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若者の貧困化が止まらない――30歳前後、必死に働いても越えられない“月収20万円”の壁

既婚者が比較的少なく、住宅ローンを抱える人もわずか。そんな理由から、「40~50代に比べ切羽詰まった状況にはまだ陥っていない」という印象を持たれがちなアラサー世代。だが実際には、彼らに対して貧困という影は、思いのほか濃く覆い被さっている。 (取材・文 青山由佳、牧隆文、加藤カジカ、吉岡俊)

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※総数291人。複数回答可。

「アラサー世代の貧困問題は、その上の世代よりもさらに深刻です。非正規雇用者の増加や正社員との格差がこれまで以上に広がっているだけでなく、彼らの親世代も資産を持っておらず、親というセーフティネットが機能しないのです」。そう話すのは、『パラサイト・シングルの時代』などの著書がある、中央大学教授の山田昌弘氏だ。曰く、アラサー世代が歩んできた時代背景も影響しているという。「アラサー世代が就活した時期は小泉政権末期で、派遣労働や雇用の流動化が進み、“実力主義”なんて考えが広まった時期でした。だがその見込みは外れ、結局は正社員にしがみついていた人の勝ちだった。非正規を選んだ人はキャリア形成上、とんでもないハンディを負うことになったわけです」。今回、本誌は月収20万円以下の26~33歳男女400人にアンケートを実施。すると7割以上は「生活が苦しい」と回答。その理由を聞くと「昇給がない」「転職失敗」「職場環境の悪化」などが多かった。

また、近年は正社員でもブラック企業の問題があぶり出されている。若年層の労働問題を扱う雑誌『POSSE』編集長の坂倉昇平氏は、「今、ブラック企業の“直撃”を受けているのが、まさにアラサー世代なんです」と指摘する。「ブラック企業は社員を育成する気などなく、低賃金で長時間働かせたあげく、数年でクビにしたり心身を壊すまで消耗品のように使い潰して辞めさせる。非正規の過酷さを目の当たりにし、正社員の地位にしがみつきたいアラサー世代は格好の標的です。スキルも教えられないままクビにされた結果、彼らは労働市場のなか“弱者”であり続けることになる」。さらに、前述のように親世代のカネ不足という問題もついて回る。「非正規雇用のなかでも、親に支えられている人とそうでない人の差が明確になっている。母子世帯も増え、同世代のなかでも格差は広がっています」(山田氏)

母子家庭という環境では親からの援助に期待ができないのは言わずもがな。厚生労働省の調べによれば、今の30歳が9~19歳だった10年間で、全国の推計母子世帯数は約80万世帯から約123万世帯へと急増。過去に例のないほどの上昇率になった。一方、ひとつ上のアラフォー世代を見てみると、同年齢期の10年間でほとんど変化はない。ある意味、アラサーは雇用&家計悪化という“ダブルパンチ”を、戦後日本で初めてモロに食らった世代ともいえるだろう。次からは、そんな“貧困アラサー”たちのリアルな姿に迫っていこう。






■食も住居も困窮するアラサー男たち
【File.01】正社員昇格に夢を託し、毎夜、ふりかけパスタを食す
今年6月から郵便局の契約社員として働く今野圭祐さん(仮名・31歳)。埼玉県のアパートから片道1時間かけて通勤する彼の手取り月収は約15万円。ここ5年間、月収20万円を超えたことは一度もない。「大学後半にうつ病になってしまったのがすべての始まりですね。ようやく就職できたのは25歳のときで、派遣事務でした。ただ、時給がよかったので月収25万円くらいは稼げていたんです。けれど契約更新がなくて、また別の職場を探すことになってしまい……」

