飲み会ダメならピザ研修、“新人思い”腐心の企業――企業が親も一緒に迎え入れる必要性、今直ぐできる新人対策はLINEのインストール

様々な混乱を職場にもたらす可能性がある2015年4月入社組。だが彼らは閉塞感に包まれた日本企業の現場に、新風を吹き込む潜在力も秘めている。今年の新人を恙無く受け入れる為の先進企業の工夫の数々を紹介する。 (宇賀神宰司・西雄大)

上司に怒られ無許可で早退し、翌日から無断欠勤。その日の午後に母親が職場に怒鳴り込んできて、「うちの息子が上司のパワハラに遭い、会社に行けないほど精神的ダメージを受けた」と大立ち回り。周囲の話を聞くと、上司の対応はパワハラどころか、優しさにあふれていた…。俄かには信じられないかもしれないが、こんな新人トラブルが数年前から増えている。本誌が2015年3月に実施した最新調査でも、新人の親と会社間のトラブルは様々な現場から報告されている。3年前の同様の調査では「子供の待遇等に不満を感じた親が会社に乱入する」が典型的なパターンだったが、最近は、抑々“親の乱入が必要な状況”に子供が陥らないよう、歓迎会にまで顔を出す父兄もいるという。

rookie 01

そんな時代の変化を先取りし、30年前から独自の試みを実践している企業がある。広島県に本社を置くオタフクソースだ。「入社おめでとうございます」。毎年4月に開催される入社式。社長の訓示に新入社員の挨拶とカリキュラム自体は他の企業と大差ない。ただそこには、他ではあまり見られない特徴が1つある。両親や祖父母などの保護者も出席し、最後列で息子や孫の姿を見守ることだ。式の終盤では新人一人ひとりが壇上で両親へ感謝の手紙を読み上げ、涙ぐむ保護者も少なくない。「誰だって新入社員の頃は不安を抱えている。会社も全力でサポートするが、親御さんも家で彼らの悩み相談に乗ってくれれば、より早く職場に慣れてもらえるはず。そのためにはご両親にも会社のことを知ってもらう必要がある」。オタフクホールディングスの島原由里子人事部長はこう説明する。確かに、会社と親が対話を密にすれば、少なくとも冒頭のような事態は確実に減らせるに違いない。「そこまでやる必要があるのか」と驚く団塊やバブル世代は、時代の流れに後れを取っているかもしれない。今時の新人は、親も一緒に入社してもらうつもりで受け入れる──。そんな考えは先進企業の間では、1つの常識になりつつある。IT(情報技術)企業のサイボウズも、そんな発想を持つ会社の1つだ。2014年12月19日、同社では入社式前に保護者を会社に招く“父母参観”を開催した。青野慶久社長が出席し、事業計画や人事制度などについて1時間ほどプレゼンする。その後、会場では海外展開の予定や若手社員の育成計画等、株主総会さながらの熱心な質問が保護者から出た。質問の一つひとつに丁寧に答えた青野社長は最後に、「入社後、お子さんのことで何か気になることがあれば、私に直接意見をください」と父兄に名刺を配って回った。2015年で4回目となる父母参観だが、金曜日開催にもかかわらず22人の内定者のうち、14家族31人が集まった。人事部採用チームの青野誠リーダーは「新人に安心して働いてもらうには今や保護者との協力は不可欠」と話す。




新人に気持ちよく働いてもらう為に、寧ろ先輩社員が日頃の言葉遣いや考え方を見直す──。先進企業の中には、そこまで踏み込んだ新人対応に踏み切る動きも出てきた。「初めまして、セールスドライバーの山田です。よろしくお願いします」「笑顔が硬いな。もう少し柔らかく」。佐川急便で開催された社内研修。目的は、顧客満足度を向上させることだけではない。狙いは、「新人に対する礼儀作法」を身につけることだ。「新人に対して、『おー、よろしく』といったぶっきら棒な態度では駄目。先輩の方からきちんと自己紹介して、礼儀正しくコミュニケーションを図るように伝えている」。同社労務部教育課の田中政勝課長はこう話す。研修では挨拶のみならず、より丁寧な仕事の教え方にも重点を置く。佐川急便と言えば、一昔前までは完全な男性職場。仕事は先輩の背中を見て学ぶのが当たり前の文化だった。だが、そんな同社も今は職場環境が大きく変わっている。まず新入社員に女性が増えた。「2015年度に社員の3割を女性にする目標も掲げており、男性職場ならではの様々な慣習は見直す必要がある」。人事・安全企画部女性ワクワク推進課の三宮加代係長はこう強調する。加えて、現在は新人の質が変わってきている(『今年の新人、“ゆとり型”と“熱血型”で混乱必至』参照)。今時のトンデモ新人は、消極的な“ゆとり型”と自分が納得しないと動かない“熱血型”に2極化している。いずれも「背中を見ろ」だけでは、うまく仕事を教えられないのは明らかだ。本連載では前回、「今時の新人は愛社精神と安定志向が強い半面、他人からの否定には極めて弱い」とも指摘した。だが、サイボウズや佐川急便に言わせれば、「そんな打たれ弱さも、親との連携やソフトな接し方など工夫次第で克服可能」という訳だ。

rookie 02

入社式から先輩研修まで新人の迎え方に気を配る企業が出てきた一方で、入社後のケアに工夫を凝らす会社も目立ち始めた。2015年3月18日、料理学校のABCクッキングスタジオに集まったIT企業の社員たち。4人が1チームとなり4チーム・16人が研修に参加する。ミッションはオリジナルのピザを作ること。企業向け研修を手掛けるキャプラン(東京都港区)の指導の下、実施した“ピザ研修”の1コマだ。参加するのは、入社間もない若手社員と、彼らを迎え入れる既存社員たち。後者には50代の社員もいる。親と子、場合によっては祖父母と孫ほど開いたジェネレーションギャップを、ピザを共に作ることで一気に埋めようというのが研修の目的だ。「コミュニケーションを図りたいなら、飲み会や社員旅行を開き、酒を酌み交わせば人は理解し合える」。団塊の世代などの中には、そんな揺るぎない信念を持つ方もいるかもしれない。だが少なくとも今どきの新入社員に対しては、そうした思想は危険だ。「日本人は遺伝的にアルコールを分解する力が弱く、何人かに1人は酒を受け付けない。飲み会は最初から一部の人を排除することを前提とした差別的行事。パワハラやセクハラ、新たな遺恨発生の場にもなりやすく、酔いが回れば中身のある意見交換など不可能」。これは、今回取材した2015年4月入社組の1人が実際に語った会社の飲み会への意見だ。父親の姿などからその実態をうすうす知っているのだろう、この内定者以外にも、会社の飲み会を警戒する2015年4月入社組は多く、「会社の飲み会は業務であり、残業代が支給されるべきだ」と主張する者もいた。では、なぜピザなら大丈夫なのか。ピザ研修を共同で開発したABCクッキングスタジオ経営企画部の徳永達志チーフは、「調理技術が簡単で全員が参加できる」「どうトッピングするかを巡り、必ず対話が発生する」「どう作ってもそれなりにおいしく作れる」という3つの利点を挙げる。一定の調理技術が必要なほかの料理ではこうはいかない。チームは料理が得意な者とそうでない傍観者に分かれ、対話は生まれず、料理が失敗した暁には試食の際に苦痛が待ち受ける。「ハンバーグなど別の料理で試したことがあるがピザがベスト」と徳永チーフは太鼓判を押す。飲み会以外で新人とのより良いコミュニケーション方法はないか模索している企業にとっては、一考に値する仕組みかもしれない。

rookie 03

とはいえ、2015年入社組が配属されるまで早や2週間弱。「今更、対策をあれこれ言われてもどうしようもない」という読者もいるはずだ。そんな読者のために、本誌は新人を首尾よく受け入れる為に“今すぐにできる2つのこと”を提言したい。先ず最初にやるべきことは、直ちに『LINE』等メッセージングアプリをスマートフォンにインストールすることだ。2015年4月入社組の多くは、良い悪いは別にしてメッセージングアプリを生活の中心に置いている。例えば、友人とも家族ともLINEで24時間繋がる者にとっては、“LINE音痴”はデジタル時代から取り残された旧人類の象徴。LINEに疎いことが判明すれば先輩としての権威は失墜しかねず、関連用語を知らなければ新人同士の会話に全くついていけない事態すら起こり得る。「今さらインストールしても使いこなせるわけがない」という人は、新人にLINEの使い方を教えてもらうことで対話を図る手もある。LINEを使えなくても、その存在自体がコミュニケーションのきっかけになる訳だ。新人配属までにやるべき2つ目のことは、先輩の貴方自身が自己紹介文をまとめておくことだ。新人を預かった上司は心理的距離を詰めようと、あれこれ話し掛け様々なことを聞き出そうとする。だが電通若者研究部の小木真研究員は、「SNS(交流サイト)で嫌われないことを私生活の最重要課題とする彼らは、どんな質問にも他人から嫌われない無難な回答を用意しており、質問しても上辺だけの会話が続く」と指摘する。そんな彼らの心を開きたければ、相手のことを詮索するよりも先ず自分が何者か語った方がいい。

rookie 04
調査概要: 2015年3月2~11日の間、日経BPコンサルティングが保有するインターネット調査システム『AIDA』を使用して実施。563人から回答を得た。

本誌の最新調査によると、新人を厳しく叱責した経験がない人は67.8%に上り、「出世意欲が低いと思う」という質問については66.6%が「思う」と回答した。多くの職場で今どきの新人を扱いかねている様子がうかがえる。だが、間もなく配属される2015年4月入社組は育成次第で“大化け”する潜在力も秘めている。今回の取材では、「2015年4月入社組は例年に無く個性が豊かであり、その原因は彼らの両親である新人類世代による個性最優先の教育にある」という意見を様々な場所で聞いた。そんな方針がもたらしたものは、悪いことばかりではない。子供の個性を全面的に肯定する教育は、確かに我が強く社会適応力の弱い人格を育みかねない。ただその半面、北海道日本ハムファイターズの大谷翔平投手兼外野手(1994年生まれ)のような、規格外の人材を生み出す可能性もある。様々な混乱を職場にもたらしそうな2015年4月入社組。だが、彼らが閉塞感に包まれた日本企業の現場に、新たな風を吹き込む可能性も決して小さくない。


キャプチャ  2015年4月6日号掲載


スポンサーサイト
Categories
Profile

KNDIC

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR