【丸分かり中国減速リスク】(05) 世界で通商摩擦を起こす中国の鉄鋼輸出1億トン

中国税関総署が1月13日に発表した貿易統計に、世界の鉄鋼関係者は衝撃を受けた。昨年12月の鋼材輸出量が1017万トンと過去最多を記録していたのだ。新日鉄住金やJFEスチール・神戸製鋼所といった日本の鉄鋼メーカーが1年で造る粗鋼は1億1067万トン(2014年実績)。日本は中国に次ぐ世界2位の鉄鋼生産国だが、中国はこの日本1ヵ国1年分の生産量とほぼ同じだけの鉄を輸出していることになるからだ。中国の鋼材輸出は2012年頃から増加傾向が強まり、2013年には月間500万トン台が定着。2014年は700万~800万トン台へと更に伸び、12月には遂に1000万トンの大台に達した。2014年の年間輸出量は9378万トンで、3年前から倍増している。

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中国が鋼材輸出を増やしている主因は、過剰な生産能力と経済成長の鈍化による内需の不振だ。国内で鉄を捌けなくなったものの、稼働率や雇用を維持するため海外市場に鉄を放出している。中国の2014年の粗鋼生産は8億2270万トンだったが、中国鋼鉄工業協会によると生産能力は11億4000万トンとされ、3億トン以上の過剰能力を抱えている。単純計算すると稼働率は70%強となり、装置産業の鉄鋼業としては低い水準だ。中国でこれほどの過剰能力が生じるきっかけとなったのが、リーマンショック後の景気対策として実行された4兆元の公共投資とされている。この刺激策で建材向けなど鉄鋼需要が増え、中国鉄鋼業は世界の中でも一足早く息を吹き返した。しかし、副作用として生じたのは、中国の鉄鋼メーカーによる過剰な設備投資だった。増える需要をビジネスチャンスと見て「我こそは」と挙って能力を増やし、新規参入も続出。経済成長率のノルマを達成しようと、地方の省や市政府が製鉄所の拡張を推奨していたこともある。中央政府も過剰能力の問題は予てから認識しており、炉内容積が400㎥を下回る小さな高炉は休止の対象とした。しかし、高炉の改造で大型化するといった規制の網を掻い潜る動きもあり、思うように進んでいない。特に民営企業の増産が止まらず、中国鉄鋼業の2014年の投資額4789億元の8割は民営が占めた。




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能力が増える一方、内需は不動産投資の冷え込みで減少。中国鋼鉄工業協会は、昨年1~9月の鉄鋼内需が前年同期比1%減だったが同期の粗鋼生産は2.3%増と、「内需不足を輸出で補っている」ことを認めた。2014年の下期に鋼材輸出が急増した背景には、「中国政府の税制優遇が撤廃されるのでは」との観測もあった。中国政府は高付加価値品の輸出奨励策として、鉄に様々な元素を混ぜて造る特殊鋼の輸出の増値税(付加価値税)を縮減してきた。この優遇を狙い、中国の鉄鋼メーカーでは少量のボロン(硼素)を添加し特殊鋼として輸出する事例が相次ぎ、「やり方が汚い」と世界各国から批判を浴びた。中国政府はこの国際世論に応じる形で、1月からボロン鋼の輸出優遇を一部で撤廃。打ち切り前の“駆け込み”で、12月の輸出が特に増えたようなのだ。ただ、ボロン以外の元素を混ぜた新たな特殊鋼で輸出しようとする動きもあり、優遇撤廃が鋼材輸出増の歯止めになるかは不透明だ。