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リーマン・ショック後の厳しいタイミングでありつけた職は、時給850円の倉庫作業員だった。「繁忙期で残業が多ければ17万円、一日の最低保証額が5100円なので、ひどい月だと12万円ほどにしかなりません。口座残高が200円になったときもあって、派遣会社の前借り制度を使ってなんとか凌ぎました。昇給なんてないし、アリ地獄のような職場ですよ」。月に自由に使えるお金が3万円もないような苦しい毎日。食事代を節約するために、夜は大量購入した業務用パスタを茹で、ふりかけをかけて食べる。昼も前夜に作ったパスタを弁当箱に詰めて出勤。こんな食生活が1年も続いている。「まだうつ病も完治していないのですが、通院するお金も節約したいのでネットで個人輸入の薬を買っています。ツラいのは家の近所に歓楽街があること。毎晩、誘惑に駆られるのですが、家に帰ってエロ動画でヌイて我慢してますよ」

ただ、転職した現職では正社員登用の可能性もあるそうで、「正社員になれたときが自分の本当のスタートだと思っている」と話す。「数年勤めた後に試験に受からなくてはいけないのですが、正社員になれば手取り20万円は無理でも各種手当がついてくる。卑屈にならずに友達と飲みに行けるし、将来は結婚だってしたいんです」。正社員を夢見て、今日もふりかけパスタを食す今野さんだった。

【File.02】安すぎる給料と親からのクレームに怯える貧困先生
中堅私大を卒業し、20代半ばからは派遣と契約社員の職場を転々としてきた小林隆さん(仮名・31歳)だが、昨年、私立中学校の非常勤講師に採用された。教員免許と英語スキルを活かした栄転のように思えるが、学校サイドの勝手な給与制度改定で、当初提示されていた16万円から減俸。手取り月12万円という、薄給での勤務を余儀なくされている。「こんな金額で暮らせるわけがなく、コールセンターとのダブルワークでなんとか暮らしています。朝6時に家を出て、終業後にバイトに行き、帰るのは深夜0時頃。それでも手取り17万円ほどです」

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業務内容も過酷だ。反抗期の生徒からは授業中に物を投げつけられ、親からは「お前の教え方が悪いから成績が上がらない」と文句を言われる。非常勤講師は受け持つ授業のコマ数で給与が増減するが、おとなしい性格が災いして親からバッシングされやすい小林さんは日々、査定の悪化に怯えている。「勤務後にコールセンターに行けば、今度は何時間もクレーム対応。さすがに気が滅入りますね……」

そもそも、彼の人生プランが崩れたのは、大卒後に入社したIT企業をリストラされたことだ。しかも入社わずか1年で、だ。「当時、サブプライム問題の影響で会社の経営が急速に悪化していたんです。入社10ヵ月で集団リストラが始まり、毎週プログラミングのテストをして成績の悪かった人から消えていく。僕は必死で8週目まで粘ったのですが……」。折からの雇用情勢悪化が影響し、再就職先は短期派遣だけだった。「そこからは非正規職を転々、という感じで、気づいたら30歳です。以前はアパートに住んでいましたが、今は家賃を抑えるためにゲストハウス暮らし。けど、オーナーの意向で『住人の入れ替えを促して中を常にキレイにしたい』というのがあって、長くは住めなさそうなんです。次も探さないと……」

【File.03】ブラック企業から逃れても、行き着く先はやはりブラック
アラサー世代の場合、転職のしやすさが“落とし穴”となり、自覚もないうちに貧困に陥るケースがある。「8年間で3つの会社に勤めた」という荻原健二さん(仮名・29歳)は、その典型的なパターンだ。大学を中退している彼は、バイトをしていた酒の小売りチェーンに就職。だが、「ワンマン社長の横暴がひどい会社だった」という。「その頃は社員になったということで、やる気に満ちていました。けど、流通のムダを会議で指摘したら、社長から『ガキがなに生意気言ってんだ!』と罵倒され……。それ以来、会議では毎回名指しで怒られ、ご機嫌伺いの上司からも無視されるようになったんです。そもそも、僕が採用されたのも風水に凝っている社長が『コイツは実家の方角がいい』と、訳のわからない理由で決めたらしく……」

