【2015年の世界を読み解く】(09) 米中主導の“脱・温暖化時代”が始まる…CO2の2大排出国が大胆な合意を発表、排出権価格が上がれば好循環が生まれる

2014年は、久々に気候変動に関する明るいニュースが伝えられた年だった。11月に北京で発表されたバラク・オバマ米大統領と中国の習近平国家主席の歴史的な合意がそれだ。オバマはアメリカの温室効果ガス排出量を2025年までに2005年比で26~28%削減するとし、習は国内の二酸化炭素(CO2)排出量を2030年頃をピークに減らす方針を示した。どちらも、これまでよりはるかに踏み込んだ内容だ。この合意を踏まえ、アメリカと中国が2015年11~12月にパリで開催される国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)でイニシアティブを発揮すれば、オバマ・習会談は画期的な一歩として歴史に刻まれるだろう。1980年代に、当時のロナルド・レーガン米大統領とソ連共産党書記長ミハイル・ゴルバチョフの首脳会談が核戦争の恐怖から世界を救ったように、文明の滅亡を回避するために賢明な判断を下したと、後世の歴史家に評価されるかもしれない。

米中合意がゲームを変える重要な取り決めであることはほぼ誰もが認めているが、真の意義は見過ごされている。経済規模だけでなくCO2の排出量でも世界の超大国である米中が排出を削減すれば、国際市場で取り引きされる排出権の価格が上がる。排出権を買うコスト(CO2の排出コスト)が上がれば、省エネの強力なインセンティブになるのだ。米中2ヵ国は世界のCO2排出量の45%を占め、その動向は排出権取引市場に大きな影響を与える。経済規模と排出量で世界第3位のEUも、2030年までに1990年比で40%の削減を達成するというさらに野心的な目標を掲げている。一部エネルギー大手も、排出権価格の上昇は避けられないとみている。例えば、米エクソンモービルは2030年までに1トン当たり60ドル、2040年までに1トン当たり80ドルに上がると想定。油田開発などの投資の採算性を再検討している。米中合意が排出権の国際価格の上昇につながれば、あらゆる状況が変わると考えられる。CO2排出が高くつけば世界中の人々や企業がこぞって、再生可能エネルギーへの転換と省エネ技術の普及を後押しするだろう。取り組みは待ったなしだ。NASA(米航空宇宙局)は2014年5月、『西南極』と呼ばれる南極の西側の一部で、気温上昇による氷床の融解が“不可逆的な”段階に入ったと発表した。氷床が完全に解けるには200~1000年かかるが、もはや融解は止められない。最終的には、海面が3.6~4.5m程度上昇する。そうなれば、東京・上海・ニューヨーク・ワシントンをはじめ世界の主要都市が広い範囲にわたって水没するだろう。また、エジプトやバングラデシュの河口地帯、中国・ベトナムの沿岸部など生産性の高い農地が水没し、食料の安定供給も脅かされる。




気候変動は南米の多くの地域でも大きな被害をもたらしている。ブラジル最大の都市で所得も高いサンパウロは2014年、実に80年ぶりといわれる大干ばつに見舞われた。記録的な干ばつはアマゾン川流域で起きている変化と関連があると、ブラジル国立宇宙研究所の気候科学者アントニオ・ノルベルトは指摘する。アマゾン流域では温暖化による気温の上昇に加え、森林伐採が再び盛んになり、大量の水を涵養する熱帯雨林の機能が損なわれているのだ。例年、アマゾンの森林で涵養された水は大気中に蒸散されて雲となり、風に運ばれて西と南に降雨をもたらす。この“空飛ぶ川”の水量が2013年に大幅に減ったとノルベルトは言う。2013年は、それ以前の5年間は減少傾向にあったアマゾンの年間伐採面積が大幅に拡大した年でもある。そのため、ブラジル中部と南部の豊かな農地が干ばつにたたられた。最も被害が深刻だったのがサンパウロだ。市に3つある緊急用の水源地のうち1つは枯渇し、2つ目から取水するほかなかった。幸い2つ目が枯渇する前に雨が降ってくれたが、降らなければ泥沼同然の3つ目の水源地から取水せざるを得なかった。

