【中外時評】 アジアの中でどう生きる――国開き、耳傾ける努力を

一言で言えば「残念」ということになろうか。日本が中国主導の『アジアインフラ投資銀行』(AIIB)に創設メンバーとして加わらないことについて、東南アジアの識者らに感想を聞いた結果だ。

インドネシアのハッサン元外相は「我が国のインフラ需要は増しているが、財源には限りがある」と、AIIBへの期待を表明。その上で、「日本は既存の国際金融秩序の恩恵を受けている。AIIBの意思決定の在り方を懸念するのもわかる。だが、中に入って改善策を議論する道もある筈だ」と指摘する。シンガポール『ストレーツタイムズ』紙のW・フェルナンデス編集長も、「中国の為の組織にしないように、日米豪などが早い段階から影響力を行使すべきだ」と語る。「世界が動いているのに、日本の外交は古いまま。アメリカに追随したということだろう」(シンガポール国立大学公共政策大学院のK・マブバニ院長)と辛辣な声もあった。「公正な融資の決定や環境への影響等、アジアの利益を考えた上での判断か?」「いや、そうではなく中国の台頭阻止や日米関係強化が先に立った判断なのではないか?」。識者の声からはそんな疑念も覗く。円借款によるインフラ建設や人材育成等の支援を進めてきた日本への信頼が、AIIB不参加に因って損なわれることはなかろう。海洋権益拡大に動く中国への警戒感が増しているのも事実。対抗勢力としての日米の存在は地域にとって重要だ。だが、そうした状況に安住していいのか? 日本はアジアの中で前向きな役割を果たしていくという強い意思を、ここで改めて示す必要があるように思える。その為にはアジアの声に耳を澄まし、現実やニーズをもっと理解しなければならない。




「東南アジア諸国連合(ASEAN)は経済の発展や統合で自信を深めている。上から目線は通用しない」。ASEANの統合過程等に詳しい大庭三枝東京理科大教授は語る。2000年に日本の13%しかなかったASEANの経済規模は、2019年には3分の2に達すると国際通貨基金(IMF)は予測する。地場企業が伸び、米中欧等世界から企業が集まり競う熱気溢れる場になっている。その中でどの大国にも靡かず、バランスよく付き合って果実を得る強かさを身につけてきた。「日本は相手国の1つにすぎず、経済協力をしてきたから言うことを聞いてくれる筈だ」という気持ちが少しでも出れば、反発を招くという。国際交流基金東南アジア総局長の小川忠氏は、「1974年のジャカルタ反日暴動を経て、心と心の触れ合いを謳った福田ドクトリンに沿って日本が動いたことで、東南アジアで親日感情が育まれた。これに胡坐をかかず、相互理解の種を蒔き続けないといけない」と強調する。気になるのは、インドネシアで増えている労働争議で“ロウムシャ”という言葉が時に飛び出すことという。日本占領期に強制徴用された人々を指す。新しく進出してくる日本企業は歴史にも目を配るべきだと説く。日本に求められるのは何か? インフラ支援や企業の投資は今後も重要だが、それだけではない。インドネシアの経済誌『グローブアジア』のS・カグダ編集長は、「日本と東南アジアは双方向の関係強化が必要。日本はもっと農産品などのモノを買ったり、看護師等の人材を受け入れたりしてほしい」と言う。

「高齢化が進む日本と若者が多い東南アジアでは人材を補完し合える」(ハッサン元外相)のは確かだろう。日本への留学生も増やしたい。東南アジアからの留学先としては、日本よりアメリカや中国の方が圧倒的に多い。アジアの対日投資も促すべきだ。シンガポール企業の出資を受けた車両輸送会社『ゼロ』の北村竹朗社長は、「アジア市場での展開がし易くなった」と語る。強いアジア企業の投資は日本経済の活性化にも繋がる。日本の期待も適切に伝える必要がある。例えば、事業の妨げになる不透明な規制・慣行の撤廃や知的財産権保護等だ。インフラ投資の優先順位や資源輸出では、双方の利害が食い違うこともある。要求を鵜呑みにする必要は無いが、長期的視野に立って対応すべき局面もあろう。成長するアジアの活力を取り込むことは、日本経済を強くする前提条件だ。それには懐に深く入り込み、物心両面で結び付きを強めなければならない。 (論説副委員長 実哲也)


≡日本経済新聞 2015年5月3日付掲載≡


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テーマ : 経済
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