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完全に社内で居場所をなくした荻原さんは転職を決意。しかし、「2社目は月に100時間くらいサービス残業をさせられる飲食チェーンで、体が耐えられず半年で辞めた」とか。ストレスフルな生活で晩酌の量も増加。今では1晩平均、発泡酒6缶を空けるようになってしまった。現在は3社目のワインの輸入商社に勤務しているが、転職を繰り返しているせいで手取り月収は17万円から増えないまま。在職中は多少の貯金ができているが、それも転職活動中に使い切ってしまい、少ない残高に焦って探した転職先はやはりろくでもない会社と、すっかり負のスパイラルにハマっている。

「転職が生活を苦しくしているのはわかっているんですが、やっぱり『もっといい会社があるのでは?』と思ってしまう。今の会社では入社以来、ワインの本を延々と読まされるだけなんです。正直、次の転職先を探そうかなと……」。次の転職先も恐らくブラック企業。そう知りつつも、あてのない逃げ道探しの日々を送る。

【File.04】勤続8年で昇給一切なし、家も借りられない正社員
「新卒で広告代理店に入社したときに住んでいた、月7万円のマンションが一番高級でしたね」と唇を噛むのは、正社員にもかかわらず友人のシェア・オフィスに居候する松本匠さん(仮名・33歳)だ。広告代理店を1年で退職し、現在は人材派遣会社に勤務している。「仕事がキツくて辞めたんじゃないんです。20時には帰れたし初任給も手取り20万円でした。でも当時は内勤の仕事をつまらなく感じていて、『もっとバリバリ働きたい』という意欲に駆られていた。ちょうどテレビでも“ハケンの品格”が人気で、『雇用形態より実力』みたいな風潮があったんです」

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そうして給料が同程度だった現在の会社に移った松本さん。派遣社員として2年働いた後、正社員への誘いを受けることになった。「当時は会社がまだベンチャーで、『一緒に成長しよう』と誘われ、やりがいのある仕事をしたい一心で受けました。ただ、営業歩合がなくなって給料は17万円に……」。気づけば正社員8年目。その間、昇給どころか、むしろリーマン・ショックで減給され、ようやく盛り返してきたところだという。「でも、派遣のまま働いていたら減給どころか“派遣切り”に遭っていたかもしれないので、結果的には命拾いしたんだと思います」

だが、過酷な薄給生活は徐々に生活を蝕む。憂さ晴らしのパチンコ&キャバクラ通いがいつしか休日の日課となり、生活費がなくなると消費者金融から借金。気づけば額が100万円を超えていた。「当時はまだ金利が高く、28%とかでした。結局、払いきれずに債務整理。返済はまだ残っています」。返済のために終業後には飲食店での深夜バイトも開始。住居も風呂なしボロアパート→友人とのルームシェア→友人の実家を間借りと転がり落ちていき、流れ着いたのが現在の場所だった。「今は引っ越ししたので、新しいバイト先を探しているところ」と松本さん。体が丈夫なのが唯一の救いか……。

【File.05】「まっとうに生きるってツラい」…元ホストを襲う、厳しい現実
マジメに働く者でさえ困窮するなら、一度道を外れた人間にはさらに厳しい現実が待っている。東京都下のアパレルチェーン店で働く川越裕樹さん(仮名・29歳)は、専門学校を卒業後、ホストやキャバクラ店長など夜の業種を転々としていた。「当時は月収50万円を超える月もあった」という彼だが、27歳のときに違法な客引き行為で逮捕され、状況が一変する。「初犯だったのでかろうじて不起訴処分になったんですが、手錠を外されたときは自然と泣きました。親にもすげー迷惑かけて、『俺、なになってんだろう』って……」

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更生を志し、アラサーにして初めての就活に挑む。しかし、当然ながら現実は甘くなかった。「数十社に応募しましたが、書類落ちばかりで面接すらしてもらえない。SPI試験では問題の意味すらわかりませんでした。バイトと貯金を切り詰めてなんとか生活していたけど、ついに残高がゼロになり、バイクを売ったりしてなんとか食いつないでいました」

