【2015年の世界を読み解く】(07) 小さな政府とも金融緩和とも違う第3の道へ…6つの資本財に的を絞った戦略的公共投資が持続可能な開発のカギ

今日の経済論争は、もっぱら自由市場派とケインズ派の間で行われている。前者は、政府の仕事は減税と規制緩和・労働法の改革だけで、あとは消費者が勝手にカネを使い、生産者が雇用を創出すると主張する。これに対して後者は、政府は量的緩和と財政出動による景気刺激で総需要を拡大すべきだと訴える。今のところ、両陣営とも思うような結果は出せていない。世界には別のアプローチが必要だ。それは、政府が新しいタイプの投資を行う“持続可能な開発の経済学”である。自由市場派の理論は富裕層にとっては最高だが、それ以外の人々には災厄でしかない。欧米諸国の政府は社会福祉・雇用創出・インフラ整備・職業訓練の支出を減らし続けている。金融緩和と巨額の財政赤字を伴うケインズ派の解決策も成功には程遠い。

2008年の金融危機後、各国政府は景気刺激のために歳出を増やしたが、近視眼的な景気浮揚策は2つの大失敗を引き起こした。まず、政府債務が膨れ上がり国債の格付けが急落したこと(アメリカも最高ランクのAAAから転落した)。第2に、民間部門の投資拡大と雇用増が思うように進まなかったことだ。企業は莫大な内部留保をため込み、税制面で有利な外国に資金を移動させた。両陣営とも、現代における投資の本質を誤解している。どちらも投資の主体は民間部門だと考えているが、現在の民間投資は公的部門の投資次第という側面が大きい。これからの公共投資のカギは6つの資本財だ。企業資本・インフラ・人的資本・知的資本・自然資本・社会関係資本である。企業資本には民間所有の工場や機械・情報システムなどが含まれる。インフラは道路や鉄道・電力&水道網・パイプライン・空港や港湾など。人的資本は労働者の教育やスキルや健康。知的資本は社会の核となる科学技術のノウハウ。自然資本は農業や人々の健康、都市を支える生態系と天然資源。そして、社会関係資本は円滑な貿易や金融・行政を可能にする共同体内部の信頼関係を指す。この6つは相互補完的関係にある。インフラや人的資本がなければ、企業の投資は利益を上げられない。社会関係資本、つまり信頼がなければ、金融市場は成り立たない。人的資本に対する公共投資の成果を誰もが利用できなければ、収入と富の極端な格差で社会は機能不全に陥るだろう。




かつての投資はもっと単純だった。当時は基礎教育・道路や電力網・世界市場へのアクセスが発展のカギを握っていた。だが、今や基礎教育だけでは不十分で、労働者は高度な専門スキルが必要になっている。電力網は急激に高まる『低炭素電力』のニーズを満たさなくてはならない。政府は知的資本への投資を通じて、気候変動や情報システムの管理といった新しい問題に対処する必要がある。しかし、ほとんどの政府はこうした投資の重要性を理解せず、逆に公共投資を減らしている。つまり、政府には長期的な投資戦略が欠けている。インフラ整備の優先順位・環境面で持続可能な投資・低賃金のサービス業以外の雇用につながる若者への職業訓練――政府はこれらの重要性をもっと学ぶ必要がある。この主張はワシントンでは異端扱いだが検討する価値はある。世界最速のペースで経済成長を続ける中国は、国家発展改革委員会が立案する公共投資の5ヵ年計画を頼りに経済運営している。だがアメリカには、公共投資戦略を総合的に監督する機関すらない。今の世界には、5ヵ年計画以上のものが必要だ。労働者の技能向上やインフラ整備・21世紀の低炭素型経済を実現するために、20~30年単位の戦略が求められている。2014年11月の20ヵ国・地域(G20)首脳会議では、官民共同の責任としてインフラ投資の重要性があらためて強調された。正しい方向に向けた小さな前進である。新しい“持続可能な開発の時代”には、“持続可能な開発の経済学”が力を持つはずだ。 (コロンビア大学地球研究所所長 ジェフリー・サックス)


キャプチャ  2014年12月30日・2015年1月6日新年合併号掲載


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