付加価値失った軽薄短小商品――売れるのは“小より大”、根本から変わる商品開発

70年前の焼け野原から驚異的復興を果たした日本。その原動力のひとつが製造業の小型実装技術にあったことは間違いない。家電を中心にあらゆる商品を軽く、薄く、短く、小さくする。軽薄短小化は日本のお家芸となり、日本メーカー躍進の礎となった。だが、新興国市場で日本企業が苦戦している原因のひとつは“製品の小ささ”にある。アジア市場を攻める各国ベンチャーの中には、商品の大型化で勝負する動きが出始めた。大型商品が人気を集める傾向は、核家族化が進む国内市場でも、顕在化しつつある。 (編集部 宇賀神宰司・西雄大・齊藤美保)

「このまま日本にいては自分が作りたいモノが作れない」──。そんな思いから2013年、ソニーを退職し、台湾の音響機器ベンチャーに身を投じた日本人技術者がいる。水倉義博氏、61歳。1972年に入社し、一貫してオーディオ開発を担当してきた。1990年代にヒットしたコンポ『Pixy』を筆頭に様々な先進的商品を世に送り出し、2004年にはオーディオ事業本部統括部長に就任。ソニーのオーディオ事業を長年支えてきた。そんな水倉氏がソニーを辞めてまでやりたかったこととは何か。それは、時代の流れに逆行し、“大きな音響機器”を作ることだった。2015年3月、水倉氏の思いを乗せた製品が形になる。それは“やたらと図体の大きいオーディオ機器”。外見は大型ラジカセ風で、横45cm・縦25cm。7インチモニターと40ワットのスピーカーを備え、価格は350ドル(約4万円)する。CDプレーヤーでもラジオでもないこの不思議な機械は、インドネシア市場向けに開発された家庭用カラオケ機器だ。

インドネシアでは、渋滞の激しさなどからカラオケボックスやスナックに行かず、家でカラオケを楽しむ人が多い。その際、大抵の人はスマートフォン(スマホ)でユーチューブの映像を見ながら歌っているが、片手にスマホ、片手でマイクでは、せわしない上に音が小さく盛り上がれない。だから、モニター・無線LAN・マイクを一体化した機械があれば間違いなく売れる──。知り合いのインドネシア人の言葉をヒントに、水倉氏がカラオケ機器の開発を思い立ったのはソニーに在籍していた3年前。が、提案は却下された。「音響機器の軽薄短小化が加速している今、そんなばかデカいモノを開発する余力はない」というのがその理由だった。確かにこの機器は小型化できない。モニターが小さいと画面が見えないし、スピーカーも大きくないと迫力がない。それ以上に事前調査で多くのインドネシア人から「4万円も出すなら、まず本体をスマホより何倍も大きくしてほしい」という声が上がっていた。諦めきれない水倉氏にチャンスの場を提供したのが、台湾に拠点を置くイーステックエレクトロニクスだ。水倉氏は今、同社新規事業部門のバイスプレジデントとして、現地発売へ向け最終準備を進めている。「既に予約が舞い込んでいるほか、アジアの電機会社がOEM(相手先ブランドによる生産)の検討を開始した」(水倉氏)という。水倉氏の挑戦がどこまで成功するかは未知数。ただ、間違いなく言えるのは、軽薄短小を優先する製品開発を続ける限り、水倉氏が見つけた鉱脈は絶対に発掘できない、ということだ。




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家庭用カラオケ機器を開発した水倉義博氏(左)。既にインドネシアで販促会を開催し、好評を博した。

高度経済成長期以降、日本メーカー躍進の礎となってきた軽薄短小化技術。1955年にソニーが開発したトランジスタラジオを筆頭に“軽い・薄い・短い・小さい”は日本製品の代名詞となり、強い競争力となってきた。だがここへきて、製品によっては、軽薄短小であることが逆に市場攻略の足かせとなる状況が生まれている。「新興国の家電市場はその代表例。とにかく大きいものが好まれる」。新興国市場に詳しい野村総合研究所の倉林貴之グループマネジャーはこう指摘する。大きければ大きいほどいい──。そんな新興国の人々の嗜好は、外国人観光客を見ても明らかだ。東京・秋葉原にあるラオックス本店。とりわけ中国人に人気の炊飯器は、高額で大容量なものほど売れる。冷蔵庫も海外では大きくないと売れない。サウジアラビアなど中東地区を中心に人気を集めるのは600リットル級以上だ。新興国の人々が大型家電を欲しがる理由のひとつは生活環境にある。例えば中国などでは大抵が共働きで、大量の食料を買いだめするため、冷蔵庫は大容量なほど助かる。また、アジアも中東もいまだ、親戚や友人などが大人数で集まる機会が多い。来客が多ければ冷蔵庫も炊飯器も容量が必要だ。また、彼らの多くが「家電をはじめとするあらゆる商品はステータスシンボル」と考えていることも大きい。野村総研が2013年5月、東南アジア諸国連合(ASEAN)市場を対象に実施した調査では、ベトナムでは40.5%、タイでは32.5%の人が、商品を選ぶ基準として「周りの人から羨ましがられる商品を買う」と回答した。「羨ましがられるには目立たないといけない。目立つには大きい方がいい。これが新興国全体に共通する考え方」と野村総研の倉林グループマネジャー。水倉氏の新型カラオケ機に対し、インドネシア人の多くがまず“大きな筐体”を要望したのも当然というわけだ。

