企業誘致に新幹線効果、工場立地の伸び率は全国有数――新幹線に乗って企業も北陸へ…地方創生、第一歩

東京と金沢を2時間半で結ぶ北陸新幹線開業まで1ヵ月に迫った。首都圏までのアクセス向上で、北陸地域の持つ潜在力に注目が集まる。企業の移転機運も高まり、地方創生の優等生になる可能性を秘める。 (武田安恵)

2015年1月中旬、雪が降り積もるJR富山駅は工事の真っただ中にあった。ホームを降りた乗客は駅のあちこちに設けられた仮囲いの間を縫うようにして改札口に向かう。駅前には土産物屋やレストランが集まる大きなプレハブが立ち並び、雑多な印象だ。しかし、駅を出て振り返ると駅舎のすぐ隣に白を基調とした大きな建物がそびえ立つ。2015年3月14日に開業する北陸新幹線の駅だ。建物は完成し、今は内装工事や駅前の整備、在来線の高架化工事が急ピッチで進められている。「この店も3月12日で終わり。プレハブは取り壊されるからね」。名物の『ます寿司』を売る土産物店主は名残惜しそうに話すが、表情はどこかうれしそうだ。3月に向けて着々と準備が進むのは富山県だけではない。「新幹線が春を連れて、やってくる」。石川県の金沢駅には、こんなキャッチコピーのポスターがあちこちに張られている。金沢駅も周辺施設の整備の仕上げ段階に入った。駅構内の商業施設『金沢百番街』内に2014年7月、飲食・土産物施設を集めた『あんと』が先行オープンした。石川県の名物が一度に手に入る利便性が話題を呼び、観光客だけでなく地元住民の贈答用としての利用も多いという。「新幹線開業を見込んだ周辺施設の開発は、住民にとってもメリットが大きい」と関係者は話す。

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北陸新幹線の長野~富山・金沢間開業を目前に控え、北陸エリアの富山・石川両県は今、活気づいている。新幹線開通後は、現行の鉄道で3時間50分かかった東京~金沢間が2時間28分に、3時間11分かかった東京~富山間が2時間8分と約1時間、短縮される。それに伴い、首都圏をはじめとする他地域からのアクセスが容易となり、交流人口の増加が期待されている。例えば日本政策投資銀行は、新幹線開業で首都圏から石川県への年間来訪者数が観光で30%、ビジネスで27%増加すると試算している。全体の経済効果は124億円。飲食や宿泊、域内交通費や土産物など、交流人口の増加で様々な分野が潤うとの見立てだ。北陸新幹線が構想されたのは1967年にまでさかのぼる。東海道新幹線が災害などで使えなくなった際の補完機能として、東京と大阪の2つの都市を日本海側で結ぼうというのがそもそもの始まりだった。2025年度開業を目指す金沢~敦賀間以降の延伸計画は未定だ。しかし、2大都市圏の結節点にすることで人やモノの流れを北陸に呼び込む構想は50年も前に生まれていた。折しも2015年は“地方創生”が声高に叫ばれている。安倍政権肝煎りの地方活性化策だが、その道筋は依然不透明な部分が多い。その一方で北陸地域は今、新幹線開業というイベントを契機に他の地域からも熱い視線を集める。




「北陸の持つ潜在的な力が新幹線開業によって注目され、見直されることを期待したい」と話すのは富山市の森雅志市長だ。富山・石川両県はバラエティーに富んだ産業構造を持つ。農業・漁業などの1次産業に比べて、製造業などの2次産業の比率が高いのが共通の特徴だ。戦後、黒部ダムから作り出される安価で豊富な電力を元手に、農業から工業へと産業構造を転換させた。その主力は富山県が周辺産業の裾野が厚い医薬品工業、石川県が繊維業である。しかしその後、2つの県は対照的な道を歩む。中国や東南アジアで安価な労働力を武器に価格の安い繊維製品が売られるようになると、繊維業は急速に衰退していく。「石川県は、1つの産業に偏るのはよくないと教訓を得た」(石川県庁)。石川県はその後、繊維業に変わる新産業の育成に腐心する。IT(情報技術)やハイテクに力を入れる一方で、小規模ながらも独自の強みを持つニッチ企業に対しても独自の支援制度を設けるなど寛容な政策を取り続けた。それもあってか、石川県には特定の分野に秀でたニッチ企業が多い。回転ずしコンベヤー機のシェア6割、金庫室用大型扉のシェア5割、手押しサービスワゴンのシェア9割…。石川県にはユニークな中小企業が数多く集まる。また最近では、BCP(事業継続計画)の観点からも北陸地域は脚光を浴びている。そのきっかけとなったのが2011年3月に起こった東日本大震災だ。東海エリアに集積する企業、工場を大地震や津波から守るため、他地域に分散させる動きが相次いだ。その候補地として北陸に白羽の矢が立った。地震調査研究推進本部のデータによれば、北陸地域の今後30年間の震度6弱以上の大地震発生確率は8~10%程度にすぎない。真面目で優秀な人材がそろっている点も評価されている。大学進学率は地方都市の中でもトップクラスだ。習い事が好きな人が多い土地柄でもあり、旧加賀藩の伝統もあってか、県民の教養志向も強い。