就職開始から約半年、新規開店で大量採用をしていた今のアパレルチェーンになんとか採用された。「でも、契約社員なんで手取り16万円。年下の女上司がキツい人で営業中にインカムで『お前、さっさと辞めろよ』とか、みんなに聞こえるように怒られるんです。水商売時代には年金や住民税も払っていなかったので、最近は役所から督促状が届くようになりました。マジメな同年代と開いた差を考えたら、最近あまり眠れないんですよね。親はもうすぐ定年になるんですけど、これから俺、どう面倒みればいいのかなって……」。彼のいばらの道は、まだまだこれからだ。

               ◇

■生活苦に身も心も蝕まれる貧困女子の悲鳴
【File.06】カネがなく、元彼宅に“寄生”…癒やしはバンドの追っかけのみ
都内在住の松森かなさん(仮名・30歳)は、女性介護士として低賃金や人材不足が深刻な介護業界で必死にサバイブし続けている。「私の職場は主にデイサービスの介護施設なんですが、業界全体が慢性的な人手不足なので、利用者の介護や事務作業など、どうしても1人で2~3人分の』仕事をこなさないといけない。月に100時間近く残業をしても、手当が出るのは16時間分まで。ツラすぎて同期は私以外、全員辞めましたね」

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なんとか残った松森さんの負担は年々、増える一方だという。「30歳前後の中間層の介護士が特に少ないので、毎日残業が終わってもおばちゃん職員のグチを聞いたり、若手の悩み相談に乗らないといけない。休みがとれたとしても介護施設で行うイベントの買い出しや雑用で呼び出されるので、丸一日休めることはほぼありません。もちろん休日手当も出ない。副業で始めた訪問ヘルパーの仕事の収入と合わせても、月収17万円が精いっぱいですね……」。取材時には「それでも辞めないのは、この仕事が好きだから」と苦笑いした松森さん。だが、話を聞くうちに、過酷な現状が彼女の心を蝕んでいく様子は、しっかりと見てとれた。「仕事は好きだけど、フェイスブックとかで実家暮らしの友達が合コンや海外旅行など遊びまくっている姿を見ると、『私の人生ってすごいムダなんじゃないかな』と、悲しくなるんですよ……」

そんな松森さんの唯一といえる楽しみが、学生時代から好きだったビジュアル系バンドの追っかけだという。チケット代や地方遠征代など、消え入りそうな給料のなかから、月に3万~4万円をコンスタントに出費している。「そのせいで生活が苦しくなっているのはわかっているんですが、これくらいの楽しみがないと頭がヘンになりそうで……。貯金できていないから引っ越し資金もないので、今も2年前に別れた元彼の家に3割程度の家賃負担で住ませてもらっています。たまにセックスも強要されますが、追い出されたくないし受け入れてますね」。マジメに働く姿に隠れる彼女の顔は、どこか自暴自棄にも見えた。

【File.07】安月給から仕送りまで捻出、若いバイトに嫉妬心がつのる
「雀の涙みたいな給料から親に仕送りまでしないといけない。余裕なんてまったくないです」と話すのは、都内の輸入インテリアショップで働く西村薫さん(仮名・31歳)だ。「ずっとインテリア業界で働きたかった」という彼女は、デザイン系の専門学校を卒業し、希望通りに今の会社へ入社。だが、喜んだのも束の間。定時後のサービス残業は日課となり、急に欠勤になったバイトの穴を埋めるために休日出勤も頻繁に発生。そうして得た手取り月収18万円から、地方に住む両親への2万円の仕送りまで捻出しなければならないという。「親からは『今まで学費を払った分を返してほしい』とハッキリ言われています。そう言われると娘としては苦しくても仕送りをせざるを得ないです。家はまだローンが残っているし、母が最近になってパートで働きだしたのも知っているので……」

