開業3年で来場者前年割れ、岐路に立つスカイツリー――『コト消費』、攻勢かけるライバル…主戦場の外国人観光客に課題、学ぶべきはオリエンタルランド

『東京スカイツリー』が開業して3年が経った。当初の熱狂は過ぎ、来場者が減っている。展望エレベーターの度重なる休止、手薄なリピーターや訪日外国人獲得策が課題だ。“一度は訪れたい施設”から脱皮できるか。首都圏の新名所は岐路に立っている。 (寺井伸太郎)

2015年5月中旬の平日。東京都墨田区にある東京スカイツリー展望台に昇る為の当日入場券売り場には、50mほどの長い行列ができていた。カップルや家族・団体旅行客等、並ぶ人は様々。チケットを購入してから展望台に上がるのに1~2時間、週末ともなれば4~5時間かかるという。一見、相変わらずの人気施設のように映るが、実態は違う。2014年度には597万人の来場を見込んだが、実際は531万人に留まった。2015年度は470万人と更に減る見通しだ。2012年5月22日のスカイツリー開業直後の集客力はまさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。当初、初年度の入場者数は400万人を見込んでいたが、来場者の殺到を受けて二度上方修正した。それでも、実績は修正後の計画も上回る554万人に。通年で稼働した2年目の2013年度は更に客数が増加、619万人に達した。しかし2014年度は一転、2013年度比14%減だ。「開業ブームが落ち着いてきた」と、事業主体である『東武鉄道』の猪森信二専務は落ち着いた様子でそう語る。慎重に立てた開業前の3ヵ年計画で、2014年度の来場者見込みは430万人。それに比べれば実績は悪くないからだ。しかし、悠長に構えていられるのだろうか。

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顧客がその場でしか味わえない経験や時間を楽しむ“コト消費”。消費全体が中々回復しない中で数少ない成長分野の需要を取り込もうと、首都圏では『マークイズみなとみらい』や『コレド室町』など、ここ数年間に大型集客施設が相次いで誕生した。伊勢丹新宿店等の百貨店もリニューアルでコト消費対応を強化している。スカイツリーは、手を拱けば“コト消費の負け組”に成りかねないリスクがあるのだ。浮かび上がる課題は3つだ。「『また強風で営業中止』ではスカイツリーを観光コースに入れにくい」。ある旅行会社はそう指摘する。スカイツリーは高さ634mと、自立式電波塔としては世界一の高さを誇る。展望台と地上を結ぶ高速エレベーターの運行は構造上、強風の影響を受け易い。安全確保の為、風速やその他の要素を総合的に勘案して営業中止や休止を判断するが、一時的にせよ営業を見合わせたのはこの3年間で83日。年平均で言えば約28日で、12ヵ月のうち1ヵ月弱もの機会損失が発生している計算になる。楽しみにしていたパノラマ展望が果たせなかった来場者の落胆は想像に難くない。スカイツリー側も気象データの収集や分析を通じて、危なそうな日に予約の入っている顧客には早めに注意喚起しているというが、2014年度の下方修正の一因は、潜在的な顧客が営業中止リスクを見越して二の足を踏んだことにあるとみられる。「強風による営業中止・休止が頻発しているという“風評被害”を1日でも早く払拭しろ」。強風の影響を緩和しようと、2015年4月から一部エレベーターを目隠しで覆い、ワイヤの強度向上等の改修工事が始まった。全4基あるエレベーターのうち、今年度中に先ず2基の改修を順次済ませる。尤も、改修作業で営業中止・休止の日数がどの程度減るのか、効果は未知数だ。加えて、集客の貴重な戦力である4基のエレベーターのうち1基が使えないという事態が起きていることで、繁忙期の混雑に拍車がかかる可能性もある。




2つ目はリピーター獲得だ。スカイツリーのライバルとも言える老舗の『東京タワー』(東京都港区)は2015年3月、海外でも人気のアニメ『ワンピース』のテーマパーク『東京ワンピースタワー』を低層階に開業した。更に、4月からは東京タワー展望台の営業終了時刻を従来よりも1時間遅い午後11時に延ばした。音楽ライブや天の川を模したイルミネーションの開催等イベントにも注力。あの手この手の集客策で、2014年度には197万人だった東京タワー展望台来客数を、2020年までに250万人に増やす考えだ。コト消費を取り込もうと、大型の集客施設が相次ぎイベントを打ち出したり、施設のリニューアルを進めたりしている。各社が参考にしているのが『六本木ヒルズ』(東京都港区)だ。2003年の開業から10年以上経っても、六本木ヒルズはコンスタントに4000万人規模の年間来場者数を維持、東京の新名所の1つに位置付けられるようになった。東京ドーム2個分に相当する約9万3000㎡の敷地にオフィスや飲食店・ホテル・映画館等を併設するが、訪問者が絶えないのはこうしたハードのおかげばかりではない。森美術館では、現代アートを中心とする展覧会を開催。広大な施設内の各所では夏祭りや朝市・映画祭にファッションショー……。イベントを連打して何度でも足を運びたくなる場所にする手法を『タウンマネジメント』と呼ぶが、日本で先駆的に展開したのは六本木ヒルズを運営する森ビルだ。

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2015年4月下旬、開業以来初となる展望台等の本格的なリニューアル工事が完成した。タウンマネジメント事業部担当部長の家田玲子氏は、「設備の魅力を高めるだけでなく、常に新しい体験や話題を消費者に提供しなければ集客力を維持できない」と話す。スカイツリーの地上350mにある展望デッキに昇るには、大人の場合、当日入場券が2060円、事前日時指定券だと2570円。地上450mの特別展望デッキ入場には、更に大人は1030円必要で、合計3090~3600円がかかる。六本木ヒルズは無料で訪れることができるが、スカイツリーは「気軽には足を運べない」(野村証券アナリストの広兼賢治氏)。それだけに、人を呼び込む仕掛けは尚更重要な意味を持つ。スカイツリーは、商業施設の『東京ソラマチ』・プラネタリウム・水族館等が混在する『東京スカイツリータウン』を併設。タウンの運営会社である『東武タウンソラマチ』の木村吉延社長も、「他の施設と違いを出すには、様々なイベントを柔軟に展開する必要がある」と語る。今後は、人生の節目や記念日の思い出作りの場所としてのスカイツリー、時間帯別に変わる眺望の魅力等を訴え、「一度昇れば十分」との意識の変化を促す戦略も強化するというが、「お金を払ってでも何度も来て昇りたい」というファンをどう開拓するか。具体策はこれからだ。

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日本政府観光局の調べに因ると、2014年度に日本を訪れた外国人は過去最高の1467万人と、2012年度の1.7倍に増加した。政府が成長戦略の1つとして掲げる日本の観光立国化は実を結びつつある。「東京スカイツリータウンを観光立国日本の世界的名所とすることが、私共の大きな夢」。2012年に開かれた開業記念式典で、東武鉄道の根津嘉澄社長はそう語ったが、政府の成長戦略とは異なり、スカイツリーの夢の実現は思うに任せない。東京都が2013年度に実施したインバウンド調査。羽田空港と成田空港で外国人約1万2000人を対象に対面方式で聞き取ったアンケート(複数回答)に因ると、訪日中に足を運んだ先としてスカイツリーが立地する“墨田・両国”エリアを回答した訪日外国人は7%。東京都内のエリア別順位では16位に留まった。新宿は55%・銀座は48%・渋谷は42%。外国人にも馴染みのあるこれら繁華街に比べて見劣りするのは仕方が無いとして、気になる数字がある。スカイツリーの近隣にある浅草が47%と“墨田・両国”を40ポイントも上回っている点だ。スカイツリーが2014年度に実施した調査では、入場者全体に占める外国人(個人客)の比率は12%。前年度からほぼ倍増したが、東京タワーの17%よりも低い。「訪日客は旅行のスケジュール上、時間に余裕が無い。展望台に昇る為の待ち時間を考慮して、諦めたケースもあっただろう」。スカイツリー運営の『東武タワースカイツリー』の伊藤正明社長はそう分析するが、外国人向けの情報発信等で対応が後手に回った面は否定できない。

“コト消費”でのインバウンド成功例。それは、千葉県にある『東京ディズニーランド』と『東京ディズニーシー』を運営する『オリエンタルランド』だ。2014年度の両テーマパークへの入園者数は3138万人と過去最高を更新した。映画『アナと雪の女王』に因んだパレード等が奏功した。このうち、海外客は157万人で入園者数全体に占める比率は5%に留まる。一見、比率は小さいように見えるが、年間の訪日外国人の実に10人に1人がやって来ている。高品質な接客等は勿論、効果を上げているのが英語版ホームページを通じた入場チケットの販売だ。外国人が好むクレジットカード決済に対応し、訪日前に購入できる。アトラクションへの投資やブランドだけでなく、こうしたソフトも含めた地道な仕掛けが外国人を呼び込んでいる。遅ればせながら、スカイツリーが2015年2月に発売したのが『ファストスカイツリーチケット』と銘打った訪日外国人専用の当日券。カウンターで割増料金(通常の当日券よりも760円増し)を払えば、混雑時も一般の列に並ばず優先的に展望台に昇れるチケットだ。整理券を配布する為、混雑時でも行列にずっと並ぶ必要は無いが、このチケットがあれば整理券を片手に時間を潰さなくてもよくなる。繁忙日は1500枚、平日でも400枚を販売するなど、滑り出しは上々だ。スカイツリーは開業3周年のキャッチコピーとして、「いつかは行く“場所”から今すぐ行きたい“街”へ。そして、何度も行きたくなる“街”へ」を掲げた。待っていても人が押し寄せる時代が終わり、来客増に向けて仕掛けなければならないフェーズに入った東京の新名所は、“コト消費の勝ち組”となれるかの岐路に立っている。


キャプチャ  2015年5月25日号掲載


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