スマホゲームの課金方法を否定してきた任天堂と、強力なキャラクターでゲームがヒットすると考えるDeNA――任天堂がDeNAとの提携で迫られる“踏み絵”

3月17日、任天堂がDeNAと業務・資本提携すると発表した。これまで任天堂はスマートフォン(スマホ)向けゲームに積極的な姿勢を見せていなかったが、今後、DeNAと共同で開発・運用する。岩田聡社長は「ある程度タイトル数を絞り込む形で展開・運営することになる」と発言。マリオやゼルダ・ポケモンなど豊富な知的財産(IP)からスマホゲームを作ることになるようだ。ただ、この試みが成功するには、同社がこれまで否定してきた手法を導入する必要がある。 (取材・文/ゲームジャーナリスト・新清士)

任天堂が手がけてきた家庭用ゲームとDeNAが得意とするスマホゲームには決定的な違いがある。家庭用ゲームは5000円程度の価格で買ってしまえば、さらにお金がかかることはない。一方、スマホゲームは無料で遊べる代わりに、ユーザーが適度な“ストレス”を感じるように作られており、その解消のためにお金を支払うように促される。スマホゲームが売り上げを稼ぐ課金方法は大きく分けて3種類しかない。1つ目は、ゲームを規定回数以上、連続して遊び続けるためにお金を払う、つまり熱中しているのに続けられないストレスをみたす『コンティニュー課金』。2つ目は、お金を払えば自分の能力が高くなったと実感できる、一時的にゲームを有利に運ぶ能力を獲得できる『パワーアップ課金』。そして3つ目は、ゲーム内に登場する特別な能力を持つキャラクターやアイテムを手に入れる『ガチャ課金』だ。特にガチャ課金はランダムな確率でしか欲しい物が手に入らない仕組みで、ユーザーの熱中度を高める傾向があり、日本のスマホゲームの売り上げ全体の5割以上を占めるとされている。これら3種類以外にも、様々な課金方法が試されてきたが、あまり定着していない。任天堂はこれまでスマホゲーム型の課金に対して否定的な立場をとってきた。2012年4月の決算説明会で岩田聡社長は「構造的に射幸心をあおり、高額課金を誘発するガチャ課金型のビジネスは、仮に一時的に高い収益性が得られたとしても、お客様との関係が長続きするとは考えていないので、今後とも行うつもりはまったくない」とも話しており、ユーザーに高額課金をする仕組み自体を全面的に否定していた。今後の任天堂のスマホゲームの戦略を読み解く上で、参考になるゲームがある。今年2月に、任天堂の関連会社ポケモンが発売し、任天堂が販売しているダウンロード専用のパズルゲーム『ポケとる』(ニンテンドー3DS用)だ。基本プレー無料のアイテム課金方式になっている。




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『ポケとる』のゲームの様子。公式の紹介動画から。
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『ポケとる』公式サイト。

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画面内にタイル上に並んでいるポケモンをタッチして動かし、同じポケモンをそろえることで攻撃ポイントを稼ぎ、それぞれの面に登場するポケモンと闘う。1ゲームでタッチすることができるポケモンの回数が決められており、その回数内に登場するポケモンを倒さなければならない。クリアできると、一定の確率で、闘ったポケモンを捕まえて、自分のものにすることができる。無料で遊べるものの連続して遊べるのは5回までで、それ以上遊ぶには30分以上の一定時間待つか、1回の追加プレーにつき100円が必要というコンティニュー課金が組み込まれている。一時的に攻撃ポイントを稼ぎやすいアイテムを利用できるパワーアップ課金の要素もある。スマホ用の人気パズルゲーム、LINEの『LINE:ディズニーツムツム』とゲームの仕組みは似ている。仮にこのゲームをスマホ用に移植したとすると、ポケモンという人気の知的財産が要因となり、大きく成功できる可能性は十分にある。スマホゲームで展開しやすい知的財産は、登場キャラクターの種類が多いものが向いているが、これまでのシリーズでポケモンは700種類以上も登場しており、相性がよいと予測できる。『ポケとる』にはガチャ課金の要素は入っていないが、ゲームの仕組み的に入れることは非常に簡単だろう。例えば、LINEゲーム『ディズニーツムツム』の場合には、アナやラプンツェルといったディズニー映画に登場する特別なキャラクターを手に入れるガチャ課金は1回につき500円程度かかる。しかし、その金額のお金を支払っても、キャラクターを手に入れたいと考えるユーザーがいることから、アップルの『アップストア』の日本のランキングで常時10位以内の高い売り上げにつながっている。ポケモンの世界で手に入れるのが難しいとされる特別な能力を持つ“伝説のポケモン”は、ガチャ課金以外では手に入らない仕組みにすれば、ユーザー課金をしやすいだろう。ポケとるは3月23日に250万ダウンロードを突破したとポケモンは発表した。大きな広告を行っていないにもかかわらず、これほどのユーザー数を集めることをできたことは、潜在的な可能性を十分に示唆している。任天堂が、スマホゲームを展開して高い売り上げを生みだそうと思えば、実現できる能力を持っていると考えられる。

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DeNAは強力なキャラクターを使うことで、ゲームをヒットさせる戦略を携帯電話向けゲームの時代から意識して実行している。DeNAの守安功社長は会見で「大量に提供されるゲームの中で利用者に遊んでいただくために、最も分かりやすい差別化要素が知的財産であると考えている」と発言した。任天堂との共同開発は「主力事業であるモバイルゲーム事業を成長させるうえで、考えられる戦略オプションの中でも最良のプランであると思っている」。DeNAが開発・運営しているゲームで知的財産を利用した最近の大きな成功例が、昨年9月に始めたスマホゲーム『ファイナルファンタジーレコードキーパー(FFRK)』だ。スクウェアエニックス(スクエニ)の代表作ロールプレイングゲーム『ファイナルファンタジー(FF)』の歴代シリーズのキャラクターが登場し、FFシリーズのおもしろい部分といわれる戦闘の部分をスマホ上に再現し、人気を得ている。ユーザーはFFシリーズ特有の必殺技を出す武器などの“装備”を手に入れるために、1回300円のガチャ課金を払わなくてはならない。これが売り上げの基本となっている。昨年10月には月の売り上げが10億円を超え、同社の稼ぎ頭となっている。DeNAの方法論に従うならば、例えばポケモンの対戦場面だけを抽出してスマホゲーム化することができれば、ヒット確率は高い。必ずしも、新しいオリジナルゲームは必要ないのだ。この数年でスマホゲームが一般に受け入れられるにつれて、大きく変化した業界の常識がある。お金を積極的に払ってゲームを楽しみたいと思っているユーザーがゲーム開発者の予想を超え、意外に多いことがわかってきたのだ。ガチャ課金で提供されるキャラクターやアイテムは一定期間で新しいものへと更新されるが、自分が欲しいキャラクターやアイテムが登場するのを待ち望むユーザーは少なくない。そして、それを手に入れるために数万円をかけることもいとわないユーザーも少なくないのだ。

特に決められた価格でゲームを販売することに慣れていた家庭用ゲームの開発者は、この事実を受け入れることは最初からできたわけではなかった。スマホゲームの場合は、お金を払わないで遊ぶユーザーと、お金を払ってまで遊ぶユーザーではおもしろさを感じるポイントが大きく違っており、それを考慮しながらゲームを開発しなければならない。全体的にゲームの質が高いだけでは、ユーザーはお金を払ってくれない。家庭用ゲームの開発者はこれまで、ユーザーに適切なストレスを与えることの重要さを重視せずに、質の高さだけを追求してスマホゲームを開発することが少なくなく、数多くの失敗をしてきた。逆に、成功したゲームの場合、寿命が数年間に及ぶほど長くなる傾向も出てきた。岩田氏が否定していたのとは逆に、ガチャ課金はユーザーとの関係が長続きする障害にはならないことが明らかになっている。DeNAのようなウェブ系開発を出自とする企業が携帯電話向けゲームで、大きく業績を伸ばしたのは、こうしたゲーム業界の常識にとらわれていなかったからだ。岩田氏は「スマートデバイス向けには、同じ知的財産を活用するとしても、スマートデバイスのプレースタイルに合わせた、全く別のゲームをつくることになる」と述べ、家庭用ゲーム機とは違った手法で開発する方針を示した。一方で、ガチャ課金に代表されるスマホゲームの課金方式をどのように取り組んでいくのかについて、具体的には話さなかった。

任天堂がスマホゲームの成功の方法論を否定したゲームを開発した場合、多くの家庭用ゲーム機会社が直面したように、当初は苦戦することになるだろう。スマホゲームに参入して成功するということは、いや応なく、かつて否定してきた方法論を認めるしかない“踏み絵”を踏むことになるといえる。


しん・きよし ゲームジャーナリスト。1970年生まれ。慶応義塾大学商学部および環境情報学部卒。ゲーム会社で営業・企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。立命館大学映像学部非常勤講師も務める。GREEが設置した外部有識者が議論する『利用環境の向上に関するアドバイザリーボード』にもメンバーとして参加している。著書に電子書籍『ゲーム産業の興亡』(アカシックライブラリー)がある。


≡日本経済新聞 2015年3月27日付掲載≡


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