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毎晩、終電ギリギリで電車に駆け込み、翌朝は8時に出勤。店のブランドイメージに合わせるため「趣味でもないゆるふわ系の洋服を毎月買い足さないといけない」とか。そんな日々を送るうちに、「だんだんと若いバイトに嫉妬するようになった」という。「社員の自分はカツカツなのに、若いバイトのコは休みたいときに休んで、昼食も豪華だったり化粧品も自分より高いものをライン(化粧品一式)で揃えたりしている。それを見ているとイラついて、怒鳴りたくなるんです。けど、ときにはそんなヤツらに『シフトに入って』と頭を下げないといけない……。最初に抱いていた憧れなんて、もう完全にありませんね」

【File.08】トリプルワークで風俗まで…それでも生活は苦しいまま
華やかな職業というイメージもあり、志す若い女性も多いネイリスト。横田亜美さん(仮名・29歳)も25歳で業界入りしたが、現実は「極上のブラック業界」と皮肉られるほど、過酷な労働環境だった。「まずサロン就職にはネイリスト検定所持を雇用条件にあげる店が多く、正社員を目指すならば1級は必須。その学費は1年間で100万円です。しかも今は供給過多の状態でなかなか就職できず、運よく働けても薄利多売で……」

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横田さんは2級検定を取得し、ネイリストとして都内有名美容室チェーンの契約社員になるも、1年間はインターン扱いで手取りはわずか12万円。営業終了後も技術向上のために、毎晩終電間際まで勉強させられる日々だった。「時給に換算したら380円ぐらいで笑うしかなかったです。おまけに用具は全部自腹で、1つ3万円くらいするんです。さらに新技術が開発されるたびに、指導資格を持つネイリストに数万から数十万を支払って教えてもらわなくちゃいけない。さすがに生活していけず1年半で退社です」。現在は介護送迎の会社に勤めながらも、夢を捨てきれず、アフター5や休日に個人向けフリーネイリストとして細々と活動している。「サロンといえるほど立派なものではありませんが、自宅に招いて1人5000円でサービスしています。それでも『高い』と言われるし、あと頻繁に『やり方を教えて』と言われ、教える私も悪いのですが、技術を盗まれてリピーターはほとんど来ませんね」

現在の本業である介護送迎のほうも手取り15万円。この薄給で男性老人から毎日のように胸や尻を触られるというオマケ付きだ。「どうしても物入りのときは風俗に短期入店します。介護の仕事をしているからか、世話には慣れているんでしょうね。ただ、そこも安いお店なので1日働いても1万円ちょいにしかならないんです」。これだけ必死に働いても、月給20万円を超えない日々。彼女の生活安定への望みは、少しでも早く結婚することだという。

【File.09】野宿生活から漫画喫茶へ…定職もなく、放浪は続く
「ここに住みだしてもう2ヵ月か。早いなぁ……」。渋谷の漫画喫茶で暮らす近藤美香さん(仮名・28歳)は、コンビニ弁当を食べながら自嘲気味にそう笑った。都内に実家のある彼女が“家出”をしたのは、約3ヵ月前のこと。同居する兄からのDVが原因だった。「毎日のように殴られて耐えられなかったんです。最初は福祉関係者の紹介で婦人寮(DV被害者の保護施設)も訪ねたんですが、順番待ちで入れなくて……。それで野宿。けど、1晩で30人くらいの男に声をかけられるので、さすがに怖くて漫画喫茶に移りました」

もともと、新卒で証券会社に就職した彼女だったが、2年後に結婚を理由に退職。当初は幸せな結婚生活だったが、次第に束縛の激しい夫からの暴言に悩むようになった。連日、「本当は浮気してるんだろ!?」「はやく死ね!」などと罵られるうちにうつ病を発症。離婚して実家に戻ったが、病気もあって再就職は難しかった。そして、「居酒屋で短時間のバイトをするのが精いっぱいだった」という彼女を、今度は兄からのDVが襲う。

