トヨタ4000円・日産5000円、それでも“アベのベア”は99%のサラリーマンには“賃下げ”だった――ベア大企業だけがボロ儲け、こうして株高は作られた!

安倍晋三首相の賃上げ要請に呼応して大手企業が次々と過去最高の“ベア”を発表し、大メディアがそれを煽り立てる──それだけ見ているとサラリーマンに“暖かい春”がやってきたように思えるが、実態は全く違う。アベノミクスが生んだ日本経済の悪循環は寧ろ加速している。“アベのべア”の正体を暴く。

春闘の回答集中日となった3月18日、大手各社がベア(ベースアップ)に踏み切ったことについて経団連の榊原定征会長は、「各企業は相当思い切った対応をした。収益を従業員に適切に還元する姿勢を明確にした」とした上で、「経済の好循環の2巡目を力強く回す大きな力になる」と語った。態々“2巡目”と協調したのには理由がある。春闘の労使交渉が佳境を迎えていた8日に、自民党大会に来賓として招かれた榊原氏は「賃金引き上げをしっかりと実現していきたい」と表明し、安倍首相は「昨年は、榊原会長のリーダーシップで賃上げを実現して頂いた。今年は賃上げをお約束頂いている。どれぐらい上がるか。会長のお話を伺って、何だか良い予感がしてきた」と応じた。榊原氏の「2巡目」発言は、政府と経団連の二人三脚で“2年連続の賃上げ”を実現したとアピールする狙いがあったのだ。

大嘘である。昨年、サラリーマンは未曾有の“賃下げ”に襲われた。安倍政権の誕生以来、物価上昇を加味した“実質賃金”は下がり続けている。アベノミクスの異次元量的緩和が円安を招き、輸入品を中心とした物価が急激に上がった為、実質賃金は今年1月まで19ヵ月連続でマイナスとなった。実質賃金が上がらなければGDPの6割を占める個人消費は伸びず、景気が上向くことはない。にもかかわらず、大メディアはそうした指摘も無しに今年の大企業のベアを連日、派手な見出しで報じて好景気ムードを演出した。

「トヨタ、4000円で決着 ベア過去最高」(3月16日付)
「日産、ベア5000円回答へ 製造業大手で最高水準」(3月17日付)
「ベア、最高相次ぐ」(3月18日付)
※何れも日本経済新聞

確かにトヨタや日産のみならず、日立・パナソニック・東芝など電機大手は1998年以降で最高となる3000円、大手ゼネコンも大林組が5500円、大成建設が7910円のベアとなった。円安で業績が回復した輸出企業や公共工事増が追い風となった建設業界など、アベノミクスの恩恵を受けた大企業で“アベのベア”が実現している。因みに、経団連会長の榊原定征氏が会長を務める東レも、昨年を上回る2600円のベアとなった。そうした状況を受けて、麻生太郎財務相は会見で「企業が利益を内部留保に蓄え、賃金や設備投資に回さない状態ではなくなった」と述べ、大メディアがその発言を大きく報じた。本当にそうか。ベアをパーセント換算した数字を併記すると、トヨタは1.14%アップ、日産が1.4%、大林組1.2%、東レ0.9%となる。その一方で、最新の消費者物価指数(食品・エネルギーを除く総合)は前年同月比で2.1%の上昇だった。埼玉学園大学の相澤幸悦教授が言う。「物価が2~3%上がっている状況下では、それに追いつく賃上げなど到底実現しません。大メディアは過去最高のベアと報じていますが、アベノミクスの恩恵を受けているはずの大企業でさえ、賃上げは物価上昇に追いつかず従業員の実質賃金はマイナスとなっているのが実態です」。つまり、“過去最高のベア”と報じられている数字は、実際は“賃下げ”に他ならないのだ。




