【2015年の世界を読み解く】(02) 第2次冷戦を回避するために…一触即発の世界情勢を立て直すには、すべての国を巻き込む協力体制を整えるべきだ

2014年が終わりを迎えようとする今、誰の目にも明らかなことがある。1989年以来守られてきた欧州や国際社会の政治構造が、この1年で崩れ去ったということだ。東西冷戦が終結して以来、世界情勢がこれほど緊迫し不安定化したのは初めてのことだろう。大国同士の断絶が深まるなか、欧州や中東で流血の惨事が続いている。今や世界は“第2次冷戦”勃発の瀬戸際に立たされているようだ。いや、既に新たな冷戦時代の幕が切って落とされたのかもしれない。にもかかわらず、世界平和の鍵を握るはずの国連安全保障理事会はその役割を果たせず、武力衝突や虐殺を止めるための具体的な対策を打ち出せずにいる。安保理はなぜ、危機を食い止める国際的な枠組みの構築に全力を傾けないのか。一番の理由は、冷戦終結を可能にした相互努力による信頼が崩れ去ってしまったことにあると思う。相手への信頼がなければ、グローバル化した今の世界で平和的な国際関係を築くことは不可能だ。ただし、信頼の崩壊は最近になって突然始まったわけではない。現在の危機的状況のルーツは1990年代にさかのぼる。

冷戦の終結は、欧州が生まれ変わり世界がそれまでより安全になるターニングポイントとなるはずだった。しかし、NATO(北大西洋条約機構)が1990年のロンドン宣言で掲げた約束、「欧州の安全保障を担う新組織の設立と欧州の非軍事化」は実現しなかった。逆に西側世界(特にアメリカ)は東側への勝利を宣言し、西側の指導者らは高揚感に酔いしれた。ロシアが弱体化して対抗勢力が不在だった状況に乗じて、彼らは国際社会における権力の集中に警鐘を鳴らす声に耳を貸さなかった。最近の世界情勢の緊張関係は、他国の利益を無視して自国の要求ばかりを近視眼的に主張してきた長年の姿勢の産物だ。そうした姿勢は、NATOの東方拡大やユーゴスラビア紛争・ミサイル防衛計画・イラク戦争・リビアやシリアなどさまざまなシーンで繰り返されてきた。その結果、当初の水ぶくれが今や重傷になっている。




その影響を最も深刻に受けているのが欧州だ。欧州はグローバル化された世界の変化を牽引するどころか、政治情勢が激変し、各国が競争力を競い合い、軍事衝突が勃発する舞台となってしまった。これでは他の地域の大国が影響力を強めていくなかで、欧州の存在感が失われていくのは自然なことだ。この状況が続けば、欧州は国際社会への影響力を失い、蚊帳の外に追いやられてしまうだろう。だが幸いなことに、欧州には1980年代の経験という財産がある。当時の国際情勢は今に負けず劣らず危険に満ちていたが、私たちは東西の関係を正常化させたばかりでなく、冷戦を終結させることにも成功した。それを可能にしたのは対話であり、対話を可能にしたのは政治的な意思を持って、正しい優先順位を付けたことだった。今日の最優先課題は、対話そのものを取り戻すことだ。まずは互いに言葉を交わし、相手の主張に耳を傾ける必要がある。希望の光はある。ウクライナでの停戦を定めた2014年9月のミンスク合意や、ロシアからウクライナへの天然ガス供給をめぐる両国とEUの3者合意など、少しずつとはいえ成果が上がっている。

両陣営は非難合戦を繰り返す現状を脱し、互いにダメージが大きい経済制裁を徐々に解除していく方向に向けて歩みを続けなければならない。その第一歩として、ロシアの政治家や政府高官などの個人を標的とした制裁措置を解除すべきだ。そうすれば、彼らは再び双方が受け入れられる解決策を探す取り組みに尽力するだろう。両陣営が協力しやすい分野としては、内戦被害を乗り越え被災地の再建に取り組むウクライナへの支援が挙げられる。国際社会の課題や欧州全域への安全保障についても同じことが言える。テロ・貧困・地球温暖化・不法移民・感染症といった世界的な重要課題は、日々深刻さを増している。問題の中身は多岐にわたるが、すべてに共通するのは軍事力では解決できないという点だ。しかし、これらの課題を解決するための政治的な枠組みは存在しないか、機能不全に陥っている。世界的な危機が相次いでいる状況を考えれば、政治的・経済的・環境的に持続可能な枠組みを早急に整える必要があることは明らかだ。欧州の安全保障については、欧州全域を巻き込んだ解決策でなければ無意味だろう。NATOを拡大したり、EUの防衛政策を見直すといった方法は逆効果になりかねない。必要なのはすべての国を巻き込んだ、より包括的な組織や枠組みを整え、すべての関係国に安心を保障することだ。

そうした役割を担う組織として、欧米諸国とロシアを含む旧ソ連圏が加盟する欧州安保協力機構(OSCE)への期待が高まっていたが、十分に機能しているとは言えない。OSCEの国際監視団がウクライナで活動していることからも、すぐに新たな組織と取り換えるべきだとは考えないが、大規模な組織改革が必要なのは確かだ。その昔、ドイツのハンス・ディートリッヒ・ゲンシャー外相と、ジョージ・ブッシュ政権下のブレント・スコウクロフト国家安全保障問題担当大統領補佐官らが、欧州版安保理の設立を提案したことがあった。数年前にはロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領も、加盟国の安全保障が脅かされる事態を未然に防ぐための外交機関の新設を呼び掛けた。そうした枠組みがつくられていれば、ウクライナをめぐる最悪の事態は避けられたはずだ。もちろん、こうした“ヨーロッパ的なアイデア”を資料の山に埋もれさせてしまった責任は、各国を率いる指導者たちにある。同時に、彼らを輩出している各国のエリート層や市民社会の諸制度・メディアにも責任の一端はある。私は楽観的な人間だが、2014年が幕を閉じる今、悲観的な思いを抱かずにはいられない。それでも、私たちは絶望にさいなまれ無力感に押しつぶされている場合ではない。過去数ヵ月間の苦い経験を、対話と協力体制を取り戻すという決意に変えていかなくてはならない。新年の幕開けとともに、世界の指導者たち、そしてすべての人々に呼び掛けたい。今こそ共に考え、提案し、行動を起こそうではないか。 (元ソビエト連邦大統領 ミハイル・ゴルバチョフ)


キャプチャ  2014年12月30日・2015年1月6日新年合併号掲載


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