万策尽きた会社の再生には“生贄”が用意されていた――JALからの転職組には2度目の地獄、スカイマーク2000人社員のリストラ計画

羽田空港の発着枠欲しさに20社のスポンサーが名乗りを上げているが、現実は甘くない。発表された負債総額711億円から、更に膨らみ続ける負の遺産。最後に犠牲となるのは――。

「雇用は確保します。リストラはやりたくないので」。今年1月29日、スカイマークの有森正和(58)は記者会見の席上、唐突にこう言った。有森は前日の28日、東京地裁に民事再生法の適用を申請し、新しい社長に就任したばかりだ。2229人の社員の多くは、まさかの倒産に愕然としたに違いない。その動揺を抑える為、新社長の有森は再建策を発表する傍ら、人員削減をしないと言う他なかった。奇しくも、2010年1月のJAL(日本航空)の会社更生法適用申請から丸5年。負債総額700億円超のスカイマークの経営破綻は、日本の航空史上2番目の大型倒産となった。それだけに、当のスカイマーク社内は固より、JALやANA、そして所管の国土交通省を大きく揺るがせている。中でも深刻なのが、スカイマークの従業員たちだ。無論、「リストラしない」という新社長の会見内容を額面通りに受け止めることはできない。スカイマークは既に路線減らしに着手し、使用してきた航空機のリース契約も解消するという。事業のリストラは始まっているのである。事業が縮小されれば、余剰人員が出るのは自明だ。5年前に破綻したJALの場合、公的資金や銀行団の手厚い支援で再生できたが、それでもグループ全体で凡そ5万2000人の社員が3万人に減った。4割超の人員削減を余儀無くされている。“親方日の丸”と呼ばれたナショナルフラッグでさえ、倒産の悲哀は避けられなかった。況して、スカイマークは航空業界にとって新参者であり、社員たちが戦々恐々とするのは無理もないのだ。一体、なぜこうなったのか?

スカイマークが経営破綻した理由については諸説ある。中でもその最大の要因は、激変する航空業界とそれへの対応の誤りである。スカイマークは航空業界の規制緩和に因り新規参入が認められ、1996年11月に旅行代理店『エイチアイエス』社長の澤田秀雄等が出資して設立された。新規参入企業の第1号である。スカイマークの売りは、3万5000円前後したそれまでのJAL・ANA便より1万円以上も安い羽田-福岡便だった。そこから、羽田-新千歳を結んだエアドゥや羽田-宮崎のスカイネットアジア・スターフライヤーといった新興エアラインが次々と登場。“空の自由化競争時代の幕開け”と呼ばれた。しかし、その新規参入組はどこも長続きしなかった。新興エアラインは価格の安さで勝負したが、営業力や企業体力という点ではJAL・ANAに到底敵わない。そうしてJAL・ANAが競合する羽田路線の安売りを仕掛け、どこも経営不振に陥り、エアドゥ・スカイネットアジア・スターフライヤーはANAの出資を仰ぎ、事実上の傘下に入る。だがその中で、スカイマークだけが生き残った。エイチアイエス社長の澤田の要請を受けたインターネット業界の西久保愼一(59)が経営を引き継いだのである。因みに、西久保は“航空業界の風雲児”と呼ばれる名物経営者だ。大阪府泉佐野市出身の西久保は、神戸大学工学部を卒業し、『ソード電算機システム』(現在の東芝パソコンシステム)等のサラリーマンを経て、バブルの走りだった1986年に起業した。企業における販売や在庫管理のパソコンソフトを開発する『システム工学社』を設立した後、パソコン通信会社『マスターネット』を買収した。マスターネットはマイクロソフトのWindowsブームに乗って業績を伸ばし、ジャスダック市場に株式の店頭公開を果たした。更に『NTTドコモ』と組んでメール事業を始めたが、逆にドコモ本体のiモードに押されてピンチに陥る。そこで、西久保はネット業界に見切りをつけ、2003年10月、スカイマークに30億円を出資し、筆頭株主として航空業界に乗り込んできたのである。今の有森に社長の座を譲るまで、100億円の私財を投じてワンマン経営を貫いてきた。そんな“航空業界の風雲児”は羽田-福岡のドル箱路線を中心に、一時は赤字体質のスカイマークの業績を回復させた。ところが、そこへ2度目の業界の変化が訪れた。それがLCCの台頭である。




