【日曜に想う】 安保法制、“既成事実”にしないため

日本が攻められなくても、アメリカ等の友好国が攻められたら日本への攻撃と見做して、武力を行使する集団的自衛権。安倍晋三首相の旗振りで進められてきた行使容認に伴う関連法案が纏まり、国会に提出された。長丁場の審議が始まる。私は国会の安保論議を約30年に亘って取材してきた。戦後政治が積み重ねてきた憲法解釈の柱は、(1)専守防衛の自衛隊は合憲、(2)海外での武力行使は認めない――の2点だと思う。自衛隊の海外派遣を巡っては、宮沢喜一内閣でPKO(国連平和維持活動)に、小泉純一郎内閣でイラクのサマワに、其々派遣する為の法律が作られたが、停戦合意や非戦闘地域といった理由から、「海外での武力行使には当たらない」と説明されてきた。今回は違う。新しい安保法制に因って、限定的とはいえ“海外で武力行使ができる国”になるのである。政府・与党からも、「自衛隊の危険度が増すことを覚悟しなければならない」(公明党の北側一雄副代表)といった指摘が出ている。安保政策の大きな転換に、国民世論・メディア・政治家がどう向き合うべきか、考えてみたい。

国連事務局で約40年働き、事務次長を務めた明石康氏は、紛争と世論・メディアを考える時に『CNN効果』という言葉を思い起こす。1993年、アメリカのクリントン政権のクリストファー国務長官が語った。東アフリカのソマリアの内戦で、子供たちが飢えに苦しむ悲惨な映像がCNNで流された。アメリカ国内では「可哀想だ」「助けるべきだ」という世論が高まり、クリントン大統領はPKOへの派遣を決める。しかし、撃たれたアメリカ兵が引き摺り回されたりして18人が死亡(最終的にアメリカ軍関係者の死者は30人に上った)。そのシーンもCNNで放送される。それを見た世論は急変し、「アメリカ兵をこれ以上、犠牲にするな。直ちに撤退すべきだ」となる。「一般市民は、ともすると感情的な反応をする。メディアも政治家も引っ張られる。クリストファー氏はそれを慨嘆していた」と明石氏は振り返る。新しい安保法制で、自衛隊はPKOより深刻な事態にも対処しなければならない。日本国内の世論とメディアが「派遣すべきだ」「撤退しろ」と大きく揺れ動くことはないだろうか。




メディアと言えば、自民・公明両党の折衝が始まる直前の昨年春、霞が関のある局長がこう話していた。「役所は与党に、集団的自衛権が如何に重要かをアピールする資料を沢山提供する。メディアは連日、大きく報道するだろう。その結果、新安保法制は国会での本格審議の前に既成事実になっていく」。国民に丁寧に説明するという姿勢は感じられない。説明の責任を負うのは政治家だ。ところが、法案の内容を理解して解説できるのは「全国会議員の3割もいないだろう。特に、自民党議員の勉強不足が心配だ」(自民党幹事長経験者)というお寒い状況だ。安倍首相は国会の会期を延長して成立させる考えだという。委員会での審議をある程度熟したら、自民・公明両党の多数で可決したいのだろう。強行採決という場面も出てくるかもしれない。それは、将来に禍根を残すだろう。その時、行司役の議長はどうするのか。大島理森衆院議長を訪ねた。町村信孝前議長が体調不良で辞任したのを受けて、後任に選ばれたばかり。厳つい顔つきで“悪代官”等と言われるが、元々は三木武夫・海部俊樹両元首相の系譜に属するハト派だ。「日本の行方を左右する法案だ。与野党は将来を見据えた審議をしてほしい。審議内容を国民に理解してもらうことが何よりも大切だ」。国会の役割に思いを巡らせていた。日本を武力行使ができる国に変える法案である。中身を厳しく問い、国民に伝える役割を国権の最高機関の国会が果たせるかどうか。更に凝視していきたい。 (特別編集委員 星浩)


≡朝日新聞 2015年5月17日付掲載≡


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