【日曜に想う】 酒席学・爆弾・AA・草食科

韓国での酒席には覚悟がいる。乾杯前から独特の気合が漲り、時に一気飲みを迫られる。2次会・3次会は当たり前である。ビールジョッキに洋酒や焼酎のグラスを落として飲む『爆弾酒』は日本でも有名だ。ガツンとおでこを卓に打ちつけては爆弾酒を飲む『忠誠酒』。焼酎グラスがジョッキの底に沈む前に飲み切る『タイタニック酒』。当夜は盛り上がり、翌朝は後悔の海に沈む。そんな韓国で今、望ましい“飲み方”“支払い方”が議論されている。高額接待を取り締まる新法が今春、成立したからだ。来年秋以降、100万ウォン(約11万円)を超える供応や金品を受けた者は刑事罰を科されることになった。議員や公務員・教職員から記者まで処罰対象が驚くほど広い。検事出身の国会議員・金勇男氏(45)によると、新法を支持する国民が多いのは、1つには“ベンツ女性検事”事件のせいだという。30代の女性検事が愛人男性から車やマンション家賃・シャネルのバッグ等を贈られた。女性検事は、この男性が告訴した事件で捜査が進むよう同僚に請託したとして起訴された。公判では「ベンツやシャネルは賄賂ではない」と主張。「他の女性たちとは金輪際付き合わない」と誓う彼からの“愛の印”だったと訴え、逆転無罪を勝ち取った。世論は収まらない。「もっと強力な取締法を」と求める声が上がった。

ソウルの街中で観察すると、酒客たちの飲み方はなるほど日本の私たちより相当熱い。グラスを持った腕と腕を交差させ、2人同時に飲み干す。聞いて驚いたのは、韓国では政権が代わると、政官界の公費飲食の規律が大幅に緩んだり締まったりすることだ。近年最も緩かった政権として衆目の一致するのは、李明博前大統領の時代。氏の卒業した高麗大も、経営者として率いた現代建設も、飲み会の激しさでは定評のあるところだという。さて、今回のソウル滞在中に『京南企業』という建設・開発会社の疑惑を頻りに聞いた。横領容疑で当局の取り調べを受けていた前会長が、政界工作の一端を自ら新聞記者に明かして命を絶った。有力議員や著名な市長等8人の名を記したメモが残されていた。そのうち、「栄養ドリンクの箱に3000万ウォン(約330万円)を詰めて渡した」と名指しされた李完九首相が、先月末に辞任に追い込まれた。「次は誰か?」「政界中枢に及ぶのか?」。国会周辺はその話で持ちきりだった。




お隣の中国でも、習近平指導部による腐敗の摘発が続いている。党や軍・国営企業の実力者が次々に失脚する。接待や会食で潤ってきた高級料理店は頭を抱える。数年前まで、高級店の前にはナンバープレートを布や新聞紙で隠した公用車が並んでいた。身元を探られたくない高官たちだった。今は全く見かけない。元来、中国の人々は気前よく奢ったり、奢られたりするのが好きだ。景気よく払わせてもらえないとメンツが保てない。それでも、最近は『AA制』と呼ぶ支払い方が増えてきた。ワリカンのことだ。腐敗摘発の前から若手や女性の間では好評だったが、最近は中高年も不承不承やっている。北京や上海辺りでは『AB制』もよく見かける。上司が多く払い、若手は少なめに…という傾斜分担を指す。振り返って、日本はどうか。成長期には“社用族”が会社持ちでバーに通った。バブル期は分不相応な供宴に皆が狂った。デフレの20年を経て、今や酒席は堅実かつ地味である。飲み会には草食科自腹属ワリカン種が集う。各国で様変わりしつつある飲食文化だが、韓国のあの旺盛な飲みっぷりは変わりそうにない。今年は疑獄が政界を揺さぶり、来年には綱紀粛正の新法が施行されたとしても同じ筈。10年後・20年後も、仕事帰りの会社員たちが爆弾酒や忠誠酒・タイタニック酒をガンガンやっていそうな気がする。 (特別編集委員 山中季広)


≡朝日新聞 2015年5月3日付掲載≡


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