この中国の鋼材輸出は、世界各地で鉄のデフレを引き起こしている。国内市場で過当競争が続く中国の鋼材は世界でも最安値とされ、品種にもよるが国際市況より1トン当たり5000~1万円ほど安い。そのため、中国鋼鉄工業協会が集計した2014年の売上高利益率も僅か0.85%。2014年は鉄鉱石や原料炭の価格が下がり、世界の鉄鋼大手は概ね業績を回復させたが、中国鉄鋼業は“低空飛行”が続いている。そんな中国の薄利多売が海外でもなされつつある。値引きしても国内で売れない時代を迎えた中国鉄鋼メーカーは、中国内と同等の低価格でも輸出する傾向が強まってきた。中国材が流入する国の鉄鋼メーカーは軒並み業績悪化や生産減に直面し、アンチダンピングやセーフガード措置といった中国との通商摩擦が頻発している。しかし、歯止めがかかっていないのが実情で、中国から距離が近い東南アジア市場ではシェアの4割近くを中国からの輸入鋼材が占め、ローカル企業からは怨嗟の声が上がっている。中国からの輸入鋼材が増えた煽りで、海外に鋼材を輸出し始めているのは韓国だ。最大手のポスコが能力を増強し、現代自動車グループの鉄鋼メーカーが高炉3基を新設するなど鉄鋼の自給化を図ってきた。しかし、価格が安い中国からの輸入鋼材は増え続け、2014年は前年比4割増の1300万トン強に。中国の鋼材にシェアを取られ、韓国の鉄鋼メーカーも輸出を増やしている。2014年の全鉄鋼輸出は3000万トン強で、過去最高を更新したようだ。

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中国の鉄鋼輸出は、日本の鉄鋼大手も蝕み始めている。中国の鋼材は建材など汎用材が中心で、自動車用など高品質を強みとする日本の鋼材とは必ずしも競合しない。それでも、脅威となる芽は出始めている。日本の鉄鋼輸出は年間4200万トン前後。中国が増やすまでは、世界一の鉄鋼輸出国だった。中国と異なるのは、国内で余った鋼材を輸出するという位置付けではないこと。自動車メーカーの現地生産に応え開設した海外工場への母材供給や、提携している海外企業への安定供給といった、所謂“ひも付き”の輸出が多い。三井物産や住友商事・三菱商事系のメタルワンといった商社が、海外でもサプライチェーンを構築していることも寄与している。そのビジネスモデルに、中国企業も打って出ようとしている。中国鉄鋼最大手の河北鋼鉄集団は、スイスの鉄鋼商社『デュフェルコ』の海外部門を買収。この商社は鋼材加工事業やファイナンス機能に定評があり、中南米やアフリカ市場で強いネットワークを築いている。成長性が高いこれら市場では新日鉄住金やJFEが顧客を獲得してきたが、思わぬ横槍が入ってきた格好だ。日本が主力とする高級鋼材でも油断できない。中国で最も高い技術力を持つ宝鋼集団は、広東省の湛江で新製鉄所の建設を進めている。来年にも本格稼働し、東南アジアなどへも輸出し、自動車や電機向けに売り込むと予想されている。華南では武漢鋼鉄も広西チワン族自治区の防城港で製鉄所を建設しており、やはり輸出拠点とされている。日本市場でも中国からの鉄鋼輸入は増えている。日本鉄鋼連盟によると、2014年は前年比61%増の214万トンで、円安が進んでいるにもかかわらず大幅な伸びとなった。韓国からの輸入も12%増の408万トンと増加傾向にある。これは韓国市場に中国の輸入鋼材が流入し、玉突きで韓国から日本への輸出が増えているとも指摘される。

中国では、来年から第13次5ヵ年計画が始まる。鉄鋼業では力ある大手を中心とした再編による構造改革と、高付加価値品へのシフト、低成長時代に備えた海外進出がテーマになるだろう。これにより、混沌とした中国の国内鉄鋼市場が一定の収束を見たとしても、日本の鉄鋼業はより高いステージで中国勢との国際競争を強いられることになる。 (鉄鋼新聞社記者 黒澤広之)




■住宅価格下落率が5%超え…不動産バブル崩壊の兆しか  ニッセイ基礎研究所上席研究員・三尾幸吉郎
中国では、不動産価格の下落が続いている。中国国家統計局が毎月発表する新築商品住宅販売価格を見ると、2014年12月は70都市のうち66都市で前月より下落。当研究所で推定したところ、最高値からの下落率は5%を超えてきた。住宅価格が下落に転じた背景には、中国政府がバブル膨張を抑制するために打ち出した購入制限や融資規制が効いてきたことに加え、住宅販売の低迷がある。そして、販売待ちの住宅在庫は前年末比25.6%増と積み上がった。販売業者は在庫を消化しようと大幅値引きで販売促進する一方、まだ下がるとみた購入予定者は様子見姿勢を強めたため、住宅価格は下落し始めた。これはバブル崩壊の兆しなのだろうか。

