像使用料が幾らになるのかを試算してみるのも一興だろう。「一番おぞましい人間は誰か、真実はどこにあるか、すべて明らかになる。世間はびっくりするぞ」。百田は長女Hさんの起こした裁判に関してこんなつぶやきをツイッターに投稿していたが、果たして一番おぞましい人間は誰で、真実はどこにあるのか――。 《一部敬称略》




■保守論壇に利用された世紀のトリックスター…“権力”に酔った人気作家が『殉愛』問題で見捨てられるまで
還暦を前にした“人気作家”が、ツイッターでAmazonレビューに対する批難を延々と繰り返す。実態のない“権力”に酔ったナルシシストが馬脚を現すのは意外に早かった。大阪の構成作家が安倍政権下で日本を代表する“保守言論人”に祭り上げられた、おかしな経緯を検証する。 (中岡耕次)

「確かに品がいい人ではなかったが、以前はあのような尊大な性格ではなかった。囲碁とクラシック音楽が好きな、腰の低い大阪のおっさんというイメージだったんですよ。ツイッターで読者をクズ呼ばわりするような人間ではなかったんですがね」。そう百田氏の印象を語るのは、8年ほど前から百田氏を知る大手出版社のベテラン編集者である。同志社大学在学中に当時の人気番組『ラブアタック!』常連出場者となり、フラれまくる“みじめアタッカー”として有名だった百田氏はそのまま大学を中退、放送業界を志す。その後、関西で長く構成作家として活動していた百田氏が『永遠の0』で小説家としてデビューしたのは2006年。ちょうど第1次安倍政権が発足した直後のことだった。だが、当時の資料のどこを見渡しても、その後朝日新聞や民主党の“反日”を糾弾し、南京大虐殺を否定するような百田氏の思想的発言は見つけられない。

その百田氏が急に“右転回”するのは2012年秋のことだった。この時期、百田氏は右派路線で知られる雑誌『WiLL』(ワック)の記事『“安倍再登板待望論”に答える』で、まだ野党だった時代(当時の自民党総裁は谷垣禎一)の安倍氏と初めて対談。ここで百田氏はすっかり意気投合し、直後の自民党総裁選で安倍総理を誕生させるための『有志の会』の発起人のひとりとなる。そしてここから雪崩を打つかのように、政治的活動に足を突っ込み始めるのである。波長の合う人と瞬間的に意気投合し、共闘を持ちかけるのはこの人の特徴のようだが、この場合の相手は権力者である。百田氏は自分自身が最大限に“利用”されていることへの自覚があまりに希薄だった。その後、安倍氏は自民党総裁選に勝利し、2012年の衆院選で大勝したのは周知のとおり。人気作家として大衆に強い影響力を持っていた百田氏と、総理に返り咲いた安倍氏は急速に親密度を深め、その後も何度か安倍首相との“対談”が実現している。いくら親密な関係とはいえ、時の総理とサシで政局を語ることのできる民間人はそういない。百田氏は多くの保守系メディアの“寵児”となり、政権を代弁する広報マンとしての役割を演じるようになる。

2013年10月、政府は国会同意人事となっているNHK経営委員会メンバー(定数12)について委員5名を衆参両院に提示した。ここに百田氏ほか、安倍首相と親密な学者や経営者合計4名の名が入っていたことは、NHK関係者に少なからぬ衝撃を与えた。「首相はお友達をNHK経営委員に入れるのか」という批判に対し、当時の百田氏はこう反論している。「(就任に当たり)総理とは一言も話していない。そんなに近くない」。近い関係にない人がNHK経営委員になるはずがないのだが、百田氏は当時ツイッターでこう怒りを爆発させている。「彼らは経営委員の仕事や権限がどんなものか知ってるのだろうか。彼らに教えてやりたい。経営委員が番組制作に口出ししたり介入したりなんか、まったくできないんだよ!」。経営委員が番組に影響力を行使できるかどうかではなく、首相が自身に近い人脈を公共放送の経営委員に送り込み、それがすべて無批判に承認されていく構図が問題視されているのだが、百田氏がコトの本質を取り違えるのは『殉愛』問題でも証明されたとおりである。“愛国者”を自任する百田氏であるが、安倍首相との親交はたかだかこの2年あまりで、これまでの2年は自民党に利用されたピエロに過ぎなかった。この『殉愛』問題で作家として致命傷を負った百田氏は、選挙で大勝した安倍政権にとってすでに“用済み”の人間となってしまったかもしれない。あれほど威勢良く批判していた朝日新聞は、自らの誤報を認め謝罪・検証したが、捏造ノンフィクションを指摘されても居直るばかりでミスを認める勇気すらない百田氏は見苦しい。

百田氏はツイッターでこう語っている。「昔から、人と争うことがあると、俄然元気が出る。売られた喧嘩は絶対に買う!」。喧嘩を売られているのではない。愛想を尽かされているのだ。馬脚を現した人気作家を、すでに多くの読者が見限っている。


キャプチャ  2015年2月号掲載


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