【桜林美佐が見た尖閣防衛の大盲点】(後編) 導入から30年、まだまだ現役の哨戒機『P-3C』の整備現場を初取材――哨戒機の部品手配に2週間もかかるなんて!

国防の最前線である沖縄には、最新の装備が配備される。だが、こと哨戒機に関しては、導入から30年以上たった旧型機P-3Cがまだまだ現役だ。その整備をめぐる苦労を防衛ジャーナリスト・桜林美佐が取材する。

日本の領海の警戒・監視、そして海外での活動とまさに八面六臂の活躍をする海上自衛隊の哨戒機P-3C。「海上自衛隊は米軍の次にP-3Cを多く保有していますから、海外の活動への派遣を期待されることが多いのです」(防衛省関係者)。約70機ある日本は、「そんなに持っていてすごい」とよくいわれるが、正確に言えばすごいのは持っている数ではなく、その可動率が高いことだ。これは自衛隊の後方支援能力のの高さがなせる業で、韓国なども同じようにP-3Cを運用するが、可動率は低いといわれている。だが、1982年の導入以来、長年にわたる過酷なミッションをこなしており、さすがにダメージは大きい。運用に支障をきたさないよう“共食い”といって部品を別の機体から移し替えるなどの苦肉の策を取ることもあるようだ。「機器が故障して修理しきれない場合は、ほかの基地から取り寄せることになります。とくに那覇基地はP-3Cの飛行機会が多い状況にあるため、どうしても部品の取り寄せ頻度が高まります。そのため、担当者は毎回、他部署との調整にひと苦労するようです。手配には3日から2週間ほどかかるでしょうか」(志野雅一2佐)。東シナ海の警戒・監視に支障をきたすことなく運用が可能なのは、こうした裏方の支えがあるからだ。

待たれるのは、次期哨戒機P-1の配備である。機齢延伸という措置もなされているが、その退役は徐々に始まっており、P-1導入の遅れで、関係者には焦りも見える。「P-1が入ってきても、P-3Cはまだこれから20年ほどは使うわけで、細かいことに気をつけながらの維持・整備が続きます」(同)。P-3Cは導入からすでに約30年を経ており、老朽化も進んでいることから、今後の整備作業はさらに神経を使うものになるのは間違いない。そんなP-3Cの整備現場に足を踏み入れた。




ここ那覇の第5航空群では、塩害や湿気によるダメージがことさら大きいという。作業はいたってきめ細かい。まず、飛行前点検は飛行開始の3時間以上前から始まる。そして飛行後は2時間に及ぶ整備だ。フライトの数が増えているということは、メンテナンスの現場も多忙を極めるということだ。「遅くまで作業が続くこともありますが、絶対に間に合わせることが私たちの仕事です」(整備隊員)。残業代がつくわけではないが、なんとしても計画どおりに飛ばさなくてはならない。時間との戦いが毎日繰り広げられている。

整備隊の現場は、たいてい5~6人が1つのチームで動いている。私が取材に訪れた日は、19歳の若い隊員から51歳のベテランが一緒になって作業にあたっていた。経験豊富なベテランが若手に指示を出していくのだが、それはまさに職人の世界だ。きれいに並べられている工具はひとつひとつ用途が違う。数百種類はあるだろうか。数えきれないが、すべてがピカピカに磨かれている。「どんなに小さな工具であっても、機械に残してしまえば、事故につながりかねません。道具を大事に使うことはもちろんですが、未然に事故を防ぐ一環でもあるのです」(同)。整備隊員は、この素人目には同じようにしか見えない工具それぞれを手にし、それが何に用いられるのか体で覚えるという。整備というと、機体そのものやエンジンなど大きな部分をイメージするが、実情はもっと奥深い。当然といえば当然だが、すべてのものがメンテナンスの対象だ。武器はもちろんのこと、救命胴衣・落下傘・ボート…いざというとき使い物にならないことのないよう注意を払う。ほんの小さな金具でもサビ1つが命取りになるのだ。そのため整備隊員は、縫製のミシンの糸1本にも気を配る。P-3Cは米国ロッキード・マーティン社が開発し、川崎重工業がライセンス国産している。部品をアメリカから取り寄せることも多く、その場合、タイムラグが大きな問題となる。一方、後継機のP-1は川崎重工業を中心にオール国産で開発された。P-3Cはプロペラだが、ジェット式へグレードアップ。これにより速度は約1.3倍、航続距離は約1.2倍に向上する。