「実家よりは今のほうがマシです。私の場合、重度のうつ病なので国からの補助金が出るんです。2ヵ月に十数万円ですが、今はこれだけが収入源。漫喫の12時間パックで昼間は寝て、夜はタダでご飯が食べられる出会い喫茶で時間をつぶす。服は持ち運べる最低限だけ所持しているんですが、頻繁に洗濯できないのが悩みですね。できれば再就職したいけど、病気のせいで全然受かりませんね……」。貧困脱出の道は果てしなく遠い。

【File.10】両親も自分たちも困窮…それでも結婚を目指す2人
1人の収入では生活できないから、2人で暮らす――。そんな選択肢をとっているのが、交際歴2年の深谷由香里さん(仮名・30歳)と島村研太さん(仮名・27歳)のカップルだ。ハローワークの職業訓練校で出会った2人は現在、ともに介護福祉士として働き、月収は合わせて手取り35万円程度。今は6畳ワンルームで同棲している。「もともと私1人で暮らしていて、当時はかなり苦しかったのですが、今は家賃を折半できるのでだいぶ楽になりました」(深谷さん)

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ただ、同棲を始めたのにはお互いの複雑な家庭事情も絡んでいる。「僕はもともと実家に住んでいたのですが、母子家庭で母が病気で働けなくなって、生活保護を受けているんです。だから家を出ざるをえない状況でした」(島村さん)。一方、深谷さんも両親の経営する会社が倒産し、莫大な借金を抱えている状況だという。「今は年金をもらいながら2人で働いて借金の返済に追われている状態。だから、私が少し仕送りして手助けしています」(深谷さん)。互いに両親からの金銭面での援助は受けられない。そんな身の上に共感する部分があったのかもしれない。そして、最近では将来の結婚も意識し始めてきたというが……。「彼のことを両親に話したときに『生活保護を受けている家の子供はやめろ。ウチも借金を抱えている状況なのに、将来はお前が苦しむぞ!』と、猛反対されてしまいました」(同)

そのため、島村さんは働きながら看護師の資格を取ろうと、看護学校への入学を目指している。「結婚資金や子供が生まれたときのことを考えたら、今の給料じゃやっていけない。だから少しでも給料を上げないといけない気持ちはありますね」(島村さん)。ただ、資格を取るまでには最低でも4年はかかり、学費として100万円は貯める必要がある。島村さんは入学後も現在の職場で夜勤だけはこなす予定だが、収入はあきらかに減ってしまう。「でも、最近は私の両親も彼の将来設計を聞いて、徐々に認めてくれるようになっているんです。そういう目標があるから、まだ頑張れますね(笑)」(深谷さん)。今すぐに結婚はできないが、貧困を抜け出すために歩む2人の道。報われない若者たちの未来を思うと、せつなくてたまらないのだ。

★むしろ早く結婚すべき…貧困アラサーの男女格差
若年貧困層の相談を多く受け心理的なケアや支援を行っている臨床心理士の鈴木晶子氏。曰く、「男性より、女性のほうが経済的に厳しい状況にある人が多い」という。「私の経験上、女性に特徴的な職業選択として、まじめな方は介護や保育など人の役に立つけれど比較的ハードで低賃金といわれる職業に多く、一方、華やかな業界を好む女性はネイリストや美容師・アパレルなどが挙げられます。いずれも待遇面で厳しく、経済的に困ることが多いように感じます」。これらの職業は総じて、退職後のキャリア形成が難しい。「いざ転職しようと思っても『ほかに何ができるの?』と問われると評価されにくい。そうするとパートやアルバイト、さらに水商売に流れる女性も多くなってしまう。昨年、貧困女子という言葉が話題になったように、相対的に女性はキャリア形成が難しく、加齢によって採用自体も厳しくなります」