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LCCの成功は1971年、航空先進国・アメリカのテキサス州の『サウスウエスト航空』が走りだ。僅か3機の航空機を使って始めた。だが、パイオニアのサウスウエストは瞬く間に成長、2010年にはデルタ航空に次ぐ1億600万人の旅客が利用するまでになる。1990年代に入ると、サウスウエストを真似たLCCがヨーロッパに広がり、更にアジアで急成長。今や、全世界の航空旅客の3分の1がLCCを利用する一大産業に発展している。そんなLCCが2012年、遅ればせながら日本に誕生した。それが、『ピーチアビエーション』『ジェットスタージャパン(ジェットスターJ)』『エアアジアジャパン(エアアジアJ)』の3社だ。日本初のLCC3社のうち、ピーチはANAが出資して関西国際空港を拠点に設立。ジェットスターJは、JALがオーストラリアの大手『キャリアカンタス航空』の子会社である『ジェットスター』と組んで成田空港に就航させた。残るエアアジアJは、ANAとマレーシアの『エアアジアX』連合で、同じく成田空港を拠点に運航を開始した。エアアジアはアジア最大のLCCだが、マレーシア本国との連携が上手くいかず、その後、ANAの100%子会社の『バニラエア』として再スタートしている。あまりクローズアップされていないが、そこからアジア勢のLCCがどんどん日本法人を設立して乗り込んできた。既に、中国の『春秋航空日本』、フィリピンの『セブパシフィック航空』、タイの『アジアアトランティックエアラインズ』、ベトナムの『ベトジェットエア』等が成田や関空に上陸。韓国の『ティーウェイ航空』『ジンエアー』、香港の『香港エクスプレス航空』も近く日本に就航する予定で、一旦撤退した『エアアジア』も楽天と組んで中部国際空港に再上陸する。これまで“LCC未開の地”とされてきた日本は、格好の草刈り場になっているのである。何しろ、LCCは料金が安い。運賃は株式相場のように座席の予約状況に応じて変動するが、例えばピーチとジェットスターJの今年2月5日予約時点の最低価格は、関空-成田・新千歳-成田が3420円、関空-新千歳が3340円也。成田や関空は不便な上に欠航も多いが、深夜バスより安い。これだと乗りたくもなるだろう。日本の低運賃航空会社と言えば、それまではスカイマークだった。だが、スカイマークは徹底してコスト管理された格安航空会社とは言えない。飽く迄も割安航空であり、価格では勝負にならない。その為、スカイマークの西久保がLCCブームに危機感を覚えて打ち出した策が事業の拡大であり、これまでとは逆の高級戦略だった。

「スカイマークの事業規模はANA・JALに続く3番手であり、大手航空会社の一角に位置づけられています。だが、実際はJAL・ANAと新興のLCCの間に挟まれ、中二階的で中途半端な存在でもあった。そこで、西久保は新たな航空機を調達し、国際線を始めとした新規路線に打って出ようとしたのです」(大手航空会社中堅幹部)。2010年11月、スカイマークの西久保は、“空飛ぶホテル”と呼ばれた総2階建てのエアバスの大型機『A380』6機を1915億円で購入すると発表。A380は、標準仕様で525席ある世界最大の豪華なジェット機である。それを成田-ニューヨーク間で飛ばそうとした。LCCに対抗し、国際路線に活路を求めたのである。2011年2月には、エアバスと購入契約を締結した。おまけに、西久保は国内路線でも、これまでのコスト重視の経営から方針転換する。元々、羽田-福岡路線を中心に事業展開してきたスカイマークは、単一の小型機を効率よく飛ばし、運賃を抑えてきた。スカイマークには羽田の発着枠が36枠あるという強みがあった。羽田路線は、中大型機なら1便あたり年間20~30億円の売り上げを見込める。まさにドル箱路線だ。LCCの脅威に焦った西久保は、飛行機を大きくしてもっと儲けようとしたのである。「西久保さんは従来、羽田に就航させていたボーイング社製のB737-800という177席の小型機から、271席あるエアバスの中型機A330-300へと機種を変えようとした。今までのボーイング機を、羽田以外の路線に回そうとしたのです。ところが、新たなエアバス機を導入した為、思ったよりコストが嵩んだ。飛行機は、メーカーや機種が違えば新たなパイロットや整備士が必要になり、整備の為の異なる部品もいる。そのコストが、経営を圧迫していったのだと思います」(前出・大手航空会社中堅就部)

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話題作りの上手い西久保は昨年3月、A330のお披露目会を主催。そこで、客室乗務員のユニホームをミニスカートにしてマスコミに注目された。「当社の若さをアピールしたい」。若いキャビンアテンダントに囲まれた西久保は頗る上機嫌だった。しかし半面、それは単なるパフォーマンスに過ぎない。既にこの時、会社の資金繰りは火の車だった。飛行機を大きくしても乗客が増える訳も無く、その分、逆に搭乗率が下がっていった。そこへ、“空飛ぶホテル”A380の支払いが迫ってきた。スカイマークは、6機で1900億円余りするA380の支払いの内、何とか2014年3月までに265億円を前払いしてきた。だが、その後も毎月の支払いが続き、今年3月決算期には500億円の一括払いが待っていた。しかし、肝心の業績は悪化するばかりだ。搭乗率が下がった上に、円安のせいで輸入する燃油コストが上がった。その為、2013年3月に231億円あった期末現預金が、翌2014年3月期には70億円に目減りしてしまう。しかも、5年ぶりの赤字に転落した。そして遂に、エアバスに対する4月分の前払い金8億円の支払いができなくなってしまう。こうなると、スカイマークの西久保は最早“空飛ぶホテル”どころではない。「予定していたA380の6機の内、取り敢えず4機の購入を解約し、業績が回復するまで残る2機の購入も見合わせたい」とエアバス側に伝えた。だが、メーカーは航空機の製造に何年もかけている為、既に大きなコストが発生している。当然の如く、解約は認められない。「損害賠償を請求する」と言い出した。その請求額は840億円だ。840億円など、8億円の支払いに四苦八苦する会社がとても払い切れるような金額ではない。このエアバスとのトラブルが発覚したのが2014年7月。ここから、スカイマークの経営危機が伝えられるようになっていったのである。

この年の11月末、スカイマークの西久保は唐実にJALとの共同運航をぶち上げ、経営不安を解消しようとした。しかし、この再建策はJAL・ANAに因る羽田のドル箱路線の分捕り合戦に発展。挙げ句の果てには、JAL・ANA・スカイマークの3社共同運航という奇妙な形になり、迷走していく。が、これでスカイマークが立ち直る訳がない。この間、スカイマークの客離れは益々加速していった。本来、旅行シーズンである12月の搭乗率が54.5%と、前年同月から5.6ポイントもダウン。国内線の搭乗率は6割が採算分岐点とされ、それを下回ると赤字が雪だるま式に膨らむが、客離れは止まらない。今年1月の搭乗率は、前年同月比2.8ポイント落ちて55.1%。1月としては過去5年で最低の数字だ。こうして、スカイマークの経営破綻は最早避けられなくなっていったのである。今年に入り、スカイマーク前社長の西久保は、あの『村上ファンド』の関係者にまで資金支援を求めた。だがそれも叶わず、スカイマークは1月28日に民事再生法の適用を申請する。と同時に、航空界の風雲児は会社を去った。法的整理を決めた途端、その負の遺産が噴出。エアバスへの支払いどころか、燃油代の未払いも発覚し、国に納める空港の使用料まで延滞していた。新社長の有森は記者会見で「人員削減をしない」と言ったが、その言葉を信じる社員はいないだろう。この先のリストラ地獄に怯える社員は少なくない。実は、スカイマークでは前の西久保体制における事業拡大路線の下、社員を増やしてきた経緯がある。折しもJALが経営破綻し、5万2000人の社員の内の2万人以上が会社を去った2010年以降のことだ。A380の導入を見込んだスカイマークは、JAL出身のパイロットや客室乗務員を次々と採用。無論、JAL出身者だけではないが、社員は募集を始めた2010年11月時点の1378人が、今年1月の破綻時までに2229人に急増している。5年間で実に1.6倍になっている。