JSDF 01
背負い型の落下傘の定期検査は120日ごとにおこなわれる。まず、開放バンドの張力を測定し、続いて傘を広げ、軽く引っ張った状態で各部を点検。破れなどがあれば、ミシンで補修する。その後、4時間以上乾燥させて最後に折りたたんで収納する。折りたたみの順番を間違えると傘が開かない原因となるので、確実さが要求される。
JSDF 02
エンジンの整備。エンジンは総重量1トンを超えるので、部品も非常に重いものがある。そのため、安全確保に向け常に見張りをつけて作業をおこなう。
JSDF 03
大量の工具が整然と並ぶ。

P-1は、国産化により運用側のニーズがすべて反映されるというメリットがある。スイッチやレバーの位置・トイレの場所…あらゆる箇所を使いやすくするため、開発時には多くの現場の声が吸収された。「どうにかして期間中にやり遂げようと、まずは各部門から必要な検査項目をあげてもらいました。全部で1万6000項目ぐらい。一緒に検査できるところは組み合わせて、4年間の時間単位のスケジュールを立てました。それを紙に張りだして、検査が終わるごとにバツ印をつけて」(自衛隊関係者)。そもそも米国製の航空機は、シート1つとっても、体型の違いからしっくりこないこともあり、神経質なミッションをこなす搭乗員にとって、それはバカにできない。「でもシートの乗り心地とか操作性って個々人の感覚ですよね。それで、操縦士1人ひとりに実際に乗ってもらったり、操作してもらったりしてデータを集め、統計処理して決めていったんです。細かいところではトイレの水圧まで。当初の水圧ではうまく流れなくて、味噌を買ってきて、味噌を流して、この水圧ならOKだって(笑)。大げさではなく、本当に細部までこだわりつくしているんです」(開発担当者)。これこそまさに国産機のメリットなのだ。ちなみに米国では、新型哨戒機P-8を開発し、導入が始まっている。これはボーイング737旅客機を改造したもので、低空を速く飛行することはそもそも想定されていない。だが、この能力を無理やり付与させたため、かなりの無理が生じ、せっかく旅客機の改造でコスト削減を図ったのに、結果的に莫大な費用がかかってしまったといわれる。

P-1は開発段階で遅れ、その後もエンジントラブルが発生するなどしているが、そもそも4年やそこらで飛行試験をパーフェクトにこなすという計画そのものに、米国人は当初「クレイジー!」と叫んだという。「その米国人が完成したP-1を見て、あまりの完成度の高さに『奇跡だ』『よく作った』と本当に驚いていました」(開発関係者)。実際に飛行するP-1を見て感心したのは、音がほとんど聞こえないほど静かなことだ。もちろん、探知システムも格段に向上した。「P-3Cはライセンス生産だったので、探知の要であるプログラミングを一切変更できませんでした。しかし、P-1は、ソナーや磁気探知などそれぞれのシステムが飛躍的に高まりました。ひとつひとつが世界有数の技術です。ところが、いざ動かすとなったらまったく動かなかった。それぞれのシステムが別々だったからです。そうしたトラブルも乗り越えて、ようやく完成となったのです」(開発関係者)。防衛省は来年度予算の概算要求に、P-1を20機まとめ買いで購入する予算3781億円を計上した。成立すれば7年契約で購入することになる。従来は財政法により、契約から納入までの支払い期間は5年を超えないことが決められていたが、特別措置法が今国会に提出されたのだ。防衛省は、この長期契約により、企業は部品をまとめ買いすることができるようになり、400億円のコスト削減につながると試算している。日本の領海の警戒・監視は、こうした細かい努力のうえに成り立っていることを忘れてはならない。


さくらばやし・みさ 1970年、東京生まれ。テレビディレクターなどを経て、防衛ジャーナリストに。防衛省『防衛生産・技術基盤研究会』委員などを歴任。おもな著書に『自衛隊と防衛産業』など。


キャプチャ  2014年11月4日号掲載


スポンサーサイト
Categories
Profile

KNDIC

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR