賠償金はこうして支払われない――少年犯罪によって我が子を失った親は、その後再び心に傷を負う

ある者は“自己破産”を理由に賠償金の支払いを逃れ、ある者は行方を晦ませ深く傷ついた遺族の気持ちを踏み躙る――。許し難い行為だが、今の日本では凶悪な少年犯罪の加害者が“逃げ得”となる状況が、当たり前のように罷り通っている。憤る遺族の気持ちを救済する手段はあるのか? (監修/ジャーナリスト 須賀康)

「賠償金なんて意味が無い。仮令裁判所が認めても、払わずに逃げる加害者は多い。その為、被害者の遺族は更に二重三重の苦しみを受けているのです」。そう厳しい口調で慣るのは、1992年に我が子を集団リンチ事件で亡くした田本義光さんだ。「損害賠償を請求した7人中4人が分割などで支払いましたが、残りの3人は行方不明です。弁護士を通してしかやり取りはできないから、どこにいるのかもわかりません。加害者の親からも連絡は無い。人を殺しておいて月に5万円ずつ払って済むなんて、本当に馬鹿げています」(田本さん)。当時14歳だった田本任さんを殺めたのは、同級生を含む9人の不良グループ。任さんが不良グループによる恐喝を止めようとしたことに腹を立てての凶行だった。数時間にも及ぶ暴行を加えられた任さんは、翌日に意識不明のまま打撲による脳内出血で亡くなった。「少年院に入った加害者は、全員短期間で出てきました。退院後は、何事も無かったように風を切って歩いています。加害者が心から反省して更生することなんて絶対に無い」(田本さん)

多くの少年殺人事件の加害者を取材してきたジャーナリストの須賀康氏は、驚くような“その後”を見てきた。「加害者が少年の事件は、退院後に被害者家族の近所にある実家に戻っているケースが少なくない。すると遺族は、加害者が普通に日常を過ごす姿に出くわしてしまうのです。出所後に結婚し、子供を儲けた加害者少年に話を聞いた際には、『妻子には過去のことは話していない』と言っていました。中には心から反省しているケースもありますが、加害者の親が取材に対し『自分たちも被害者なのだ』と主張するケースがとても多いのです」。殺人罪を犯した少年は、刑期満了を待たずに早ければ3年ほどで少年院を後にする。再犯率の高さを見ても、少年院が更生の場として機能しているとは言い難い。実際に少年院で出会い、退院後に振り込め詐欺や恐喝事件を起こすケースも多い。1997年に、少年たちによる集団暴行事件で最愛の息子・聡至さんを亡くした高松由美子さんはこう話す。「聡至が殺された事件では、加害者10人中3人が再犯しています。その内の1人が起こしたのは恐喝事件だったのですが、事もあろうに『高松さんに賠償金を支払う為に恐喝をした』と言ったんです。勿論それは口実で、本当は遊ぶ金が欲しかっただけ。抑々その時、彼からは1銭も賠償金を貰っていませんでした」。贖罪の気持ちを表すどころか、賠償金を犯罪の動機に摩り替える愚かさには、開いた口が塞がらない。




下の表を見てほしい。裁判で損害賠償を勝ち取っても、加害者側に支払い能力が無ければ“逃げ得”になってしまうケースが何と多いことか。抑々、損害賠償の金額は支払い能力とは関係無く算出されるものだ。被害内容に応じ、被害者が若くして殺されたなら、その人が将来稼いでいたであろう年収や可能性が加味される。その為、被害者が若いほど高額になるケースが多いが、その金額を回収できるかどうかは別の話である。加害者が自己破産してしまったら、もう回収の見込みは無い。連絡が途絶えたり、行方不明になった場合も同様だ。賠償金を支払わずに逃げる加害者に被害者家族が憤るのは、何もお金が欲しい為ではない。“賠償金を支払う”という行為を通して、加害者からの謝罪の証しが欲しいのだ。それは、少年らの見た目だけの謝罪に辟易した遺族の心を癒やす最後の砦でもある。「少年院から退院して、直ぐに加害者少年たちと会いました。ぼうっとしてる子、自分が何でここにいるのかわからないような子たちの中に、泣いている子、『申し訳ない申し訳ない』と連呼する子等もいましたが、それも見た目だけの謝罪です。本心からの謝罪とはとても思えませんでした。遺影を見ても、『(事件現場は)暗かったから相手の顔も覚えていない』と言う子もいた。彼らは何を思ってここに来たのでしょうか。ただ親に連れて来られただけにしか見えませんでした」(高松さん)。高松さんが最初に少年院から退院した加害者に会ったのは、1999年のこと。それから16年の月日が経った。現在は、10人の加害者少年のうち1円も賠償金を支払っていない加害者はいないという。全額賠償にはほど遠いが、高松さんは毎年加害者と面会し対話することで、「少しずつ(加害者の)顔つきが変わってきた」と感じている。加害者の中に謝罪の気持ちが芽生え、“償い”としての賠償金が支払われることを願って已まない。

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賠償金請求にかかる裁判費用も、被害者遺族に重く伸し掛かる。裁判に必要な印紙代も馬鹿にならず、「賠償金額7000万円なら、大体24~25万円の印紙が必要となる」と中川勘太弁護士は言う。中川弁護士は、2000年に淡路島で山崎晃さん(当時17歳)が殺害された事件で民事訴訟の弁護を担当。弁護士費用は10年以上受け取っていないが、「規定通りなら着手金だけで100万円。その後、相談料や督促状を出す度に数万円かかります」(中川弁護士)。前出の田本さんは、裁判費用の為に約1300万円を捻出した。田本さんは沖縄県の石垣島在住。裁判の度に那覇市内の裁判所まで出向き、その度にヘトへトになって帰宅した。裁判にかかる労力は甚大で、精神的負担も大きい。訴訟を起こしたい母親と、「仕事に支障が出る」と尻込みする父親との間に亀裂が入り、離婚に至ってしまった例もある。しかし、前出の高松さんは「それでも裁判はするべき」と訴える。「未払いが続くせいで諦めてしまい、そのまま損害賠償請求権時効の10年を迎える遺族も多いのですが、時効はチャンスでもあります。再び裁判を開き、改めて加害者に事件を問い直すことができますから」(高松さん)

加害者の“逃げ得”を防ぐには、より強制力のある制度が必要だ。その1つが、国による『代執行制度』。被害者遺族が弁護士を通して賠償金を請求するのではなく、国が加害者の代わりに賠償を行い、その金を加害者に求償するというものだ。国が差し押さ えることによって、これまで民法上は不可能だった加害者本人以外(配偶者や親名義)の資産からの徴収も可能になる。実現に向けて法務省に陳述書を提出し続ける、被害者の会『宙の会』の土田猛氏は言う。「平成17年度の犯罪被害者等基本計画には、『現在の損害賠償制度が犯罪被害者等の為に十分機能しているとは言い難い』『犯罪被害者等に対する経済的支援制度のあるべき姿や財源と併せて検討する』とあり、平成22年度には当時の法務大臣から代執行制度に対する前向きな返答を貰っています」。国に先駆けて動いている自治体もある。兵庫県明石市では、昨年4月から市が賠償金の一部を立て替える新制度をスタートさせた。市が被害者に上限300万円の立替支援金を渡し、同額分の損害賠償請求権を譲り受けて加害者から賠償金を回収する仕組みである。「来年、芦屋市でも同様の制度が始まります。兵庫県内の他の市町村でも『作りたい』との声が上がっていて、明石市を参考に勉強会を開催しているところなんです」(前出・高松さん)。全国にこの流れが波及すれば、被害者遺族の負担が軽減されることは間違い無い。また、国や市町村からの強制的な求償が可能になれば、犯行を未然に防ぐ抑止力にもなる。「我々の一番の願いは、これ以上殺人事件が起きないこと、被害者遺族が増えないことです。その為にも、犯行を思い留まらせるだけの力のある制度が必要なのです」(前出・土田氏)。先日の川崎・中1殺害事件を受け、少年法改正を求める声は大きい。確かに、少年法の改正は1つの犯罪抑止力になるだろう。しかし、それだけでは被害者遺族の支援を賄うことはできない。犯罪抑止と遺族支援の両側面を併せ持つ賠償金の新制度確立に、今こそ目を向けるべきなのである。


キャプチャ  2015年5月5日増刊号掲載


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