【丸分かり中国減速リスク】(04) 反対派の大量粛清で内部分裂…共産党の独裁統治劣化リスク

「西側諸国は、ポスト共産中国にどう対処するかを考える準備をせよ」――。1月末、米『ウォールストリートジャーナル』紙に掲載された『中国共産党の黄昏』という論文が注目されている。著者は、アメリカンエンタープライズ政策研究所(AEI)のアジア専門家であるマイケル・オースリン氏。習近平国家主席が汚職摘発運動を利用して空前の個人独裁体制を作ったが、これは蝋燭が燃え尽きる前の輝きだとして、統治の危機が迫っていることに警鐘を鳴らした。米国では多くの中国専門家が賛同の声を上げた。これまでも中国崩壊論は珍しくない。だが、今回は中国が高度成長のピークを過ぎた段階で提起されたことで説得力を持った。オースリン氏によれば、中国は現在、共産党の内部分裂が深刻化したという政治的要因・行政当局が大衆からの信頼を失ったという社会的要因・低成長時代が始まったという経済的要因が重なり、「大規模な危機が発生する可能性が次第に高まっている」。既に『権貴』と呼ばれる特権階級だけでなく中産階級の一部まで個人資産を海外に移転し、海外に移民する用意をしているという。いつ、どんな形で“大きな危機”が起きるのかをオースリン氏が予言したわけではない。だが専門家たちの議論では、党内抗争が激化し要人暗殺やクーデター等の“重大事件”が起き、共産党が分裂するというケースも語られている。

今なぜ、統治の危機が現実味を帯びて語られるのか。高度成長が終わったことの他に、もう1つの要因がある。習主席が政権発足以来続けてきた反腐敗運動“トラ狩り・ハエ叩き”が泥沼状態に陥り、出口が見えない。習主席が自分の権力を強めるために始めた反対派粛清だったが、中央・地方を通じ、党・政府・軍を問わず権力中枢部であまりにも多くの要人が連座・失脚したために、全体としての中国共産党の統治力は弱体化した。また、圧迫された抵抗勢力が必死に結束を固めるので、汚職摘発を進めるほど習近平主流派が少数化するという逆説的結果が生まれた。1月の統計では、2014年の地方GDPの伸びは殆どの省・自治区で予想を下回り24年ぶりの低水準になったが、中でも山西省など大規模な汚職摘発が行われた地方で落ち込みが大きかったことからも、汚職摘発は習政権への求心力を高めるより、経済混乱などのマイナスの効果を生んでいることがわかる。




習政権の反対派粛清はどこまで行けば終わるのか。その見通しがつかない。習主席は2012年末の共産党大会で党総書記の地位に就き、翌2013年春の全国人民代表大会(全人代)で国家主席に選出された。それ以来、党内最大の利権集団である江沢民派の重鎮を粛清、江沢民派の解体に着手した。最初は、総書記争いのライバルだった党政治局委員(当時)・薄熙来を逮捕・投獄した。翌2014年、薄熙来支持の中心人物である党政治局前常務委員(当時)・周永康を党紀違反で逮捕した。解放軍の制服組トップだった党軍事委員会副主席(当時)・徐才厚も党紀違反で逮捕した。周永康は秘密警察の頂点、徐才厚は軍の人事を握り、何れも江沢民派の影響力の源泉だった。周永康・徐才厚の2人を打倒した後、習主席と党中央紀律検査委員会書記・王岐山の矛先は共産主義青年団(共青団)派の幹部、所謂“団派大将”に向かっている。昨年末、胡錦濤総書記(当時)の下で事務局長役の党中央弁公庁主任を務めた党統一戦線工作部長(当時)・令計画を党紀違反で解任した。以後、令計画と関係の深い共青団派の地方官僚が次々に逮捕・更迭された。更に、令計画人脈の証券金融界トップに追及の手が広がり、鄧小平一族の名前までも噂されている。

年明けから、“トラ狩り”運動は新たな局面に入った。今年1月、習主席は「党内の少数グループや“幇”(秘密結社)の存在は絶対に認めない」と述べ、粛清の対象を個人(トラ)から党内利益集団(幇)へと拡大した。党内の『幇』を打倒するということは、習総書記に従わない勢力が存在していることであり、習主席が党を十分に掌握していないことを事実上認めたに等しい。紀律委の王岐山書記も「反腐敗闘争に終わりはない」と粛清継続を言明した。これまでに摘発された『幇』には、周永康の『石油幇』がある。資源エネルギー省の高官や中国石油経営陣になった周永康元秘書グループが作る人脈だ。『四川幇』も周永康系の幇だ。周永康が四川省の党委員会書記時代に築いた人脈で、省の高官となった元秘書たちが周家の一族と組んで公共投資の不正入札などの地方利権を独占した。令計画事件では『山西幇』の存在が明るみに出た。兄である山西省政治協商会議主席・令政策が地元の炭坑経営者と癒着して不正に利益を上げる一方、党中央で高官となった弟が山西出身の中央官僚を集め、郷里と北京を結ぶ利権の人脈を作っていた。山西省は、薄熙来一族の出身地でもある。『山西幇』は薄熙来と関係があり、石炭の主要産地という関係では資源エネルギー省出身の周永康の人脈と繋がっていた。『山西幇』に絡んで、李源潮国家副主席の『江蘇幇』も叩かれている。李副主席は上海の出身だが、江蘇省の党総書記時代に南京市など江蘇省内の高官を中心とする人脈を築いた。李源潮が共青団中央書記局の幹部だった頃の部下が令計画だった関係で、『江蘇幇』は『山西幇』と繋がっていた。また、周永康が江蘇省無錫市の出身で、周永康一族が繋がりを持っていた。

習主席は昨年末、複雑に絡み合った利権集団の幹部を一掃する人事異動を断行した。だが、新たに中央・地方の幹部に抜擢されたのは、習主席が福建省省長から浙江省党委書記をしていた期間の部下が多い。『之行(浙江の別称)軍団』と呼ばれる習近平派が登場したことによって、党内融和より分裂が激化した。習主席がいま最も恐れているのは、汚職の特権を奪われた軍の反発だ。昨秋、福建省の古田という山奥の村に軍事委員会の副主席・総政治部主任から地方部隊の政治委員まで、政治委員系統を全て集めて「軍の、党に対する絶対忠誠」を命じた。嘗て、毛沢東が労農紅軍の指揮権を朱徳ら軍人と争い、党が軍を指揮する原則を確立したと言われる古田会議に因んだ会議だ。“新古田会議”を開いたのは、習主席が軍を掌握していないからだ。遼寧省大連市出身の徐才厚が賄賂と地縁・血縁で作った『東北軍閥』を一掃、徐才厚以外にも『西北軍閥』のドンの追及が始まっているという噂もある。最近、今年9月3日に抗日戦争勝利70年を記念して北京で軍事パレードを行うと発表された。7大軍区全てから精鋭部隊を北京に集め、党軍事委員会主席・習近平に忠誠を誓わせる儀式だ。まだ軍の掌握に不安があるからだ。 (毎日新聞客員編集委員 金子秀敏)