下表に記した各社の営業利益の数字も興味深い。アベノ円安の恩恵を受けたトヨタは、今期の営業利益が前期比17.8%増の2兆7000億円で過去最高の数字となる見込みだ。日産は14.4%増、榊原会長の東レは23.5%増となっている。それらの数字を見ると、営業利益67.9%減と苦戦が続く中でベアを実施したゼンショーホールディングスのような例外を除き、企業が潤沢な利益を十分には賃上げに回していないことがよくわかる。麻生氏の「企業は従業員の為にカネを使うようになった」とする発言が空しく響く。この国に生まれているのは、一部の大企業だけがボロ儲けし、ほぼ全てのサラリーマンに実質賃下げを強いる構図である。前出の相澤教授が語る。「安倍政権は、大企業が先に業績を回復し従業員の賃金を上げ、それが地方や中小に波及する“トリクルダウン”が起きると繰り返してきましたが、この状況下で中小企業の経営者が賃上げに踏み切ることなど出来ないでしょう」。日本企業の99%は中小である。そこには、アベノミクスの恩恵は少しも届いていない。日本商工会議所が2014年12月に行った調査では、2015年度に「賃金を引き上げる予定」と回答した企業は33.5%に留まり、前年の39.9%を下回った。賃金構造基本統計調査によれば、昨年の春闘で従業員100人未満の企業のサラリーマンの賃金は僅かに0.1%しか増えていない。物価上昇を踏まえれば給料は“激減”した訳だが、その昨年の水準にすら届かないというのである。機械・金属産業の中小企業を中心とする『ものづくり産業労働組合(JAM)』の担当者は、18日に記者団にブリーフィングを行った際にこう語った。「賃上げの要求をしている単組数が1590あり、今日までに回答があったのが146単組、妥結に至ったのは40単組です。大手のベアはいい流れだと思いますが、こちらでは大半の企業で回答はこれからです。これまでのところでは、昨年4月の消費増税前の駆け込み需要の反動が大きかった農機具メーカーでベア無しの決定が相次いだ。同じ理由で、住宅資材関連企業も厳しい見通しです。月末に向けて小規模企業の回答や妥結が出て来る見込みですが、好調な企業ほど早めに決着が着くので、月末に結論が出るところについては楽観視できません」。ブリーフィングは大手の回答集中日と同日となったが、こちらはまだこれから交渉の本番を迎えるという状況だ。「特に中小企業にとっては、増税による悪影響が大きかった1年でした。昨秋からの原油安でエネルギー価格の下落が意識されてくると思いますが、まだそれが業績を押し上げた形跡はありません。大手に追随という訳にはとてもいかないでしょう」(農林中金総合研究所の南武志主席研究員)

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本誌が中小企業経営者を取材すると、聞こえてきたのは怒りと失望の声ばかりだった。「トヨタや日産のベースアップのニュースを見ましたが、一体どこの世界の話なのか。社員には苦労をかけているから給料を上げてあげたいのは山々だが、会社の存続で精一杯でそれどころじゃありませんよ。大手が潤えば中小も潤うなんて幻想だ」。そう嘆くのは、創業108年の味噌・醤油・つゆ・早池峰霊水の製造販売元である岩手県の『佐々長醸造』(従業員50人)の佐々木博社長である。同社を苦しめるのは、一部輸出企業のボロ儲けの要因となった円安だ。安倍政権誕生当時、1ドル=84円だった為替は120円台に突入した。佐々木社長が続ける。「うちは原材料の大豆の6割が外国産です。輸出関連の大企業にとっては追い風となる円安が、マイナス材料にしかなりません。原油高は止まって一安心ですが、原材料の輸送費が下がるところまではまだいっていない。利益は昨年と比べて15%も減った。商品を作れば作るほど赤字が膨らむから、本当に虚しくなる。中小企業は体力的に限界が近づいているところが多いんじゃないか」。東京近郊の下請け企業も同様で、埼玉県川口市の鋳型製造業者『石川金属機工』(従業員56人)の石川義明社長は苦しげに語る。「アベノミクスの波及効果どころか、年明けから格段に景気は悪くなった。賃上げどころじゃないけど、新聞やテレビが殆ど『大手が上げる』と騒ぐから、うちの社員たちの間に『どうして我々は上がらないの?』と不満が募っています。このままでは彼らがやる気を無くしてしまうから上げざるを得ないが、原資が無いので全員の給料を上げる訳にはいかない。どこかで線引きして一部の社員だけ上げる、苦渋の選択になりそうです」。メディアが安倍政権のプロパガンダを垂れ流すことで、トリクルダウンどころか寧ろ負の連鎖が生まれつつあるのだ。