そこで選択肢になるのが、上の介護福祉士カップルのように2人で共済する生活。彼らは収入が安定するまでは結婚を待つと話したが、「苦しくても思い切って結婚するのも、アラサー世代ならアリだと思います」と鈴木氏は話す。「私が相談を受けたなかでも『もっと稼げるようになってから結婚したい』という人は多いのですが、これから収入が増える保証は残念ながらありません。むしろ年齢が上がれば介護離職など自分が頼られる側になって仕事が難しくなる可能性も高く、結婚できない理由は増えていくかもしれません」

鈴木氏がそんな貧困に悩む若者向けのイベントとして注目しているのが『貧コン!』だ。これは低収入に悩む人向けの交流イベントで、、同じような状況の男女と繋がることができるというもの。今年6月の1回目には71人が参加し、「年収が低く、街コンには参加しにくい」というニーズを、確かに感じる結果だったそうだ。「出費を気にして人付き合いまでなくしたら、本当に困ったときに誰も助けてくれなくなる。やはり大事なのは、心や人間関係まで貧困にならないことなんです」


すずき・あきこ 一般社団法人インクルージョンネットよこはま理事。生活困窮者の心理的ケアをはじめ、自立相談支援事業でアドバイザーを担当する。

               ◇

■貧困アラサーを待ち受ける“恐怖の10年後”のシナリオとは?
懸命に働いても生活が苦しいままの貧困アラサーたち。月収20万円以下の独身男女400人に「将来を考えたうえで不安に思うこと」を聞くと、やはり上位は「収入が上がらない」「貯金がない」「増税」「月に使えるお金が少ない」など、キャッシュフローの厳しさに関することだった。

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※総数400人。複数回答可。

実際に彼らの“月に自由に使えるお金”は悲しいほど少ない。多くの人が「5万円未満」と答え、5人に1人は「1万円未満」と回答。もはや1晩の飲み会すら許されない厳しい生活だ。

そんな貧困アラサーたちは将来をどう見据えているのか。「10年後の生活はもっと苦しくなっていると思うか?」という質問に対し、「そう思う」と答えた人は5割強。冒頭で紹介した「現在の生活が苦しいと感じるか?」との質問には7割強が賛同したのに比べ、割合が減る結果になった。これに対して前出の山田氏は、「2割弱が減ったのは『正社員でこれから昇給の見込みがある』という人がいるからでしょう」と分析する。しかし10年後、昇給が見込めない多くの貧困アラサーは、「さらに厳しい現実を目の当たりにすることになる」とも続ける。「大きな原因はやはり、親世代の経済力格差です。40代以上の人の親世代は不動産など金融資産を多く持っているが、アラサー世代だと“実家が賃貸”という家庭も多い。今は自分が体力面で無理が利くし、親と同居すればとりあえずはなんとかなるから『これが続くんじゃないか』と錯覚してしまうが、親がリタイアしたり1人暮らしで急に病気になると、それが一気にトリガーと化す。結局、親子で共倒れということになり、さらに孫世代にも“貧困の連鎖”が起こる」

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また、結婚や出産の問題を挙げるのは前出の『POSSE』編集長・板倉氏だ。「最近、私たちへの労働相談で増えているのが、企業が出産休暇を認めてくれないというものです。要は出産するなら会社を辞めろということになるので、それだと共働きが前提の若い夫婦の生活が破綻してしまい、子供は当然産めなくなるし、さらに結婚すらできなくなる恐れもあります。産休の問題は働く女性の生活だけでなく、若年層の将来設計の見通しまで壊してしまうんです」。耳が痛くなるほどに不安要素が並ぶ、貧困アラサーの今後。そんな将来への不安からか、現在の貯金額を聞くと、急な出費で生活が破綻してしまうような「10万円未満」の人が3割強もいる一方で、「10万~100万円未満」と「100万円以上」も同程度で、意外と堅実にお金を貯めている人も多いことがわかる。

このようにすでに社会問題化しているアラサー貧困。ただ、劣悪な労働環境にいるのは我々40代も同じ。彼らを見て「俺らはまだマシ」と溜飲を下げるのは、それこそ“心が貧しい”のかもしれない。


キャプチャ  2014年9月9日号掲載
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