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繰り返すまでもなく、社員の募集は大型機のA380を使った国際線への進出や、A330導入に因る国内路線の拡大を想定したものだ。が、反対に経営破綻し、国際線どころか事業を縮小しなければならなくなった。当然、大幅な人員カットが必要になっている。スカイマークは、先の有森社長会見で経営再建策を公表。先ず、「エアバスの中型機A330を5機導入したことが、搭乗率低迷に因る収益悪化の要因」と分析した。早速、2月から全5機の運航を休止し、リース会社に契約解消を求めた。A330は全てリースで、そのリース料も経営を圧迫してきたからだ。その上で不採算路線から撤退し、1日152便を運航してきた便数を減らし、収益構造の向上を図るとした。例えば、1日2便あった中部-那覇・福岡-茨城線を1便に半減させる等、12路線で約15%便数を削減する。更に、3月からは石垣空港や宮古空港の発着路線から撤退する。これでも足りないに違いないが、こうなると真っ先にリストラのターゲットになるのは、やはりJAL出身者等の転職組かもしれない。5年前の2010年、破綻したJALでは会社更生計画に基づき、当初3年で1万5700人のリストラ計画を発表した。だが、「それでは甘過ぎる」と国交省がダメ出しし、先ず1年で1万6000人の人員削減を求められた。そこでJALでは、裁判所が更生計 画を認可するまでの間、基本給の6ヵ月分の割増退職金という大盤振舞いをして退職者を募った。更生計画の認可までの期間は、精々半年から1年。それを過ぎると最早退職金すら出ないので、逃げ出す社員が殺到した。半面、50歳以上の社員は子供の就学や家のローン等を抱え、辞められなかった。去るも地獄、残るも地獄だ。そんなJAL退職者の多くが、慌ててスカイマークに再就職したのである。彼らにとって、今回の経営破綻は2度目の地獄となる。

スカイマークの倒産処理は、まだ緒についたばかりだ。計画では、5月中旬にリース料や融資等の債権総額を見積もり、会社側が作成した具体的な再生計画について、6月中に債権者からの同意を取りつけて、夏以降着手する。この先、スカイマークの最大の懸案は、エアバスから求められている840億円の損害賠償請求だ。エアバスは3月18日、これを“債権”として東京地裁に届け出た。これに因り、スカイマークが従来公表していた負債総額の711億円が大幅に膨らむ。ANAやオリックス等のスポンサー企業候補20社が再生計画の支援に手を挙げているが、スカイマークは“俎上の鯉”と言う他ない。債権者やスポンサー企業が納得する再生計画ができなければ、下手をすれば2次破綻という事態もあり得る。その再生計画の中心は、2229人の社員のリストラにならざるを得ない。2次破綻すれば、会社そのものが消滅。それを避ける為のリストラが必至である。スカイマーク社員にとっては、まだまだ辛い試練が続く。 《敬称略》


森功(もり・いさお) ノンフィクション作家。1961年、福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。『週刊新潮』記者等を経て、2003年にフリーに。政治・経済・事件等の分野で数多くの作品を発表する一方、航空問題にも造詣が深く、『血税空港 本日も遠く高く不便な空の便』『腐った翼 JAL消滅への60年』(共に幻冬舎)等の著作がある。


キャプチャ  2015年5月5日増刊号掲載


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