もっと気掛かりな事態も進行している。科学者たちは以前から、温暖化の進行による“正のフィードバック”について警告してきた。限界点を越えれば連鎖的にどんどん状況が悪化し、歯止めが利かなくなるというのだ。例えば、気温が上がると極地の氷床の表面の氷が解けて水になる。氷は太陽光の大半を反射するが、水は光をよく吸収するため水温が上がり氷の融解に拍車がかかる。同様に、気温上昇でアマゾン川流域は暑く乾燥した一帯になり、最終的には草木が立ち枯れる可能性がある。そうなれば、植物の蒸散によって形成される雲が減り、地上に降り注ぐ雨が減る。降雨が減れば森林にさらにストレスがかかり、最悪の場合は湿潤な緑の熱帯雨林が乾き切った砂漠に姿を変えるだろう。アマゾンの木々や草が枯れれば大気中に大量のCO2が吸収されずに残り、温暖化がさらに進行する。大気中のCO2は、その後何百年にもわたって温室効果を発揮する。そのため、排出量を今すぐゼロにしても、少なくともあと30年間は地球の気温は上昇し続ける。地球の気温が観測史上最も高かった10年のうち9年は、2000年以降の年だ。NASAの推定では、2014年は観測史上最も暑かった年になりそうだが、今後も温暖化が進むのは確実だから、その記録は次々に塗り替えられるだろう。

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文明の滅亡を避けるには、気温上昇をできるだけ小幅に抑える必要がある。2009年のCOP15では、地球の気温の上昇を産業革命以前の水準から2度以内にすることで各国が合意した。しかし現実には、気温が“わずか”1度上昇しただけで西南極の氷床の融解が不可逆的に進むなど、数々の異変が起きている。2度以内なら安全だとは決して言い切れない。それでも2度以内に抑えることができれば、2014年11月に発表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書にあるような壊滅的な変化は避けられると科学者たちは考えている。IPCCの報告書は、化石燃料の使用を段階的に減らし、2100年までにほぼゼロにしなければ、「深刻で広範囲に及ぶ不可逆的な」影響が人類を待ち受けると警告している。世界の経済が化石燃料に大きく依存している現状を考えれば、22世紀までに使用をゼロにするには今すぐ行動を起こさねばならない。だがそれには、米中が合意した程度の削減努力では到底足りない。より野心的で包括的な合意を形成するための最初のステップと位置付けるべきだろう。

ここでもう一度、人類が以前に存亡の危機に直面したときのことを振り返ってみよう。1980年代後半の米ソ核軍縮交渉に道を開いた最初の首脳会談では、本格的な核軍縮とは程遠い合意しかまとまらなかった。しかしこの会談で米ソの長年にわたる確執が打ち破られ、信頼が醸成され、交渉に弾みがついた。そして世論の支持が高まり、第2・第3・第4の合意に至り、ついには核兵器開発競争に終止符が打たれた。同様に、気候変動に関する米中合意も、何十年も国際的な取り組みを妨げてきた2大国の対立を打ち破るものだった。道が開かれた今、米中はさらに踏み込んだ合意をまとめ、他の国々も巻き込んで、COP21では新しい枠組みづくりでイニシアティブを発揮すべきだ。排出権の国際価格が上がれば、排出削減努力にもさらに弾みがつく。CO2の排出コストが高くなれば、消費者も生産者も投資家も化石燃料に代わるエネルギー源を求めるからだ。その結果、太陽電池や風力発電、省エネ構築の需要が高まり、生産が増加し、価格が低下する。価格が低下すれば需要はさらに伸び、好循環が生まれ、化石燃料に対する代替エネルギーの競争上の優位がさらに増す。世界的に見ると、代替エネルギーは普及が一気に加速する臨界点に近づきつつある。CO2削減や省エネ技術のコストは急速に低下しつつあり、市場シェアは飛躍的に増えつつある。さらに排出権価格の上昇という追い風が吹けば、代替エネルギーの優位は決定的なものになり、現時点での予想をはるかに超えてCO2の排出量が急激に減るだろう。こうした好循環が生まれるには、2つの排出大国が約束を守ることが大前提になる。アメリカは、カナダからテキサス州に原油を運ぶパイプライン計画など排出削減に逆行する事業をやめるべきだ。また、中国の石炭消費の伸びが2020年までに頭打ちになれば、温暖化の進行を遅らせる可能性がある。

温暖化と核開発競争との共通点に話を戻そう。いずれの場合も、世論の圧力がなければ政府は重い腰を上げなかった。1980年代には、ニューヨークやヨーロッパの主要都市で何百万もの市民が通りを埋め尽くし、核軍縮を訴えた。2014年に米中首脳が大規模な抗議行動に直面した後、温暖化対策で歴史的な合意を取り交わしたのも偶然ではない。9月のニューヨークでは数十万もの人々が温暖化防止を訴えるデモを繰り広げた。中国でも、息ができないほどのすさまじい大気汚染に人々の怒りが噴出している。環境に限らず多くの問題に当てはまることだが、人々が声を上げ行動しなければ前進は望めない。それが歴史の教訓だ。未来の世代のために生存可能な気候を守ること――2015年を、人類がようやくこの課題に本腰で取り組み始めた記念すべき年にできるかどうかは、私たち一人一人に懸かっている。 (環境ジャーナリスト マーク・ハーツガード) =おわり


キャプチャ  2014年12月30日・2015年1月6日新年合併号掲載


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