【トマ・ピケティの罠】(06) 格差拡大は証明されていない――『フィナンシャルタイムズ』に対するピケティの反論は不十分だ

『フィナンシャルタイムズ』(FT)に昨年5月、「“21世紀の資本”に関するデータ問題」を掲載して以降も、ピケティ氏の主張に対する我々の考えは変わっていません。我々は、彼が著書で引用している数値が屡々曲解されている点を指摘しました。原資料を調べ直せば、実際には同書のような数値にはなりません。我々が記事で示した数値が正確なものです。また、ピケティ氏が引用した数値も、彼の主張ほど明確には格差の拡大を裏付けてはいません。特にイギリスに関するものがそうで、ヨーロッパ・フランスやスウェーデンも同様です。我々が一番問題にしているのは、資産格差に関するピケティ氏の主張です。統計資料は、資産格差が拡大していること等示してはいません。彼は所得格差についても著書で多数言及していますが、確かにこの点について統計資料との齟齬はありません。問題は資産格差についてで、他の学者たちも資産の蓄積度合いに関しては我々の主張と同様な結論に達しています。

我々が彼の主張に異論を挟んだ際、次のような反応がありました。「使用した数値は正しくなかったかもしれないが、ピケティ氏の理論は正しい」。これには同意できません。正確な数値を用いれば、結果は劇的に変わるからです。 ピケティ氏は昨年5月に一度、FTに反論を寄稿しました。我々と議論をしたのはこの時だけです。彼がこの寄稿で「既に全て反論済みだ」と言いたいのだとしても、我々の指摘に対する反証はなされていません。我々は、ピケティ氏とのもっと徹底的な議論を望んでいます。我々は、「格差は問題ではない。心配には当たらない」と主張したかったのではありません。伝えたかったのは、「彼の著書を読む際には、正確な数値を使うと著書にある(資産格差が拡大していることを示す)グラフにはならないと知っておくべきだ」ということです。 (聞き手/読売新聞欧州総局長 佐藤昌宏)




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■FTの指摘とピケティ氏の反論
《FTの主な指摘》
●ピケティ氏の著作中の数値は信用できない。引用データに、原資料からの転記ミス・改竄の可能性すらあるような原資料と異なる値・理論に都合のよいデータのつまみ食いが多数見られる。
●ピケティ氏は、「イギリスでは富裕層の上位10%が富の71%を保有する」と主張するが、イギリス国立統計局(ONS)の統計では44%に留まる。
●イギリス・フランス・スウェーデンのデータを使ってヨーロッパ平均の資産格差を示そうとした統計は、人口比を考慮しないで単純平均した為、人口の少ないスウェーデンの数値が、英仏に比べて7倍の重みを持ってしまった。
(FT『“21世紀の資本”に関するデータ問題』・2014年5月23日付より)

《ピケティ氏の主な反論》
●私は詳細なデータをオンラインで提供することで、オープンで透明性のある議論を促したかった。FTの修正提案(私は同意できないが)は殆どが小さなことで、長期的な傾向や全体的な分析には影響しない。
●ONSの統計は自己申告に基づく『富と資産調査』によるが、回答率は64%に留まり、富の格差を十分に推計できたとは言い難い。自己申告データは税務データより、トップの富のシェアを過小評価する傾向がある。
●ヨーロッパ平均については、人口(またはGDP)加重平均のほうが優れているのは認めるが、イギリス・フランス・スウェーデンの3ヵ国は長期的に似通った傾向を示しており、単純平均しても加重平均しても大きな違いは無い。
(トマ・ピケティ『FTへの回答』・2014年5月28日付より http://piketty.pse.ens.fr/capital21c/


キャプチャ  2015年4月号掲載


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