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もちろん、北陸地域の地方自治体は、これまでも前述のメリットを全面に出す形で企業誘致に取り組んできた。しかし、首都圏からのアクセスの悪さが泣き所だった。それだけに「新幹線は間違いなく企業誘致において重要なアピールポイントになる」と期待を寄せる。企業も北陸地域に注目し始めている。経済産業省がまとめている各都道府県の工場立地件数を比べると、東京・大阪・名古屋を含む大都市圏の周辺県を除けば、北陸地域は広島・岡山を含む山陽地域に次いで工場の立地件数の伸び率が前年比76%と高い。企業誘致に新幹線効果が寄与しているとも言える。「水や電気などのコストの安さ、自然災害が少ない点が決め手になった」。川崎市に本社を構えるハンドクリームのユースキン製薬は2014年12月、富山市内の富山八尾中核工業団地内に広さ6000㎡の工場を新設した。横浜市鶴見区にある生産・物流拠点を2016年までにすべて富山市に移す予定だ。もともと同社の製品容器など、包装材を作る会社は富山にある。物理的な距離が近くなれば業務の効率化が図れるメリットもある。移転を見据え、社員も現地で10人程度採用した。石川県が誘致に成功したのは航空機部品・医療機器などを手掛ける日機装だ。静岡県牧之原市にあった製造拠点を、金沢市の助成金を活用することで市内の工業団地『金沢テクノパーク』に移転、2014年4月に操業を開始した。東海地震など、自然災害発生時のリスク分散を見据え移転を決めたという。

一方、新幹線開業が企業のマネジメントに影響を与える要因になったケースもある。「黒部宇奈月温泉駅から車で7分の所にYKK APのR&D(研究開発)センターを新設したよ。新幹線が通れば東京から2時間ちょっとの距離だ。打ち合わせもしやすくなる」。笑顔で周囲に話すのはファスナー・建材大手のYKKグループの吉田忠裕会長だ。YKKグループは富山県黒部市に同社最大の製造・開発拠点を構える。新幹線開業を見据えて、新たな体制の構築を進めている。その1つが、黒部荻生製造所内に建設するR&Dセンターだ。これまで黒部・滑川市に分散していた同グループの建材部門、YKK APの研究開発と試験・検証部門の機能をR&Dセンターに集中させた。技術者も同センターに集約し、業務の効率化を図る。東京から商談や視察に来る人がアクセスしやすいようにすることが狙いだ。同時にYKKは、東京の本社機能の一部を移す計画も進めている。現在、東京エリアで働く約1500人のうち、230人が黒部の事業所に移る予定で、既に80人が異動済みだ。YKK APの海外事業をバックアップする国際部門および人事、経理部門が中心だという。もともと、黒部市の拠点は技術集積の場であることから、社内で“モノ作りの総本山”と位置付けられている。世界71カ国・地域に派遣されたYKKグループの技術者たちが戻ってくる場所がここ、黒部だ。従って世界の各事業所を相手にする部門を黒部に集中させれば、業務の効率向上も期待できる。「海外とのやり取りなど、東京にいなくてもできる仕事は極端な話、どこにいてもできる。だったらゆかりの地である黒部で働けばいい」と吉田会長は話す。この発想を後押ししたのは“首都圏へ2時間”を可能にする北陸新幹線にほかならない。

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政府・与党は2014年12月、地方創生の目玉策として東京など大都市圏に本社を構える企業が地方に移転した際、法人税を優遇する政策を創設した。大都市圏に偏った税収を是正し、地方経済を活性化させるのが狙いだ。YKKはその適用第1号となる予定だ。移転費用の7%が法人税から差し引かれるという。北陸経済活性化の希望となっている新幹線開通だが、課題もまだ多い。現在、北陸地域に増えている企業の生産拠点の多くは、リスク分散や事業効率化を目的に他から移転したものがほとんど。YKKのように、東京に集中する機能を地方に移譲するという発想を起点にしたものではない。「東京以外の地域の経済資源があっちに行ったりこっちに来たりしているだけ」と、大和総研の米川誠主任コンサルタントは話す。これでは、各地域の持つ特性や魅力を引き出すことで大都市圏以外の地域経済全体の底上げを狙う地方創生の趣旨から外れてしまう。米川氏は「YKKに次ぐ動きはいずれあるだろうが時間がかかりそう」と見る。首都圏からのアクセスの良さが高じて、首都圏に経済資源が流出する『ストロー現象』も懸念される。1998年の長野オリンピック開催のタイミングで開通した長野新幹線(北陸新幹線)東京~長野間は、長野市内の支社や事業所の減少を招いた。新幹線で1時間余りとなったため、今まで長野に事業所を構えていた企業が、出張に切り替える動きが相次いだのだ。東京~富山・金沢間においても同様の現象が起こる可能性は拭いきれない。東京の富を地方に波及させる期待を担う新幹線事業において、この問題にどう対応していくかも今後の課題だろう。安倍政権が掲げる地方創生は、地域の潜在力を引き出すことで初めて一歩を踏み出すことができる。その意味で、産業構造や人材などの面で多様な可能性を秘めた北陸経済の活性化は重要な試金石になる。新幹線開業はあくまでその“着火点”にすぎない。


キャプチャ  2015年2月9日号掲載


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