【中外時評】 選ばれる農協へ魅力競え――農家・農業支援の原点に

農業協同組合(農協)制度を抜本的に変える農協法改正案が通常国会に提出された。なぜ、農協改革が農家の所得拡大に結びつくのか、反対派からは疑問の声も根強い。農協改革の狙いは、地域の単位農協や農家が横並び意識を抜け出し、どうすれば“儲かる農業”に変えられるかを自ら考える意識改革にある。1947年に創設された日本の農協制度は、世界でも稀な特色を持つ。農協は本来、組合員となる農家が自主的に設立する草の根型の組織の筈だ。しかし、日本の農協は上部組織が地域の農協を統制し、地域農協は農家を指導する。日本の農協はコメ等の生産・流通を統制する食糧管理法(1995年廃止)を担った戦時団体『農業会』を衣替えした。全国農協中央会(JA全中)を頂点にしたトップダウン型の組織構造はその為だ。この構造は食糧不足の時代に対応したもので、農産物を内外の市場に売り込む競争の時代に適していない。時代遅れなのはわかっていながら、改革は権益を維持しようとする農協組織と農業に関係の深い政治家の“岩盤”に阻まれてきた。

政府・与党は昨年6月に漸く、「地域農協を監査する全中の役割を見直す時期にある」と結論づけた。全中の発足時に1万を超えていた地域農協が700ほどに再編されたこと等が理由だ。全中の権限を無くす目的は、農家や地域農協の創意工夫を妨げず、経営感覚を引き出す環境に変えることだ。いきなり「自分たちで考え、努力しろ」と放り出された地域農協は戸惑うかもしれない。だが、経営改革で目標とすべき農協は幾つもある。千葉県の『富里市農協』は主力のニンジンやスイカでスーパー等への直接販売を増やし、個々の農家への支払代金を収穫時に決める“買い取り方式”を強化している。通常、農協を通じた共同販売は全ての農家の農産物を平等に扱い、販売代金を平均値で決済する“共同計算方式”が原則だ。ただ、この手法では農家が工夫を凝らし農産物の付加価値を高めても、収入への見返りが期待し難い。富里市農協は、「直販・買い取りを増やせば市況に揺さぶられにくく、其々の農家が経営計画を立て易い」(営農部長の高山勇治郎氏)と考える。




農協法改正案は、具体的な数値目標を決めて買い取り方式の拡大を促すことを見送った。「農協や(上部組織の)連合会は、農業所得の増大に最大限の配慮をしなければならない」との表現に留め、具体策は地域農協に委ねる。決めるのは農協だ。経営改革に取り組む農協は、千葉や愛知等の大都市に近い地域に目立つ。農家自身が小売りへの直販等様々な販売経路を持ち、魅力の無い農協は切り捨てられる環境にあるからだ。「農協法改正案は、農協が農家に対し販売事業などの利用を強制してはならない」と明記した。統制を乱す“異端児”として上部組織から睨まれてきた『越前たけふ農協』(福井県越前市)は、毎年秋に翌年作るコメの代金を農家に示す。価格は品質や栽培方法で差をつける。上部組織に頼らず、全量を外食チェーン等へ直接販売するからこその強みだ。「農協を離れていたプロの専業農家が再び利用してくれるようになった」(冨田隆組合長)。強い農家は魅力の無い農協を離れ、残る兼業農家は高齢化が進む。農協の経営は経済(農業)事業で成り立たなくなり、非農家を准組合員として取り込む信用(銀行)・共済(保険)事業の強化で組織を維持してきた。全中が“地域社会への貢献”を強調するのは、本業から離れた実態を是認させる為だ。農協改革は、農家と農業を支援する農協の原点回帰を求める。衣替えする全中が担う“総合調整機能”は、地域の農協が取り組む優れた工夫を全国に広げることに活かすべきだ。宮城大学の大泉一貫名誉教授は日本の農業の弱点として、消費者や企業がどんな食品・農産物を求めているのか川下との情報共有を欠き、オランダ等の成熟先進国型農業の特徴である『フードチェーン』(農業と他産業との強い連携)が出来ていないことを挙げる。フードチェーンの構築に向けて、農家や企業に選ばれる農協に変われるか? 少なくとも、農家の所得拡大に貢献できない農協はいらない。それが農協改革だ。 (論説委員 志田富雄)


≡日本経済新聞 2015年5月10日付掲載≡


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