住宅価格下落の影響は国内総生産(GDP)にも表れてきている。2014年の実質GDP成長率は前年比7.4%増だったが、内訳を見ると不動産業は同2.3%増と成長率の足を引っ張った。特に、販売面積で不動産全体の9割弱を占める住宅市場の低迷が大きい。住宅市場の低迷は不動産業だけでなく、建物を作る建築業・建築資材を生産する製造業、家具や家電などに対する需要にも影響して卸小売業にも打撃となるため、その影響は経済全体に及ぶ。最高値から5%強下落しただけでも経営不安に陥る不動産デベロッパーが目立ち始めており、融資していた銀行は不良債権処理に動き始めた。更に、住宅価格が下落して2011~2012年の水準(デッドライン)を下回ってしまうと、ここ数年で作られた殆どの住宅の在庫が含み損を抱えることになり、不動産バブル崩壊が現実味を帯びてくる。中国政府も手を拱いている訳ではない。全国各地の地方政府は購入制限や融資規制を緩和・撤廃し始め、供給過剰となっている分譲住宅を買い上げる動きも見られる。元々計画していた低所得者向け住宅の建設を見送って、市場でだぶついた在庫を吸収、住宅価格の下落を食い止める施策を打ち出している。中国人民銀行も2014年11月に基準金利を引き下げ、金融を緩和方向に調整し始めた。但し、中国人民銀行は「適切な実質金利水準を維持する必要がある」と強調、今回の利下げは金融政策の方向転換ではなく“穏健(中立型)”な金融政策を維持するとしており、バブルが再び膨らむことを許容する気は無さそうだ。バブル崩壊も困るが、高過ぎて庶民に手の届かないような住宅価格の再高騰も困るからだ。

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中国の人口ピラミッド(年齢構成)を見ると、住宅の主要購買層である25~49歳の人口は2012年をピークに比率が低下し始めた。近い将来の就職や結婚で新たに住宅が必要となる10代は11.3%と少ないため(20代は17%)、主要購買層は今後も減少しそうだ。一方、中国では都市化率(人口に占める都市人口の割合)が54.8%(2014年)とまだ低い。日本や欧米先進国では75~95%に達しているため、中国の都市化率はまだ上昇する余地があり、農村部から人口が流入する都市部では住宅需要が増える可能性がある。都市化率が仮に8ポイント上昇すれば、1億人が新たに都市部に流入することになるからだ。但しここ数年、都市化率の進展ピッチは鈍化してきている。2010年には前年比1.6ポイント上昇したものが、2014年には同1.0ポイントの上昇に止まった。農村部の余剰労働力が減少したという側面もあるが、北京や上海などでは交通渋滞などの“都市病”が深刻化して受け入れが困難になったという側面もある。そこで打ち出されたのが、『新型都市化計画(2014~2020年)』である。2014年3月に共産党と政府の連名で打ち出されたこの計画は、都市化率の目標を2020年に60%前後としており、これまでの実績よりスピードを更に速める計画にはなっていない。寧ろ大都市(人口500万人以上)への人口流入を抑制し、中小都市への人口流入を促進することで、都市化を進めようとする新しいタイプだ。これを実現するためには、中小都市の都市開発や産業誘致を進める必要があると共に、全国各地に点在する中小都市と大都市とを結ぶ鉄道・道路などの交通・物流網も必要になってくる。そして、交通・物流の便が良くなって全国各地に新駅が誕生することになれば、産業が育ち就業機会が増えて、土地(使用権)に対する新たなニーズが発生し、地方政府にとっては売却チャンスが増えることにもなる。また、各地に出現したゴーストタウン(建物はあるが住む人がいないマンション)の中には、利便性が改善して生き返る所も出てくるかもしれない。従って、主要購買層の減少という強い逆風が吹く中で、新型都市化でどれだけ新規需要を掘り起こせるかの戦いとなる。

中国が今回打ち出した新型都市化は、格差是正や環境対策も視野に入れた筋の良い計画だ。この新型都市化を軌道に乗せることができれば、バブル崩壊を回避する道筋も見えてくる。但し、新型都市化で重要な役割を担うのは地方政府だ。その地方政府はリーマンショック後の大型景気対策で債務が巨大化しており、財源に余裕はない。少ない財源で新型都市化を推進するには、国有企業だけでなく民間資本の協力も欠かせない。従って、官民連携(PPP)がカギを握る。果たして民間資本は中国政府が思うように動いてくれるのか、厳しい戦いとなりそうだ。


キャプチャ  2015年2月17日号掲載


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