【桜林美佐が見た尖閣防衛の大盲点】(前編) 哨戒機『P-3C』に乗ってわかった大矛盾…自衛隊機よりポケモン飛行機が優先されるなんて!

不穏な日中関係を象徴する尖閣諸島は、今どうなっているのか。中国当局の船による領海侵入は、今年に入ってすでに24回め。今月3日には、日中の防空識別圏が重なる空域を、中国軍の情報収集機が初めて飛行している。緊迫の度合いを増す東シナ海。沖縄にある海上自衛隊第5航空群では、警戒のため昼夜分かたずP-3Cによる哨戒活動がおこなわれている。その現場を防衛ジャーナリスト・桜林美佐がルポする。

観光客はあまり気づかないかもしれないが、沖縄を訪れると飛行機の離発着が遅れることが珍しくない。これは、那覇空港の滑走路が1本しかなく、頻繁に飛行機が発着するためだ。仕事でしか行ったことのない私はなんのための時刻表なのかといつもイライラしてしまうが、タクシーウェイ(誘導路)に何機もの飛行機が並んでいるのを見れば、これは致し方ないとあきらめざるをえない。「30~40分、飛べないこともありますよ」。これは旅客機パイロットのセリフではない。自衛隊機もJALやANAなどの民間機と同じように離陸待ちの列に並ばなくてはならないのだ。

もちろん、中国機が日本に迫り、空自がスクランブルをかけるときは、その飛行が最優先される。だが、それ以外は民間機と同じ扱いなのだ。むしろ、民間機のほうがダイヤが逼迫していることもあり、優先される場合が多い。たとえば着陸のときに空港渋滞が起きていれば、自衛隊機は上空で管制からの支持を待つことになり、許可が出るまで上空をぐるぐる旋回することになる。分刻み・秒刻みで動いている自衛隊にとって、この状況は手痛い。暇でのんびりした地方ならともかく、ここは尖閣諸島を抱える沖縄県の那覇空港である。東シナ海における警戒監視の最前線だ。そんな那覇空港から、毎日休むことなく飛び立っている海上自衛隊のP-3C哨戒機に同乗した。南西方面のP-3Cによる警戒・監視活動は、近年、ますます活発になっている。それは、とりもなおさず中国による活動が頻繁であることを意味する。






飛行隊長の岩政秀委2等海佐が言う。「P-3Cは、もともとアメリカ海軍が民間の機体を軍用転換して開発したものです。日本で配備が始まったのは1970年代から。現在、この那覇基地には15機、全国では80機ほど配備されています」。乗組員は、操縦士・副操縦士・機上整備員・潜水艦の音を探知するレーダーマンが2名・磁気探知や音探知などすべての情報を統合し指揮を執る戦術航空士・機械の不備に対応するための電子整備員・通信員など合計11名。それぞれ高い専門技能を持っている。フライト時間となり、機内に11名の搭乗員が整列した。天候や飛行要領などをあらためて確認し、配置に着く。機体に案内されてまず驚いたのが、計器だらけのコックピットだ。操縦士がそのひとつひとつにスイッチを入れていくのだが、作業に5分はかかっただろうか。電子制御化の進む昨今には、非常に珍しいアナログな機体である。このP-3Cは、MADブーム(磁気探知装置)や、ソノブイ(空中投下型ソナー)・各種レーダーを装備し、潜水艦や不審船などの警戒監視活動にあたる。自衛隊内はもちろん、海上保安庁とも情報は共有する。

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いよいよ離陸だと緊張するも、案の定なかなか飛び立つ気配がない。コックピットから前方を見ると、民間機が5~6機ほどずらりと並んでいる。時期によっては、ポケモン飛行機の後ろにF-15戦闘機が並ぶこともあるというからおそろしい。「2分に1回のペースで離陸・着陸がおこなわれるようなビジーな空港なので、予定が狂うのはつきものです…。とくに、お昼どきはいちばん込むんですよね…」。飛行隊長は慣れた様子だが、ランチタイムの食堂ではあるまいし、という皮肉もこめられているのだろう。近年、那覇空港では国際線(中国や台湾・韓国など)を含む民間機が増えつづけ、さすがにこのままでは立ちゆかないということで、第2滑走路が造られることになった。空港の沖合約1.3kmに全長2700mの滑走路が完成する。しかし、運用は2020年からで、またこれができても、画期的に混雑が解消されるわけではないという。それは、新滑走路ができても、離発着する機体の数もそれに合わせて増えるため、結局、キャパシティは1.3倍に増えるかどうかだそうだ。しかも、今ある格納庫から第2滑走路まで距離があるので、「そのための移動時間で結局、離陸までの時間が余分にかかることになるだろうし、仮に新たに格納庫を造ろうにも、費用がばかにならない」(海自幹部)と、現場は頭を抱えているという。

