【2015年の世界を読み解く】(06) “皇帝”習近平が抱える深刻な矛盾…反腐敗闘争で汚名返上には躍起だが、民主主義や言論の自由なしには持続可能な経済的繁栄もあり得ない

ある中国人研究者からこんな話を聞いたことがある。この研究者の両親は共産主義革命前の1930年代、汚職と腐敗に嫌気が差してアメリカに移住した。彼らはカリフォルニア州の大学でまずまずの職を得たが、1949年の中華人民共和国成立後、新中国建設に協力するため帰国した。父親は1950年代の反右派闘争や1960~1970年代の文化大革命で批判の対象になり、実刑判決を受けた末に失意のうちに亡くなった。それでも母親は中国共産党への忠誠を貫いた。夫の苦難は“より大きな善”のための代償だと考えていた。だが晩年になると、母親は汚職の蔓延に心を痛めるようになり、自分と夫の生涯を通じた自己犠牲は無駄だったという感情を抱いたまま世を去った。有害で不道徳な1930年代の慣行が復活したからだ。

2014年末の時点で、“反腐敗闘争”は習近平国家主席にとって大きな懸案となっている。それも当然だろう。国際的な汚職監視団体『トランスペアレンシーインターナショナル』の腐敗ランキングによると、中国の清廉度は世界175ヵ国・地域中で100位。アルジェリアやスリナムと同レベルにとどまっている。ロレックスの高級腕時計をはめ、マセラティのスポーツカーを乗り回し、海外の租税回避地に精通している――そんな政府当局者の話が次々と明るみに出て、共産党に対する人々の不信感は高まっている。習は近年の中国で最も強力な指導者だが、果たして腐敗に歯止めをかけることは可能なのか。




毛沢東の死後、最高実力者となった鄧小平は、ワンマン体制の統治は中国にとって危険過ぎると判断した。1人の独裁者の気まぐれが国全体を振り回す最悪の事例を経験したからだ。そのため、1992年の『南巡講話』を最後にした鄧の引退から習が2012年に共産党総書記に就任するまで、中国は党最高幹部たちの話し合いで物事を決める集団指導体制を維持してきた。国家主席の江沢民も胡錦濤も、皇帝というより“最高幹部の序列1位”と呼ぶべき存在だった。だが、時計の針は再び“皇帝型”リーダーの時代に戻った。党指導部の腰が座っていないという見方が広がり、重大な決定、特に経済改革についての決定を回避しているとの懸念が強まったためだ。習は党と国家のトップに就任後、短期間であらゆる権力を自分1人に集中させ、李克強首相は脇に追いやられた。多くの党幹部は、権力奪取を企てたともいわれる元重慶市党委書記・簿煕来の逮捕に衝撃を受けた。そして先日、遂に元最高幹部メンバーの周永康が汚職容疑で逮捕された。周はかつて中国の公安・司法機関のトップだった人物だ。

習の反腐敗闘争が成功するかどうかは、中国の将来にとって決定的に重要な意味を持つ。縁故主義より実力を優先する社会規範を確立し、壮大な資本の無駄遣いを是正するためには、綱紀粛正以外に方法はない。資金の流れが政治に左右される現状では投資の優先順位を容易にゆがめられ、賄賂と売官は事態をさらに悪化させる。習は党幹部や軍高官の子弟からなる『太子党』の1人であり、貴族然とした自信たっぷりの行動を取る。だが、その習にも限界はある。党の正式決定が出るまで汚職役人や交換を名指ししてはならないという大原則には従わざるを得ない。習の汚職撲滅運動には、中国ならではの特徴がある。高官に収入の内訳を公開させるべきだと主張するのは、(政治的には危険だが)ごく真っ当な意見だ。しかし党指導部は、それを当局に要求した活動家を逮捕した。金融情報サービス大手のブルームバーグとニューヨークタイムズ紙は、習を含む党最高幹部の親族にまつわる蓄財疑惑を詳しく報道した。その結果、当局の猛攻撃を受け、間もなく中国報道の縮小に追い込まれた。習は汚職を摘発する党中央規律検査委員会のトップに前副首相・王岐山を起用したが、その理由の1つは王夫妻には子供がなく、親族のために追及の手を緩める心配がなかったからだという見方も一部にある。

たとえ現状が目標達成に妨げになろうと、習に中国の政治文化を変えるつもりがないことは明らかだ。だが、情報の透明性・複数政党制・法治主義・言論出版の自由・民主主義的な説明責任といった要素は当局者の清廉さを確保する最善の方法であり、習が目指す経済改革を実現させる最も確実な手段でもある。中国は市場経済と官僚支配を組み合わせた独自の開発モデルの成功を盛んにアピールしている。だが2015年に中国経済の減速がはっきりすれば、“皇帝型”リーダーの習も開かれた社会と持続可能な経済的繁栄の関連に気付くだろう。 (最後の香港総督 クリス・パッテン)


キャプチャ  2014年12月30日・2015年1月6日新年合併号掲載


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