【アメリカ<中国?】(07) 中国が直走る“100年マラソン”――アメリカ主導の世界秩序を覆す為に、タカ派中国が静かに進める“独り勝ちレース”とは…

イスラムを騙るテロリスト集団に手を焼き、イエメンで始まった戦争に頭を抱え、イランとの核協議でも先が見えないアメリカ。四面楚歌とはまさにこのことだろうが、忘れてはいけない。アメリカ外交にとって最大の課題は別にある。「とんでもなく強くなる一方の中国とどう付き合っていくか」、という問題だ。鄧小平による改革開放が始まった1970年代末以降、アメリカは中国が国際社会の既存秩序(安全保障や貿易の制度から紛争解決の仕組み、その他の国際機関まで)に順応するのを手助けしようとずっと考えてきた。同盟諸国にもそう説いてきた。中国が経済的に(結果として地政学的にも)大国となる事態が避け難い以上、アメリカとしては、第2次世界大戦後に自らが主導してきたシステムに中国を馴染ませるしかなかった。東アジアの韓国や台湾では経済が順調に発展し、政治的にも独裁から民主主義への移行が進んでいた。だから束の間、外交政策の専門家たちも信じることができた。「これでいい。十分な時間があれば中国も(共産主義という名の)独裁から民主主義に移行できるだろう」、と。

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だが、現実は違った。希望的観測は裏切られた。今時、そんな夢を見続けている外交の専門家は殆どいない。こうなると、アメリカにできるのは中国の台頭に伴う波風を可能な限り減らすことしかない。中国の指導部も余計な波風は立てたくない筈だと、私たちは信じている(米中国交回復の立役者だったヘンリー・キッシンジャーも、2011年に発表した『キッシンジャー回想録 中国』《邦訳・岩波書店》で、「米中両国はあからさまな対決を回避しつつ、“好戦的共存”に到達できるは筈だ」と論じている)。こうした中、保守系シンクタンク『ハドソン研究所』の中国戦略センター長のマイケル・ピルズベリーが新著『100年マラソン/アメリカに代わり世界の超大国の座を狙う中国の秘密戦略』を発表した。長年、中国の動向を注視してきたピルズベリーは、国防総省や連邦議会でも働いた経験がある。書名から容易に推察できるように、彼は中国が「アメリカ中心の世界秩序にすんなり馴染んで、最終的には2大超大国の1つとして穏やかに共存する」という考え方を真っ向から否定している。




「1949年の共産党政権樹立以来、中国の目標は“世界一の超大国になる”ことであり、“革命100周年の2049年までにその目標を達成する”という壮大な戦略に沿って動いている」というのが彼の考え方だ。更に重要なのは、(書名にこそ仰々しく“秘密”と謳っているが)ピルズベリーがこの覇権戦略を「秘密でも何でもない」と論じ、説得力ある根拠も示している点だ。同書によれば、ピルズベリーは北京で開かれた人民解放軍の会議に招待されたことがあり、そこでは中国の長期戦略がオープンに議論されていたという。彼が出席を許された理由の1つは、彼の中国人仲間(中国を、最終的にアメリカに代わる世界の超大国にするという野望を隠さないタカ派)の発言や論文に彼が注目してきた点を気に入られたからだという。こうしたタカ派の著作は人民解放軍の要員と、ピルズベリーのようなごく一部のゲストだけが利用できる軍の書店で販売されている。ピルズベリーはそれらを全て購入して読み、また長年にわたって人民解放軍の戦略家たちから話を聞いた上で、大胆な結論を導き出した。それは既存の外交専門家には受け入れ難い結論だが、今のところ明確な反論も出ていない。「既にレースが始まっていることに相手が気付いていないのなら、勝つのは簡単だ」と彼は書いている。「中国はそうしてアメリカに代わる世界の覇者となり、今とは違う世界を作ろうとしている」。ピルズベリーに言わせると、中国共産党と軍部におけるタカ派の見解は欧米諸国が信じているような傍流ではなく、寧ろタカ派こそが主流の在り方を“定義”している。中国政府の内情は見え難い為、彼の主張を客観的に評価するのは難しい。だが、ピルズベリーは具体的な議論をしっかり組み立てており、外交の専門家なら無視することは許されない。他にも、注目すべき事実がある。2012年に習近平が権力の座に就いて以降、中国が周辺海域での態度を変えたという点だ。日本やフィリピン沖の小さな島々の領有権や、ベトナム沖での石油掘削権を巡る争いにおいて、中国は“弱者”と見做した近隣諸国を苛めるようになっている。また、衛星画像で判断する限り、南シナ海・南沙諸島で大掛かりな埋め立てを進めており、そこに軍用施設を建てる計画と思われる。

