【日本型雇用システム大解剖】第1部・ニッポンの働き方(03) バブル世代のリストラ予備軍は必読! 部下無し管理職の生き残り法

日本企業は新卒一括採用で同期を競わせ、40代半ばくらいまでは出世の結着をつけさせないことで社員のモチベーションを維持してきた。人事部は、社員の昇進や昇給のタイミングを絶妙にコントロールしてきたと言える。出世競争の最終コーナーが、ライン管理職(部下のある管理職)としての更なる出世(部長や部門長、そして役員への登用)か、部下無し管理職への横滑り(事実上の降格)である。会社としては、真面目に働き“一定の成果”を出し続けてきた社員にはそれなりに報いたいし、終身雇用を前提としているので、定年までは意欲を持って働いてもらいたい。だが、ライン管理職は組織図に記されたポストの数が定員である。ある年齢を超えた場合には、ライン管理職から部下無し管理職への異動が行われる。

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業界や企業の成熟度・人員構成にも因るが、小規模の組織を率いる管理職(課長クラス)に登用されるのは概ね35~45歳である。管理職として不適格だと“ダメ出し”されなければ、10~15年間は課長・部次長クラスとして働く。この期間に優秀な成績を修めた者だけが、更に上位へと昇進できる仕組みだ。どの企業も、管理職に登用する年代(年次)を人事慣行として持っている。大企業では毎年のように下の年次が持ち上がってくるので、いつまでもライン管理職でいられる訳ではない。管理職の“賞味期限”である40代で会社に貢献をしないと、そのポストを追われることになる。但し、中小企業では慢性的な人材不足が解消されておらず、定年を超えてまで管理職として登用され続ける例も少なくないが、経営陣としては「一定の若返りを図りたい」という意思を持っている。左図は、あるメーカーの正社員の人数分布を示したものだ。人数は企業規模に因って当然違ってくるが、世代に因る分布割合についてはどの日本企業も大体これに近い。1980年代から1990年代初めにかけてのバブル入社組が大きな塊となっているのが一目瞭然だ。現在、バブル入社組は40代後半~50代前半でビジネスの最前線にいる。少数の者だけがこれから部長や部門長、そして役員へと昇格していくが、多くの者は部下無し管理職に就いていく。バブル世代は大量採用で同期の人数が多いが、ポストの数は限られている。筆者の人事コンサルテイングの経験から言えば、バブル世代の9割は部下無し管理職になるだろう。寧ろ、50代を迎えたバブル世代(とりわけ部下無し管理職)はリストラ予備軍と認識すべきだ。2020年頃までは東京オリンピックもあって景気が落ち込むことはないかもしれないが、その後は怪しい。とすれば、バブル世代は将来的にはリストラに直面することになる。




部下無し管理職になるパターンはどんなものか、幾つか例示してみよう。先ず、課長クラスで一定の業績を上げないと部下無し管理職に直行。また、合併や組織の統合でそのポストそのものが無くなることもある。以下のようなケースもある。そこそこの成績を出している一般社員が中年になると、部下はいないが管理職扱いで処遇されることがある。“ポストの空き待ち”という位置付けだが、何年もこの状態に置かれると、業績を上げている勢いのある後輩に追い越されることがある。人事考課が優秀で、仮に部長以上に昇格しても、役職定年制度に引っ掛かる。日本企業では、部長職の役職定年を55~57歳くらいに設定していることが多い。50代後半で役員クラスまで行き着かないと、世代交代を迫られることになる。

このように、大半の管理職はどこかの段階で出世コースを外れた部下無し管理職として生きていくことになるのだが、彼らの企業内キャリアは次の3つの方向性(生き方)に集約できるだろう。1つ目は、スーパー(特別な)担当者として組織業績を牽引すること。組織マネジメントの責任は負っていないが、人事制度上は管理職扱いである。ライン管理職との職責の差額分を、担当職務のパフォーマンスで埋めなければならない。営業部門であれば、他の一般社員よりも圧倒的に稼ぐ必要がある。スタッフ系であれば、専門分野で文字通りの専門家としてのステータスを確立していることが前提だ。2つ目は、これまでの経験・専門性を生かして会社から与えられた“特任業務”を遂行すること。営業部門であれば、大口顧客の担当者として大きな予算・目標を持ち、「この人でなければ担当できない」というようなポジションを確立することである。3つ目は、ライン管理職のサポート役になること。先の2つの方向性は、これまで培ってきた自身の専門性を生かそうとするものだが、ライン管理職のサポート役というのは、社内で培ってきた人間関係の構築力や仕事の進め方、後輩育成等のマネジメントスキルを、ライン管理職の補助者として役立てようとするものだ。ライン管理職は忙しい。プレイヤーとしての実務を熟しながら、組織のマネジメント責任を負っている。そして、実務に疎い経営陣の曖昧な経営方針を現場の状況に置き換えて、具体的な指揮・運営をすることが求められる。だが、経営陣が求める役割を熟せていないのが多くの管理職の現状である。ライン管理職がカバーできないマネジメント分野を補完し、組織マネジメントを機能させることこそが、部下無し管理職が生き残る第3の道だと言える。部下無し管理職として生き残り、活躍する為に必要な知恵と実践的な方法を纏めてみると、以下のようになる。

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①人財育成担当マネジャーになる
ライン管理職は、経営陣から求められている役割を果たせていないと先述したが、人材育成がまさにそれに当たる。中長期の組織の生産性に深く関連するのに、中堅・若手の面倒まで見る余裕が無い。そこで部下無し管理職の出番となる。抑々、部下を育成するのはライン管理職にとって最も重要な役割の1つだが、手間暇のかかる割に評価されにくい項目である。例えば、ある課の中堅社員・Aさんのパフォーマンスが上がってきたと評判になった時、部長は彼の上司である課長を褒めるだろうか? 否、「最近、Aさんはよく頑張っているね。努力の賜物だ」と考えるのが普通だ。ところが、逆の場合はどうだろう。「最近のAさんはなってないな。課長の指導が悪いんじゃないか?」となる筈である。要は、部下育成については、ライン管理職にマイナス評価はあってもプラス評価は中々無い為、重要だとわかっていながら「時間が無い」と後回しになってしまう。そこで、部下無し管理職がこれまでの経験を生かし、ライン管理職の代わりに後輩への指導を率先して行うのだ。「上手く育たなかったら……」と心配する必要はない。育成責任はライン管理職にあるのだから、ライン管理職がしたくてもできない思い切った指導も可能である。スーパー担当者であろうが特任担当であろうが、必ずどこかの部署に属している筈。部下無し管理職であることの最大のメリットは、“人材育成の責任”が無いことである。それを逆手に取ることだ。

②単年度の評価より中長期の評判を上げる
多くの人が誤解している点だが、毎年の人事評価の積み重ねがデジタルに計算されて、昇進・昇格に繋がっている訳ではない。人事評価において、成績(成果)で一発逆転はあり得るが、一度落とした評判は取り戻すのに相当な時間がかかるし、悪い評判は尾鰭がついて挽回不能になることもある。部下や契約社員・派遣社員・外注業者等の立場の弱い人に横柄な態度を取ったり、責任を押し付けるようなことをしたりしていると、誰も助けてくれなくなる。部下無し管理職にとって、それは大変辛いことだと心得よう。

③所属組織のリーダー(フィクサー)になる
ライン管理職はマネジメントをしなければならない。マネジメントとは、与えられた責任と権限と部下を駆使して業務の完遂を企てる行為であり、PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を回すことである。ライン管理職は部下のモチベーションを上げるに越したことはないが、部下1人ひとりのことを慮っていられない。「マネジメントする人はリーダーシップを発揮すべし」と経営の教科書は教えるが、リーダーシップはマネジメントの手段であって目的ではない。一方、リーダーとはリーダーシップを発揮する人のことである。責任や権限が必ずしもあるとは限らず、集団を纏める力のある者を指す。つまり、リーダーシップは正当な責任や権限が無くても発揮することが可能な筈である。専門的知識と業務に精通し、解決能力があるならば、若手中堅から頼られ、リーダーシップを発揮できる。特定の業務や分野で、責任を取らなくてよいキーパーソン(言葉は悪いがフィクサー)として活躍する余地がある。一定のキャリアを積み上げてきた部下無し管理職だからこそ、周りは率直に接してくれ、リーダーシップを発揮し易いという側面がある。

④上司の弱点を補完する
人材育成のセオリーは“部下の強みを把握し、褒めて伸ばす”だが、上司に対しては逆になる。出世頭と言えども万能の選手などいないし、どんな管理職でも何かしら苦手分野はある。フィクサー的な立場になったとしても、間違っても上司の弱点を突いて無能さを証明しようとしてはいけない。それこそ評判を落とすのがオチだ。直属の上司が組織の中で“ダメ上司”と言われていたとしても、責任と権限を持っているのはその“ダメ上司”である。抑々、“ダメ上司”という言葉は部下が勝手に張るレッテルに過ぎない。管理職の任免は上層部がすることであって、仮にダメ出しされるとしても1~2年のタイムラグがある。それまで、上司の逆鱗に触れることは慎むべきだ。そんなことより、上司にとって最も有難い存在は、自身の弱点を補完してくれる部下なのだ。人材育成であれ特定顧客対応であれ、上司が苦手としているところをフォローして初めて信頼関係が築けて、組織になくてはならない存在となる。