■フランス革命との共通点に見る習近平体制の改革の行方  日本総合研究所理事・呉軍華(ワシントン駐在)
習近平は、一体中国をどの方向に導こうとしているのか。先日、米民主党関係者が中心のある会合に出向いた。中国経済を議論する筈であったが、話は専ら習近平国家主席に集中した。文化大革命の時に社会の底辺で青春時代を過ごし、毛沢東路線の限界をわかっているはずの習近平は、最高指導者に就任してからなぜ毛沢東時代の再来を彷彿するような政策を続々と打ち出してきたのか。また、腐敗撲滅キャンペーンを大方の予想を超えて深く広く推し進め、腐敗問題の解決に強い決意を示している一方、なぜ言論統制を大きく強化し、公務員の所得公開を求める人まで取り締まってしまったのか――諸々であった。習近平体制の下での政策の流れを振り返ると、論理的に辻褄が合わないような所があるのは事実である。なぜこのようなことが起きたのか。現時点において習近平の胸中を解明できる確かな方法は無いが、習近平を含む中国のトップレベルの指導者に大きな影響を与えたと言われるフランスの政治思想家であるアレクシス・トクヴィルが1856年に記した『旧体制と大革命』という本から、その答えに繋がるようなヒントを見つけてみよう。

元々、歴史学者や政治学者のような専門家しか関心を持っていなかった『旧体制と大革命』が、習近平体制発足の2012年前後に突如、中国の政財界やインテリ層で大きく脚光を浴びるようになった。習近平の両腕役の李克強首相と中央規律検査委員会書記・王岐山が共に周辺に強く薦めたのがその契機であり、習近平自身もこの本を熟読したと言われる。本で描かれた革命前夜のフランスの状況がほぼそのまま中国の現状に置き換えることができるために、習近平体制の下での中国の針路を巡って「革命か改革か」という二者択一的な議論が一時期大きく盛り上がった。最高指導者に就任した2012年末から2013年初にかけて、習近平が「憲法に基づいて国を治めよう」と訴えたり、「権力を制度の籠に取り込めよう」と主張したりしていたために、政治改革に向けての気運が高まった。しかしその後、憲法批判キャンペーンや異見者弾圧・言論統制の強化など、政治運営が改革でない方向に切られた。その為、「習近平指導部は『悪い政府にとって最も危険なのは、国を良くしようと改革した時だ』というトクヴィルがフランス革命の勃発要因として取り上げた論断をそのまま受け入れ、改革をせずに現体制を最後まで維持しようと決意したのではないか」との見方が広まった。因みに、この本に以上のような論述があるのは事実だが、タイトルに象徴される通り著者の主な関心はあくまで旧体制と大革命の関係にあり、トクヴィルが最も主張したのは「革命を醸成したのが旧体制そのものであり、旧体制を改めない限り革命が避けられない」ということであった。現時点では、この本と政治運営をするに当たっての習近平指導部のアプローチの間にどのような因果関係があったかは確かではない。しかし、中国社会の実態に照らして改めて読み直すと、習近平がこの本から執政のヒントを得ようとするなら、少なくとも当面の間、民主化に向けての改革に踏み切ることを躊躇することになろう。2000年以上に及んだ専制統治によって、トクヴィルがリストアップした革命を引き起こしかねない要件(中央集権の下での行政の専制化や腐敗・特権に対する民衆の不満の急上昇など)が、現在の中国にはほぼ出揃っているからである。

中国ではかねて、共産党にとって「改革找死、不改革等死」、つまり「改革をすれば自ら体制の崩壊を招き、改革をしなければ体制の崩壊を待つことになる」という言葉が流行っている。習近平指導部は、少なくとも現時点において“改革找死”という道を歩まないと決意したのは確かであろう。尤も、トクヴィルが本で述べたように、革命と専制体制の悪循環を断つため何れ専制体制に対して抜本的な改革を進める他なく、また“不改革等死”という言葉に示される通り、改革をしないことによって短期的に革命を避けることができるものの、中長期視点から中国社会の安定を図るに当たっては現体制に対する改革は何れ避けて通れない。習近平は、果たしてフランス革命から中国社会の中長期的安定を達成するに当たってのヒントを得ることができるのか。毛沢東的政治手法の取り入れを含む強い政治統制によって腐敗の蔓延に歯止めをかけ、共産党に対する国民の信頼をある程度取り戻した時、政治家としての習近平にとっての本格的な挑戦が訪れてくるのであろう。


キャプチャ  2015年2月17日号掲載


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