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ピルズベリーに言わせれば、こうした挑発的な振る舞いも“100年マラソン”戦略に沿った当然の変化なのだろう。過去30年間、中国は「我が国はとても貧しい。発展の遅れたこの哀れな国に、技術や資金を投じて助けてほしい」という姿勢を取り続けてきた(ピルズベリーは、「これが見え透いた嘘だった」と主張する)。だが、その時代は終わった。今の中国は強く、その強さをどんどん増している。今の習には、歴代の指導者には無かった自信が溢れている。「党中枢の学者や戦略家たちは今、アメリカとの戦争を回避しつつ、アメリカに名誉ある撤退を受け入れさせる作戦を練っている」とピルスベリーは主張する。最終章で、彼は読者に「アメリカはどう対応すべきか」と問い掛けている。彼が提示する処方箋の中には、凡そ受け入れ難いものもある。例えば、「アメリカは中国支援の為に、政府機関から派遣している専門家を引き揚げるべきだ」という主張だ(生憎、中国の経済成長に最も貢献しているのは、連邦政府ではなくアメリカの巨大企業だ)。だが、彼は戦略的に意味のある対策も提案している。例えば、中国伝統の『囲碁』。盤上でより多くの領域を確保した者が勝つゲームだが、「これこそが中国の戦略的思考の中心にある」と著者は説く。これに対抗するには、オバマ政権のアジア重視戦略は理に適っている。日本や韓国との同盟を更に強化し、インドやベトナム等とも新たな同盟を築いていくことで、アメリカは効果的に中国を包囲できるからだ。そうなれば、中国指導部内の非タカ派が戦略の失敗に気付き、より柔軟な路線に転じる可能性が生じる。但し、過去9年間中国で暮らしてきた筆者から見ると、オバマ政権のアジア戦略は現実性を欠いている。筆者の知る限り、オバマは未だに中国が戦略的“競合国”なのか“敵”なのかを判断できずにいる。

中国は、国際舞台でアメリカの地位を奪おうとしている敵なのか。それとも、アメリカとの共存を望んでいるのか。その答えを出すのは難しい。ピルズベリーは「中国は一枚岩ではない」と書いており、その指摘は正しい。彼は、「今はタカ派が優勢でも、今後それが続くとは限らない」と考えている。「当代のアメリカ政府にとっての外交政策上の中心課題は、中国が抱く野望の本質を見抜き、それに効果的に対処することだ」という指摘も、また正しい。 彼の主張は挑発的で、多くの人を当惑させる。だが、だからといって“間違い”と決め付ける訳にはいかない。 (本誌アメリカ版アジアエディター ビル・パウエル) =おわり

               ◇

中国主導のAIIB構想に警戒感を示し続けてきた日米に対して、ヨーロッパ諸国は雪崩を打って参加を表明。AIIBに限らず、中国の意図については極端な脅威論もあれば、一党独裁の本質を軽視したナイーブな論調もあります。今回の特集では様々な見方を取り上げ、米中の力関係を考えました。自らの台頭を「平和的」と繰り返し、「警戒する必要は無い」と主張する中国。国際的信頼を得るには、口先だけでなく、それに伴う行動を示す必要があります。 (本誌編集長 横田孝)


キャプチャ  2015年4月14日号掲載


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