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100m先の500円玉に全弾命中は“常識”――あなたがもし狙撃手(スナイパー)に転職したら

映画や小説に出てくる『狙撃手』。もしも、現実に彼らのような刺激的な仕事に転職したら、どんな日常が待っているのか? 必要な能力は? 年収や昇進は? 命の危険はないのだろうか? 謎に包まれた職業『狙撃手』の実像に迫った!

■狙撃手になる方法
ドラマではスーツ姿の男がギターケースに忍ばせたライフルで、ビルの屋上からズドン、なのだが…。それは実際の狙撃手とはかけ離れた姿だという。実戦経験を持ち、対テロ部隊の指導経験がある毛利元貞氏に聞いた。「狙撃手の起源はあいまいですが、組織化という意味では、第2次世界大戦でしょう。通信手や指揮官を撃って、狙撃手がいることを匂わせて、士気を弱らせるのが目的でした。もともと狙撃手の役割は、遠距離からの射撃よりも、それにともなう敵状の監視が大部分を占めていた」。しかし現在は装備も近代化され、狙撃銃も大型化し、対物・レーダー・車両・スカッドミサイルの発射装置まで壊す事例が出てきているという。「装備の性能が上がったため、狙撃以外の役割も増えたんです。監視・重要器材の破壊・威嚇・航空支援誘導・人質救出など。軍隊では新たに“スカウトスナイパー”と呼ばれる、隠密行動での敵状視察や情報収集に特化した兵士も誕生しました。ひと口に狙撃手といっても、警察や自衛隊とは目的やミッションが異なるため、スキルや存在意義は異なります」






「民間の軍事会社は軍の外請けなので、半年から1年の派遣社員的な募集がある。湾岸戦争のころは、狙撃手で1日200~300ドルから始まる募集があった。実績があれば、ギャラは上乗せでしたね。現在もイラク・アフガンなどの紛争地域での治安維持や市街地の対テロ作戦では、その一部を担っています。正式な軍隊で狙撃手になるには、部隊により条件は異なるものの、通常数ヵ月間のトレーニングに参加することになる。基礎は射撃なので、銃の手入れから、弾薬の種類の学習・無線技術や敵地潜入技術・斥候術・敵地逃避術(サバイバル)など、射撃以外にも学ぶことが多い。訓練では、データ収集のためにずっと撃っている。天候から風向き・温度・湿度・時間帯・作戦内容に合わせ、急襲であるとか、建物内のシチュエーションであるとか、さまざまな場所で訓練を積む。実際の起こりうる状況に備えて、いかに本番に備え、ふだんから緻密な狙撃データを蓄積するか。狙撃は、撃っては記録をつけの繰り返しです。それがいちばんのトレーニング」

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■狙撃の道具&ポーズ
狙撃は行きつけば職人芸の世界だという。あらゆる状況で撃ちまくってきた自分の勘のみが最後は頼りだ。愛銃にクセを記した紙(レシピ)を張りつけている者さえいる。命中率にもっとも影響する引き金の重さは約1kg、ブレないように引き絞る。風や天候を読むのは常識で、最後に明暗を分けるのは集中力と根気。そのため訓練では呼吸法や自律訓練法など、いかにストレスを支配し、心拍数を下げた状態でいられるかのトレーニングもおこなう。

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■実在した名狙撃手
ベトナム戦争で活躍した米の狙撃兵のなかでも、もっとも著名な狙撃の名手がカルロス・ハスコックだ。北ベトナムの将軍を狙撃する任務の際、厳重な警戒下にあるジャングルを、3日間ひたすら匍匐前進しながら1km以上を移動し、約600mの距離まで敵の司令部に接近し、将軍を狙撃。任務を果たした。ハスコックは3日間、水筒の水のみを口にし、糞尿はすべてズボンのなかに垂れ流した。匍匐前進の繰り返しと虫刺されで全身水ぶくれになっていたという。北ベトナム軍の“コブラ”と呼ばれていた狙撃手との戦闘も有名。ある任務でハスコックは将校(ハスコックをおびき寄せる囮だった)を700mの距離から仕留めた帰途に、敵スナイパーに捕捉されていることに気づく。450m先の茂みの中で光る、敵のスコープのレンズの反射光に向けて発射したハスコックの銃弾は、そのレンズを貫通しコブラの眼球に命中していた。コブラの死体を確認したハスコックは、「レンズに目を当てていたということは彼も私を捉えていた。私が先に撃ったのは幸運だった」と述べたという。

■日本最高の狙撃手はSATの『S班』にいる
警察組織にも狙撃手は存在する。元SAT(特殊急襲部隊)で、現在は危機管理アドバイザー・作家の伊藤鋼一氏に話を聞いた。「警察組織における狙撃手の誕生は1970年前後。大阪府警を中心に銃器対策部隊が組織され、そのなかで現在のライフル部隊の原型が出来た。後年ハイジャック事件やテロなどの凶悪犯罪が増加し、SATが組織され、そのなかに遠距離からの狙撃支援をおこなう専属のチーム、通称“S班”が編成された」という。「SAT及びS班は志願ではなく、全機動隊員のなかから成績優秀者を絞り選考します。警察学校時代の成績や、所轄での術科特別訓練(通称:特練)出場者などから、運動能力が優れた人物が選考の対象となる。本人の意思を確認し、希望すればまず10日間の試験入隊があります。10日間は意図的に肉体的・精神的に理不尽な命令をして追い込む。一昼夜寝かせない、狭いところに閉じ込めるなどの過程で、徐々に性格が浮かび上がってくる。次は新人だけで1ヵ月の訓練に入り、終了後、訓練担当者から入隊許可が出れば、晴れてSATの隊員になります。本人の希望を事前に聞いているので、脱落者はほぼ出ない」。警視庁に10個隊ある機動隊員4000人のなかから毎年5名ほどしか選ばれず、狭き門だという。「S班には1ヵ月の試験入隊中に、銃器のセンスのよい者が、空き枠があれば入れます」

S班のふだんのトレーニングと、1日のスケジュールは? 「まず機動隊員としての勤務などはやらない。大統領クラスの要人が来日した際や、凶悪なハイジャック・対テロ訓練など、特別な危機に備えたトレーニングをこなす。ある1日の訓練スケジュールを例に出すと、早朝に隊を出発。関東近郊の300mほどの射撃場がある自衛隊の施設で射撃訓練をします。そのひとつに“ゼロ点監査”があります。3発ずつ撃って、どこに集弾しているか、自分の射撃のクセや、目標の黒点から何mmずれているかなどを調べます。それを繰り返し、メモをつけ、調整しつづけます。各自が狙撃銃だけで5~6挺の種類を持っている。夜間用・昼間用・ボルトアクション式・自動式など。これらは自分専用で、クセに合わせてスコープや、トリガーの重さを調整する。頬付けの部分の革などは自作していますね」。ほかにも急襲班と合同訓練の場合はレンジャー・ヘリコプター・空手・合気道・柔剣道など、射撃以外もおこなうという。

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■凶悪事件発生、そのときS班は…
「出動命令は警備1課からきますが、通常の人質事件の場合は捜査1課特殊犯捜査班“SIT”が担当。場合により機動隊銃器対策部隊が出動します」。じつはS班は大きな警備事案や凶悪事件以外、ほとんど出ない。ただし訓練の練度が違い、腕でいうといちばんいいのはSAT。銃器は複数持っていて、夜間も対応できる。「凶悪テロ事件が起こった場合、被害が及ぶ可能性のあるすべての場所に、2人1組で配置します。狙撃手と観測役でペアとなり、1人は銃を構えながらも監視。もう1人は高倍率の双眼鏡で遠距離から偵察をおこない、役目を交代しながらこれを繰り返します。ハイジャックなど立てこもりの場合、“人着”といいますが、顔・体格・装備・心理状態など、あらゆる情報を指揮班に伝え、突入を支援するのも重要な仕事。コンクリートマイクやファイバースコープといった光学機械を使って偵察する専門チームとも協力します。その間、突入班は成功率を上げるため、状況に合わせた模擬を作って訓練している。このような事件の場合、24時間から48時間など、おおむねの解決時間を想定しているんです。局面が動き、指揮班の指令で突入のGOサインが出た際、突入班になんらかの危険が及ぶようであれば、狙撃班は撃たなければならない。たとえばハイジャック犯に対し、突入班が航空機のドアを開ける瞬間に、適所に威嚇弾を撃つとか、武器を所持していれば腕を撃つとか、指揮班と相談して突入班のサポートをする。射撃を外した場合のことなど考えません。自分が外したら、仲間が撃たれる。手榴弾を投げられるかもしれない。故に、外すことは許されない。一発必中です」(同氏)

■日本最大の狙撃事件
1970年に広島港で旅客船『ぷりんす号』が、銃で武装した青年の犯人に乗っ取られるという事件が発生。犯人の銃撃により多数の怪我人が出たため、警察が射撃を許可。急所は外して狙撃したはずが、弾丸は犯人の胸に当たり、死亡した。人質は狙撃によって解放されたものの、警察は殺人罪で告訴された(のちに不起訴処分)。この事件を機に、その後の人質事件において、日本の警察が狙撃に対して慎重になっている原因として見られることがある。

■気になる給与と手当は
危険極まりない任務に就くSAT。一般の警察官とどれくらい給料が違うのだろうか?(巡査長平均32.7歳の平均給与額・約28万円) 「給料は変わりません、むしろ少し落ちるくらい。交番勤務や機動隊員は休日出勤や宿直の手当てがつくが、SATはそれらがふだんの職務の中に含まれているとみなされ、つかない。手当はヘリに乗ったとき、危険手当で数百円つくくらい。あとは大統領の警護任務などで泊まり込みの場合や、海外で訓練すれば、若干つく程度」(同氏)

■出世できるのか?
「昇進に関しても、便宜はありません。しかしSATを退任すると、総監賞1級という、普通の人はなかなかもらえない賞状が授与されます。成績優秀者が多いので、自分で努力して出世して、だいたい20代で巡査部長になります。SATは年齢規定はありませんが、一部の上層幹部を除き、ほとんどの隊員は5年前後で昇進して異動。その後再度SATに戻ったり、刑事部・公安部・組織犯罪対策部やSPなど、多様な部署に異動していきます。機動隊隊長や、署長も大勢います」(同氏)

■退職したらどうなる?
狙撃手をやめた場合、どのような職業に就けるのだろうか? 「私の場合、警察官を目指す若者を対象に受験塾を経営しています。以前はナイキジャパンや大手外資系企業のセキュリティコンサルタントをしていました。仕事内容は、反社会的団体からのアプローチがあったときの対策や、ヘビーなクレーマー対策。ナイキは中国製の偽物が多かったので、どういうところで作っているかの追跡など。映画やテレビドラマの警察監修にも携わっています」(同氏)


キャプチャ  2014年10月25日増刊号掲載
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