【2015年の世界を読み解く】(04) 絶望的な中東にも希望の芽はある…ISISやパレスチナ問題など課題が山積、多国間外交と楽観主義が解決の糸口になる

私が政界に入ったのは1991年。湾岸戦争が勃発し、終結後にマドリードで中東和平会議が開かれた年だ。パレスチナ問題とそのほかの厄介な問題が複雑に絡み合った中東の状況は、あの頃も今も変わっていない。当時から中東の紛争を解決するために多種多様な試みが実施されてきた。言うまでもなく、わがトルコも地域の平和と安定と協力を目指し、諸外国と連携して外交努力を重ねてきた。しかし、四半世紀にわたって膨大な労力と資源を投じてきたにもかかわらず、こうした取り組みは大した成果を生んでいない。その間に何千人もの罪のない人々が、暴力や憎悪や報復の犠牲になってきた。多数の民間人が殺された2014年夏のパレスチナ自治区ガザ空爆・イスラム教スンニ派テロ組織『ISIS』(自称イスラム国・別名ISIL)の残虐行為・エルサレムで頻発するテロ事件……。これらすべてが、暴力は暴力を呼ぶという単純な真理を物語っている。

1991年には、イラクのサダム・フセインがこの地域の唯一の脅威だった。今はいくつもの脅威が絡み合い、リスクが相乗的に増加している。1991年には米ソの協力でマドリードの和平会議が実現したが、今はアメリカとロシアの関係は冷え込んでいる。地域の立役者も国際的なプレイヤーも、悪化の一途をたどる中東問題にいら立ちを隠せない。この状況でさらに悲観論を持ち出しても事態は悪くなるだけだ。そこで、ここ数ヵ月に散見された前向きな動向に解決の糸口を探ってみたい。




まず、シリアのアサド政権に化学兵器を廃棄させたこと。これは各国の連携が建設的な結果を生むと実証した快挙だった。同じく、イランの核開発をめぐる協議の期限が延長されたことも、最終合意がまとまる可能性に望みをつないだ点で前向きな一歩と言える。最終合意に至れば、多国間外交の偉大な勝利となる。イラクに包括的な政権が誕生したことも前向きな兆候だ。さらに、クルド自治政府とバグダッドの中央政府が対立解消に向けて動き出したこと。クルド自治政府は独立の是非を問う住民投票の実施を見合わせたが、これはイラクと地域全体の安定にとって喜ばしい決定だった。ISISと戦うために結成された国際的な有志連合についても同じことが言える。軍事的には目に見える成果が出ているが、ISISを倒すには“ハードパワー”だけでは不十分だ。絶望や恐怖からISISになびいた地元住民や長老たち。彼らに支持されるような統治システムを粘り強くつくり上げることが、最終的な解決に結び付く。ISISをハードパワーで封じ込める段階は終わっていないが、アフガニスタン・イラク・リビア・シリアで繰り返された過ちは避けなければならない。時期を逸せず、戦いの出口と政治的な権限移譲に向けて戦略を練るべきだ。ISISの脅威には中東の政治・イデオロギー・経済・社会の病理がすべて凝縮されている。そのため、大胆かつ包括的な解決策が必要になる。ヨーロッパの一部の国の政府や政党や議会が、パレスチナ国家の承認に向けて動き出したことも歓迎すべきだろう。この進展の背景にあるのは、外交の手詰まりへの失望感だ。その責任はパレスチナではなくイスラエルにある。承認の動きは、公正な解決を望むイスラエル・パレスチナ双方の当事者の励みになるだろう。イスラエル政府がヨルダン川西岸の入植地『エルサレム』とその聖地の帰属に関して自制心を発揮すれば、関係各方面にとってプラスになる。

最後に、『アラブの春』はチュニジアを除くすべての国でつぶされたが、中東の人々の期待と切望と関心は今も失われていない。アラブの春が突き付けた民主化要求や人権擁護・男女平等・社会的公正を求める声が今後も中東の政治課題を形成していくだろう。問題はこうした動きを統合し、さらに前進するための方策だ。一案として、欧州安保協力機構(OSCE)をモデルにした安全保障体制の構築を挙げたい。これは1970年代に提唱されたビジョンだ。今はその実現が困難な状況だが、むしろ困難だからこそ実現を目指すべきだ。こうした機構を創設するには、エネルギーや水資源も含めた強固な経済協力が必要になる。従って、各国政府に長期の戦略的志向を促すことにより、問題が起きれば地域の国々が協力して解決に当たるようになる。今の中東は未曽有の混乱の渦中にある。だからこそ楽観的な見方が求められるのだ。前向きな動きと展望を土台にして初めて、地域の平和と安定が回復され保障される。そうでなければ、中東を待つのは悲観論者さえ想像しない陰惨な状況だ。 (前トルコ共和国大統領 アブドラ・ギュル)


キャプチャ  2014年12月30日・2015年1月6日新年合併号掲載


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