住環境や国民性の違いなどを理由に新興国で支持される大型サイズの商品。実は、最近は日本国内でも“軽薄短小”が否定される市場が増えつつある。福岡県遠賀町にあるナッツは、キャンピングカーを全国に販売する国内最大手。2014年7月期の売上高は約36億円と前年同期比の約120%。5年前に比べて1.8倍以上に急成長した。けん引しているのは60代の消費者だ。核家族化が進む中、大人数での利用を前提とするキャンピングカー市場が拡大する理由について、シニアマーケティングに詳しい村田アソシエイツの村田裕之代表は「疑似的な大家族が増えているから」と指摘する。疑似的な大家族とは、祖父母世帯と子供・孫世帯が近距離に住む、いわゆる“近居”によってもたらされた家族形態だ。実際、「近くに住む孫と旅行したいからと購入するお客様は多い」とナッツの荒木賢治社長は指摘する。

IT(情報技術)機器の世界では、“重厚長大が軽薄短小を駆逐する”現象も表れ始めた。スマホ用のモバイル充電器だ。家電量販店などでは長らく持ち運びしやすい小型タイプが主流だった充電器。が、最近の人気は厚くて重いタイプ。ティ・アール・エイ(大阪市)が発売する『cheero』がその代表だ。2011年4月から主にネット経由で販売を開始し、口コミなどで評判が広がり、2012年に人気に火がついた。累計販売個数は100万個以上を記録する。売れ筋の『12000mAh』タイプは、縦15cm・横7cm・厚さ1.6cm。想像以上にずっしりしていて、重さも厚みも米アップル『iPhone6』の2倍以上ある。それでも人気なのは、1つで約4回分の充電ができるからだ。「モバイルをうたう以上、小さいに越したことはない。しかしユーザーの多くは小ささより何回も充電できる利便性を望んでいる」と同社広報担当者は話す。多くの商品開発の現場において美徳とされてきた軽薄短小。しかし生活環境が変化していく中で、重いほど、厚いほど喜ばれる製品も増えているのである。新興国や国内の一部分野で大型商品の人気が出ても、中・小型商品の市場が消滅するわけではない。キャンピングカー市場が拡大しても軽自動車は売れ続けるし、多少不便でも小型充電器を購入するユーザーもいる。だが「だから、日本企業は軽薄短小優先のモノ作りを続けていい」という話にはならない。“小さなもの”は着実にもうからなくなってきているからだ。

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1982年の価格は同特集から引用。2015年の価格は1月中旬時点の代表的な製品の重量とその標準的な店頭価格などから算出した。

本誌は1982年2月8日号で『産業構造 軽・薄・短・小化の衝撃』と題した特集を掲載した。「軽薄短小こそ日本の生きる道」と提言した企画だったが、その主張の最大の根拠となったのが、腕時計から乗用車まで40品目以上の製品の“1kg当たりの価格”を調べ上げた独自調査だった。それによると腕時計の1kg当たりの価格は15万円もあるのに乗用車は1100円しかない。電卓は20万円だが冷蔵庫は2800円程度。軽薄短小商品ほど付加価値が圧倒的に高かった。だが今はどうか。今回、当時と全く同じ手法で再調査をしたところ、逆の状況が判明した。軽薄短小商品の多くが価値を下げ、乗用車・冷蔵庫・大型ロボットなど重厚長大商品はほとんど変わらないか、その価値を向上させた。要因は、言うまでもなく技術革新。こんな状況下で、軽薄短小中心のモノ作りを続ければ、日本の製造業全体の付加価値が下がり続けることになりかねない。1997年の521兆円をピークに低迷を続け、2010年には中国に追い抜かれた日本のGDP(国内総生産)。そんな国力低下に歯止めをかけるためにも、企業は、商品開発を見直す必要がある。


キャプチャ  2015年1月26日号掲載


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