⑤経営者側・従業員側の両方の立場で発言できる
部下無しであっても管理職であり、会社内においては当然“経営サイド”と位置付けられている。労働組合には参加できないが、“管理職限り”という経営情報には触れることができる。実態はマネジメントする立場ではないし、組織責任を負っている訳でもない。ライン管理職は、経営陣から降りてくる数値目標に愚痴の1つでも零したくなるが、心を鬼にして配下のメンバーに難しい目標を課さないといけないのが辛いところである。だが、部下無し管理職であれば、そういう上司の心情に同じ管理職層という立場で共感することができるし、理不尽な目標を押し付けられた部下たちと同じ立場で共感することもできる。両方のロジックがわかり、客観的な立場で観察できるのが部下無しの強いところである。

⑥コーチングのスキルは部下無しだからこそ生きる
研修がしっかりしている企業であれば、管理職研修としてコーチングスキルを学ぶ機会を与えていることが多い。“傾聴”“質問”“承認”のスキルを駆使して部下を動機づけ、目標達成を図ろうとするものだが、部下からすれば権力がある上司からコーチングを受けると、「言いたくなかったけど言わされた」という違和感を持つことがある。コーチングは本来、1日或いは半日程度の研修でマスターできるほど易しい技術ではない。これも、直接の利害関係が無い部下無し管理職ならば本音を引き出し、上司には言い難かった実現可能で現実的な解答策を引き出すことも可能である。

⑦中高年社員のお作法
部下無し管理職といっても、企業や各人に因って位置付けが異なるが、少なくとも“お荷物社員”のレッテルだけは張られたくない。60歳定年を全うし、その後の再雇用に因る65歳までの会社人生を考えるなら、50歳を超えたら周囲から嫌われない為の作法を身に付けておきたい。先ずは、「後進には武勇伝ではなく、失敗談を語る」ことだ。仮にも“管理職級”と会社が認めた人材である。1つや2つの成功例はあるだろうが、ビジネスモデルや競争環境の違う昔の成功物語など誰も聞きたくない。仮令普遍性のある事例であっても失笑を買うだけだ。2つ目は、飲み会では“酔っ払わない”ことだ。一昔前までは「酒の席だから」といって許されていたことが許されなくなった。セクハラ・パワハラは勿論のことだが、酔って上司批判・会社批判をぶちまけたら大変なことになる。3つ目は、“管理職を外れたら残業しない”ことだ。日本マクドナルドの『名ばかり管理職』問題以降、労働基準監督署のチェックが厳しくなり、部下無し管理職でも残業代がつく場合がある。一般的に35歳くらいまでは残業する社員が評価されるが、40歳を過ぎると「生産性が悪い」と言われ、“残業代稼ぎ”のレッテルさえ張られることにもなる。

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最後に。不幸にも“退職勧奨”に遭い、転職することになった場合、ライン管理職と部下無し管理職とではどちらのほうが転職で成功し易いだろうか? 中高年の転職は、特別な経験や技術等が評価されてヘッドハンティングされる場合を除き、小さい企業へ移るのが主流である。大企業の部長クラスになると組織マネジメントが中心だが、中堅・中小企業では同じ部長ポジションでも組織マネジメントをしながら、一般社員と同じ実務も熟さなければならない。中小企業が求めているのは、大企業での管理職としての見識は当然として、実務も熟すことである。その点、実務に精通している“部下無し”のキャリアで実績と能力が備わっていれば、即戦力として活躍できる可能性が高い。


麻野進(あさの・すすむ) 人事コンサルタント・特定社会保険労務士・株式会社『パルトネール』代表取締役・早稲田大学大学院非常勤講師。1963年、大阪府生まれ。国内大手コンサルティングファーム、人事・組織専門コンサルティングファーム取締役、国内大手シンクタンク・経営研究所シニアマネージャーを経て現職。共著として、『職務・役割人事制度構築・運用ハンドブック』(産労総合研究所)・『成果主義人事事例集』(政経研究所)・『役員の登用・評価・育成のすべて』(政経研究所)がある。


キャプチャ  2015年5月30日号掲載


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