結局、私たちの乗った機体も予定より12分遅れでようやく離陸した。「7ノット、進路変更!」。操縦席の機長が合図すると、機体は大きく旋回した。じつはP-3Cは揺れがきつい構造になっている。時速約500kmで、30km程度しか出ない船を追うためには海上をぐるぐると回らなければならない。そのため、翼がかなり短くなっている。そして、いったん洋上に出れば、警戒監視は約8~10時間と長時間の任務になる。その間、絶え間なくレーダー画面や目視などで監視をおこなうのは、相当な集中力が必要だ。目標を捜索する高さは、おおむね400mから1000mの低高度で、遠くからレーダーと赤外線カメラで目標の位置を把握し、その後、目視による確認をおこなう。そしてさらに高度を下げて目標に接近し、約150mの低さで1隻ずつ双眼鏡・目視で確認し、写真撮影する。70m近くまで降下することもあり、ここまで低空だと海との距離が近すぎて、空と海の違いがわからなくなってくる。「非常に地道な作業ではありますが、これを毎日続けることが大事なんです。船がどれくらい汚れているのか、積み荷はどれくらいなのかなど、日々の違いに気づくことで、おかしな動きをする船がわかるんです」(第5航空群司令・畠野俊一海将補)

この日も中国漁船を次々に発見した。漁船が増えていくのか、どこに向かっているのかなど、あらゆる変化を捉えなければならない。実際、搭乗員の判別能力には驚かされる。目視で正確に距離を申告。船の長さと海の航跡から速度は○○ノットと即座に計算するのだ。船のマークからどこの船会社なのかもわかる。このような迅速な処理のため、隊員たちはフライトがないときは、ひたすら勉強しているのだという。データは彼らの頭の中にあるのだ。「休みですか? 盆も正月も関係ありません。任務の増加で搭乗員のローテーションはきつくなっていますが、士気は旺盛です」(海自隊員)。盆と正月はないが、中国の休日には休める…などという笑えない話もあるほどだ。だが、休めないことより、搭乗員たちにとっては中国機の異常接近のような挑発行為に耐える悔しさのほうが大きいかもしれない。P-3Cはハープーン対艦ミサイルなどを搭載しているが、攻撃に遭えば防御するすべはない。「緊急事態に直面しても、とにかく冷静になることが重要です。若い隊員でカッとなる者もいますが、そういう隊員には努めて冷静になるように指導しています。淡々と任務をこなすことが大切なんです」(前出・岩政2佐)

このように多忙を極めるP-3Cだが、通常任務に加えて災害派遣にも出動し、また海外でも活躍している。ソマリア沖アデン湾での海賊対処は2009年から継続している。護衛艦によるゾーンディフェンスに加え、上空からの警備活動が大きな抑止力になっている。また、先般は行方不明となったマレーシア航空370便の捜索活動にも参加した。このときは国際緊急援助航空隊としておよそ1ヵ月間、P-3Cが2機・44名が出動した。捜索には世界26ヵ国が参加したが、いまなお発見には至っていない。「墜落機の捜索をおこなう場合、消息を絶った地点を中心にして、そこから捜索範囲を広げていくのが通常ですが、今回はその地点がわからないため、ひたすら海の上を飛びつづけなくてはなりません」(岩政2佐)。海での捜索は野球場で針を捜すようなものだ。オーストラリア政府などは中断していた捜索を再開したが、発見できるかどうかは未知数だ。沖縄の第5航空群を訪ねてつくづく感じたことは、すべての隊員がきびきびと行動していることだった。低空飛行によるトラブル、沖縄という独特の気候条件から来るダメージ、そして継続的な情報収集活動…こうした練度の高さが、わが国防衛のために大きく役立っている。


さくらばやし・みさ 1970年、東京生まれ。テレビディレクターなどを経て、防衛ジャーナリストに。防衛省『防衛生産・技術基盤研究会』委員などを歴任。おもな著書に『自衛隊と防衛産業』など。


キャプチャ  2014年10月28日号掲載
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