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大手で好業績とベアが実現している自動車業界でも、下請け企業にはその恩恵は見えない。帝国データバンクは昨年8月、トヨタ自動車グループの下請け企業の実態調査結果を発表した。全国約3万社の下請け企業の2007年度と2013年度の売り上げを比較したところ、2007年度の水準を回復していない企業が約7割を占めた。トヨタが“過去最高”の営業利益を叩き出す中で、下請けの過半はリーマンショック前の水準にさえ回復していないのだ。それでは賃上げどころではない。金型・プラスチック成形を専門とする東京都大田区の『一英化学』(従業員14人)は自動車部品の製造も行っているが、西村英雄社長は「うちの工場じゃあ、給料を上げるなんて夢のまた夢」と語った。「ニュースを見ると本当に腹が立ちます。電気代と材料費の値上げに加え、元請けからのコストダウン圧力に挟まれて、我々には逃げ場が無い。仕事はあるけど、いつも大手の指し値で見積もりも出せないのが実情です。今月も忙しかったけど、パートの賃金と電気代を払ったら赤字になった。大手の利益は、中小がコストダウンを強いられた結果です。自動車部品に限らず、町工場はこれまでさんざん単価を叩かれてきた。にもかかわらず、利益が出るようになってもそれは還元されない。大手は元々給料がいいんだから、本当に困っている下請けに利益を還元させないと中小企業は潰れるしかない」

“作られた株高”も、実態とイメージの乖離の一大要因となっている。地方や中小企業が置き去りにされる中、18日には日経平均は1万9544円の終値を記録した。終値で1万9500円台を回復するのは、2000年以来15年ぶりのことだ。日本経済新聞は、早速同日夜にウェブ版で「2万円到達も見えてきた」とのアナリストの声を紹介した。日経平均が一部の大企業の株価でしかないのは勿論だが、ここまで株高が続くことには理由がある。前出の相澤教授の解説。「日本の株価は、アメリカのダウが上がれば上がり下がれば下がるという動きを続けてきたが、直近ではそうならないことも多い。為替も同様で、円安になって株価が上がると思えば上がらない日もある。大企業にしても全ての業績が好調という訳ではなく、ほんの一部が為替で儲けたに過ぎない。にもかかわらず、株価は右肩上がりです。不可解な株高の背景には、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)や国家公務員共済・ゆうちょ銀行やかんぽ生命、更に日本銀行などの資金が30兆円近く準備されていることがあると考えられます。政権の意向を汲んだ各機関にその資金で市場の株を買わせることで、安倍政権は来年の参議院選挙まで株価を持たせようとしているのだと考えられます」。GPIFは、国民が積み立てた年金資金130兆円を一手に運用しており、安倍政権の発表した成長戦略に沿う形でのポートフォリオ見直しが昨年10月に行われた。日本国債等の国内債の比率を60%から35%に引き下げる一方で、国内株式の比率は12%から25%に一気に引き上げられたのである。

現在の株高は、一部の大企業を“客寄せパンダ”にする歪んだ経済政策と、公的資金で支えられた“官製相場”だ。実態と掛け離れた虚像を見せる為に、国民が積み立ててきた虎の子のカネまで使い込んでいるのである。“アベのベア”も株高も、政権が財界幹部や大メディアを走狗にして国民を欺こうとしている構図に変わりはない。“虚飾の好景気”の先には、2017年4月の10%への消費再増税が待っている。


キャプチャ  2015年4月3日号掲載
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