受注戸数が1年で10倍の『売電住宅』から、次なるブームは“自給自足”へ――『ゼロ円住宅』の夢、消える…太陽光バブル崩壊

太陽光発電で電気を売って住宅ローンをゼロに──。そんな夢は終わりを迎えそうだ。電力買い取り価格の引き下げなどで、『売電住宅』の販売戸数は急降下。住宅メーカー各社は、電力を自給自足する住宅へ軸足を移している。 (島津翔・林英樹)

「爆発的に売れていたんですけどね。今は売りにくくてしょうがないから、お客さんにパンフレットを見せるのもやめました」。大手住宅メーカーの営業担当者はぼやく。手に持ったパンフレットには、太陽光パネルで発電した全量を電力会社に売ることができる、いわゆる『売電住宅』が描かれていた。売電住宅は2012年に“発明”された。同年7月に施行された再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)がきっかけだ。FITでは、主に事業用と位置付けた発電総出力10kW以上について、20年の買い取り期間を設けた。発電した全量を電力会社に売ることができる。一方、住宅用とされる10kW未満は買い取り期間10年で、売電できるのは、発電量から家で使った量を差し引いた余剰電力だけだ。現在は買い取り価格が電力会社の電気料金を上回っている。そのため多くの住宅メーカーが一斉に、全量売電できる10kW以上に飛び付いた。パンフレットには「売電で住宅ローンを軽減」「売電額1000万円」などの文字が躍り、売電収入で住宅ローンを全額相殺する『ローンゼロ円住宅』なる言葉も飛び交った。これが飛ぶように売れた。例えば大和ハウス工業では、10kW以上の住宅の受注戸数がこの1年で10倍に増えた。パナホームでは月間全受注戸数の4割を占める月もあったという。

しかし、状況は一変した。大手住宅メーカー幹部は、「売電住宅の販売戸数がガクンと減るのは間違いない」「販売戸数がゼロになるエリアも出てくるだろう」と話す。なぜか。理由は2つある。1つは、電力会社による“出力抑制”が現実味を帯びたこと。出力抑制とは、電力が余る場合に、住宅やメガソーラーなどからの買い取りを電力会社が停止すること。2014年秋、再生エネルギー設備を送電網へつなぐ接続申請が予想以上に急増したため、九州電力が申し込みへの回答を保留した。この“九電ショック”と呼ばれた混乱を受け、出力抑制のルールを見直した。東京電力や中部電力・関西電力の管内では新ルールの導入が見送られているが、将来どうなるかは分からない。実際には新ルールでの出力抑制はまだ発動されていない。だが、住宅メーカーにとっては致命傷だ。本当に出力抑制されれば電気が売れず、収入は減る。冒頭の営業担当者はこう言う。「お客さんにこう聞かれるんですよ。『どれくらい抑制があるのか』。明確には答えられない。そんな商品、買いませんよ」




もう1つの理由が年々下がる電力買い取り価格だ。出力10kW以上の買い取り価格は、2014年度に32円(1kW時、税抜き)だったが、それが4月に29円、7月には27円に下がる見通し。当然、20年間で住み手が得られる収入は減る。『ローンゼロ円住宅』をうたい文句に受注を増やしてきた住宅メーカーのイシンホールディングス(岡山県津山市)。山本隆義常務取締役は「条件によっては引き下げ後も“ゼロ円”と言えるが、多くは言えなくなる。“ローンの半額”“ローン軽減”という言い方にする。嘘はつけませんから。ただし、まだ競争力はある」と強気だが、引き下げが続けば商材としての力は当然落ちる。パナホームは、“20年で収入1000万円以上”をウリに売電住宅を販促してきた。同社の計算では、買い取り価格引き下げで収入は800万円以下に下がる。「設備投資は500万円程度なのでまだ経済的にメリットはあるが、以前のように“刺激的”なフレーズではなくなる。訴求力も弱まるだろう」(武林良行執行役員)と危機感は強い。FIT以後、2年間のバブルが終焉を迎えたため、各社は次の一手を打ち始めている。トレンドは“電力を売る”から“電力を自給自足する”への変更だ。パナホームは2015年3月16日、4.6kWの太陽光発電システムと蓄電池などを組み合わせたゼロエネルギーハウス(ZEH)・『ゼロエコ』を発表した。出力抑制で電力会社に売電できないとすれば、昼間に発電した電気を蓄える蓄電池が必須になるからだ。太陽光システムと蓄電池はセットで248万円。従来は蓄電池のみで250万円したが、コスト削減や必要機能・容量の絞り込みでこの価格を実現させた。“自給自足”を主戦場と位置付けるのは他社も変わらない。積水化学工業は2014年10月に電気自動車を蓄電池として使う『V to Heim』を本格展開した。大和ハウス工業も、量産化によるコストダウンや製品の検証も兼ねて、蓄電池の販促を強化する。売電だけを目的とした住宅と違って、自給自足を目指す住宅は、住み手が省エネをしようとする動機が働く。FITによる宴が終焉したことで、住宅市場は低炭素社会の実現という本来の姿に戻りつつあるとも言える。

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■太陽光バブル崩壊で信用不安拡大も
2015年3月5日、住宅向け太陽光発電システム販売の『リベルテ』(東京都新宿区)が自己破産を申請した。「リベルテは“序章”にすぎない。太陽光発電関連の倒産件数は飛躍的に増えるだろう」。帝国データバンク情報部の内藤修氏はこう予測する。FITが始まった2012年度以降、多くの企業が住宅向け太陽光ビジネスに参入した。以前は全国で数百社規模だったのが、2013年度に約6000社にまで急増した。だが、FITの買い取り価格引き下げを機に、大半の企業で収益が悪化。機器メーカーなど取引先の間では、信用不安の拡大から倒産が相次ぐとの警戒感が広がっている。一方、太陽光バブル終焉に伴う淘汰を通じて、業界の健全化を願う声もある。リベルテの経営者は、トップが金融機関から融資金を詐取し、実刑判決を受けた太陽光発電機器販売『エステート24ホールディングス』(大阪市)の創業メンバーの1人とされる。太陽光関連企業の多くは新電力としても登録している。電力完全自由化を見越し、新電力との取引を拡大したい大手電力会社の担当者は「正直なところうさん臭い会社が多く、怖くて手を出せない」とぼやく。


キャプチャ  2015年3月23日号掲載


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