DeNAも参入…遺伝子解析に医学界が「待った」――諸外国に比べて議論が成されていない日本、早々に企業が撤退する可能性も

2014年から民間企業の参入が相次いだ個人向け遺伝子解析サービス。サービスを提供する企業に対する認定制度作りが始まった。だが、医学界との溝は深く、企業がサービス展開を加速できない可能性も出てきている。 (染原睦美)

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期待の新市場として2014年以来、参入を表明する企業が相次いでいる遺伝子解析サービス。その事業者に対する認定制度が2015年秋にもスタートする。個人遺伝情報取扱協議会(CPIGI)と経済産業省が中心となり、5月中に認定基準を確定。10月を目途に認定作業を開始する予定だ。認定基準は、CPIGIが定めている自主基準がベース。「解析の基となる科学的根拠が提示されているか」「個人情報は保護されているか」「情報は正しく提供されているか」等をチェックし、事業者に対し“お墨付き”を与えるという。個人向け遺伝子解析サービスは、唾液や口内粘膜を利用者が自ら採取し、郵送してもらい、遺伝子情報を解析するサービス。2万円前後で特定の疾病リスクや体質を分析でき、効果的な生活習慣の改善や病気の予防を可能にすると言われている。アメリカでハリウッド女優が遺伝子検査をしたことで注目が集まり、国内でも2014年以降、DeNAやヤフー等インターネット企業を中心に参入が相次いだ。その一方で指摘されてきたのが、性格診断やダイエット診断といった名目で、根拠の無いサービスを手掛ける事業者も少なくないことだった。その点、認定制度を設け、事業者のクオリティーを担保することができれば、市場拡大に追い風が吹く可能性は高い。参入企業には設立間もないベンチャーも少なくない為、そうした企業には、公的団体からお墨付きを得られればビジネスを展開する上でメリットが大きいことも確かだ。

一方、産業拡大に向けて、認定基準という大きな土台が整いつつある遺伝子解析サービスに、思わぬ障害が浮上している。医学界から、ここへきて、サービスの問題点を指摘する声が大きくなり始めたことだ。「患者の不安を煽るだけのサービスは非常に問題です」。東京女子医科大学附属遺伝子医療センター所長の斎藤加代子氏はこう話す。「インターネット経由で受けた遺伝子解析サービスで、『脳血管の異常を起こす病気になるリスクが高い』と診断されたのですが、大丈夫でしょうか」「サービス会社に相談しようとしたら、『専門家はいない』と言われました」──。2014年の秋、斎藤氏の元にこんな相談が寄せられたという。斎藤氏に電話で相談してきたその患者が受けたサービスというのが、『DeNAライフサイエンス』が提供する個人向け遺伝子解析サービス『MYCODE』だった。DeNAの創業者である南場智子氏の肝煎りで、東京大学医科学研究所と提携し2014年8月に開始した。“ゲーム会社”の印象が強いDeNAは、遺伝子解析については慎重にサービスを展開してきた。東大医科研内に数億円を投資して独自のラボを持ち、専門家も積極的に採用した。DeNAライフサイエンスのトップも2015年1月には、マーケティング畑が長かった深澤優壽氏から、総務省出身の大井潤氏に交代。DeNAは「人員の最適化」と説明するが、業界内では、“ゲーム会社”というイメージを払拭し、いよいよ遺伝子ビジネスへアクセルを踏む準備の1つとも受け止められた。その大井社長は、「利用者の疑問や不安に応えられるよう、受け取った解析結果等について認定遺伝カウンセラーや医師等に相談できる窓口も充実させてきた」と説明する。




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ただ、今の状況では最悪の場合、そうした入念な準備も水の泡に成りかねない状況になってきた。医学界や医師会も公然と反発し始めたからだ。2015年2月に開かれた厚生労働省の厚生科学審議会では、医学界からの批判が噴出。出席した日本医師会の中川俊男副会長は、「唾液を郵送するだけで疾病のリスク・生活習慣病のリスクまで判定し、『結果はインターネットで見てください』と言うようなもの。質の確保もできないし、科学的なエビデンスもはっきりしない。最終的に国民の気持ちを弄ぶ」と切り捨てた。実際は、DeNA始め、ジーンクエスト等は何千という論文から科学的根拠を提示しているにも係わらず、「医学界は、『兎に角、出る杭を打たなくては』という姿勢」(業界関係者)だ。抑々、遺伝子解析サービスは「医療ではない」という位置付けで、各社「医療に当たらない範囲でサービスを手掛ける」と明言している。この為、厚生労働省は当初から遺伝子解析サービスについては、経済産業省に一切を任せていた。が、ここまで医学界から突き上げが起きては動かざるを得ない。第1弾として、北里大学の高田史男教授を中心に研究会を設置し、5月中に報告書を作成する予定だ。その報告書を基に、今後厚労省は「議論を進める」としているが、医師会の中川氏は「(厚労省の研究会は)遺伝子検査ビジネス自体を肯定的に捉え、どのように環境整備をすべきなのかを議論するようにも見受けられるが、もっと前提から議論をし直す必要がある」と早くも牽制。「サービス自体を禁止することも視野に入れよ」と言わんばかりの厳しい姿勢を崩さない。

「医学界からネガティブに注目されてしまった」(業界関係者)ことで、俄かに雲行きが怪しくなってきた遺伝子解析サービス。このまま“医学界の壁”が立ちはだかれば、サービス自体が禁止されないまでも、内容が大幅に限られたものになる可能性もある。例えば、国が難病指定する疾病の解析は、認定制度の基準には入らない予定だ。事業者各社に判断が委ねられる予定だが、議論無きまま医学界や厚労省主導で一律に禁止される可能性もある。そうなれば今後、「サービスを受けたユーザーからは、『もっと役に立つ重要な情報が欲しい』といった声も多い」(ジーンクエストの高橋祥子社長)にも係わらず、利用者の要望に応えることは難しくなる。得られる遺伝子情報が、病気の予防に役立つ情報からは程遠いものになってしまえば、元も子も無い。アメリカやドイツ・韓国といった諸外国では、2000年初頭から法整備も含めて遺伝子解析ビジネスに対して官民一体となった対策が練られてきた。「それに比べ、日本はあまりに議論がされていない」(CPIGIの堤正好代表理事)。関係者からは既に、「早々に撤退する事業者も出てくるのではないか」という声も上がり始めた。遺伝子解析サービス自体の認知度が“これから”という状況に加え、医学界からの“横槍”に曝され続ければ、資金面を含め体力が無い企業にとってはサービス継続が厳しくなる為だ。消費者保護は欠かせぬ視点。だが、諸外国に大きく後れを取る状況で、極端に厳しいルールが適用されれば、新産業の芽をまた1つ潰すことにも成りかねない。


キャプチャ  2015年5月18日号掲載


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