【日本型雇用システム大解剖】第1部・ニッポンの働き方(05) “新卒一括採用=悪玉論”のウソと本当――新卒時に採用されないと永遠に“非正規”なのか?

新卒一括採用に対する批判が根強い。その最たるものが、「日本では、正社員になるチャンスは新卒時点の1回きり。それを逃せば一生非正規」というものだ。つまり、「若年者が再チャレンジできない」というのが批判のキモだ。確かに、大手企業の採用が新卒に偏り過ぎているのは事実だが、どんな企業であれ、「新卒でなければ正社員になれない」というのは誤りだ。下図は、卒業後に無業だった15~24歳の若者(既卒未就業者)が、“一般労働者”として採用された数値を示している(『雇用動向調査』)。既卒未就業者は、多い年には1年で15万人、少ない年でも4万人が新たに一般労働者として職を得ている。一般労働者にはパートとアルバイトは含まれていないが、契約社員は含まれる。だが、この世代の契約社員の比率は1%に満たず、“一般労働者=正社員”と見ることができる。因みに、新卒採用者は中学・高校・短大・専門・大学を合わせて70万人程度。その規模には及ばないが、毎年10万人近くの既卒未就業者が新たに正社員になっているという数は、決して小さくはないだろう。もう1つ、データを示そう。下表は、2013年の『若年雇用実態調査』から作成した。調査時点で正社員として働いている若年者(34歳以下)が、卒業時点ではどうだったかを振り返ったものだ。これを見ると、卒業時点では正社員ではなかった人が、大卒者では凡そ8人に1人(13.8%)、高卒者だと4人に1人(26.0%)になる。同調査の2009年版には、更に興味深いデータが記されている(下図)。こちらは、卒業後1年間正社員ではなかった人が、その後どうなっているかを調べたものだ。調査時に30~34歳の人だと、卒業時に非正社員だった人の47.2%が、無業だった人の51.6%が正社員となっている。因みに、調査時点(2009年)の30~34歳は、1990年代後半に学校を卒業した所謂『ロスジェネ世代』である。つまりは、あれほど騒がれたロスジェネ未就業者も、10年後には約半数が正社員として働いているのだ。残念なことに、このデータには男女の区別が無い。結婚・出産退職が多い女性は、男性よりも正社員比率が低くなる。若し男性のみに絞れたなら、数値は更に高くなっただろう。

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ここまでで、“新卒時に就職に失敗→一生非正規”という常識はかなり間違っていることがわかる。他方で、景気に因って新卒者が就職できる企業のレベル(大企業か中小企業か)が大きく左右されるという批判もある。確かに、こうした傾向は否めないが、これも極端に言われ過ぎている。景況と就職の関係をリアルに考察してみよう。大卒の就職人気ランキング100位に入るような企業(人気企業)の採用総数は、過去15年で一番少なかった年が1万3000人、多かった年が2万6000人だ。更に、従業員1000人以上の大手企業の新卒採用数は、雇用動向調査から好況時が16万人弱、不況時が8万人弱。つまり、好不況の差は人気企業でも大手企業でも2倍程度なのだ。5倍や10倍になる訳ではない。一方、中堅・中小企業は景況に関係無く安定的に約25万人を採っている。とすると、景況に因る就職先の変化はこんな感じである。好況時に人気企業に入れた人は、不況時だと普通の大手企業辺りに落ち着く。普通の大手に入れた人は押し出されて、中堅に決まる。中堅に決まっていた人は、中小になる。そして、中小に決まる筈だった人の内の何割かが未就職となる。こんな玉突きが発生している筈だ。「人気企業に入れたのに、不況だからフリーター」という構造ではない。割を食うのは、中小に決まらず未就職となった人たちだろうが、それでも彼らとて、前述のように卒業後にかなりの人が正社員になっている。“天国から地獄へ”という景況に因る変動論は極端な例えなのだ。「それでも、中途採用が盛んな欧米なら再チャレンジが」という声も聞かれそうだ。しかし、欧米でも卒業から数年を無為に過ごした人が、中途でトップ企業に採用されることなど先ず無い。現実を知らずに、他国を美化し過ぎなのだ。こうした古くからの批判よりも、新卒採用の本当の問題点はどこにあるのかを真剣に論じたほうが、社会的にも有益ではないか。




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その前に、新卒採用の最大のメリットを指摘しておこう。それは、「未経験で何も知らない学生が採用される」ことだ。欧米では、手に職(スキル)が無い限り就職は難しい。なのに、日本では新卒が採用される理由は2つある。1つ目は、職務が無限定で何でも任せられることだ。最初は簡単な仕事から始め、少しずつ難しい仕事を任せていく。この無限階段で、いつの間にか育つ。職務が自由に組み替えられるからこそできる、習熟の階段だ。2つ目は、社内を自由に異動させられることだ。反りが合わない上司や顧客がいても、異動でシャッフルできる。同様に、合わない仕事でもシャッフルできる。そうして、いつの間にか適所に行き着く。だから、スキル等を問わずに採用できるのだ。この2つのメリットが、実は大きなデメリットをも生み出す。①に関しては、無理な仕事を押し付けられても文句を言えない。これが、ブラック企業を生む。②は、異動やチームの変更ができないような小さな会社ではメリットとならない。それもあってか、従業員30人以下の企業の入社3年離職率は5割を優に超える。ならば、日本型に付随するこの2つのデメリットを取り除くことに注力すべきではないか? ①については、ブラック企業への監視を強めること。②については、中小企業への就職では、事前に肌合いが合わせられるよう“お試し雇用”を普及させ、入社後に合わない場合には同地域の他社に異動できるようにする等の対策が考えられる。お試し雇用については、埼玉県が3社程度勤めてから就職を決める仕組みを打ち出した。地域内企業間の人材異動は、広島県安芸高田市が『地域人材コンソーシアム』という試験事業を続けている。こうした“地域と中小企業”が日本型の綻びを補完する動きに、私は注目している。


海老原嗣生(えびはら・つぐお) ジャーナリスト。人事・雇用専門誌『HRmics』編集長。1964年、東京都生まれ。上智大学経済学部卒。“雇用のカリスマ”と呼ばれ、漫画『エンゼルバンク』の作中人物である“カリスマ転職代理人・海老沢康生”のモデルでもある。『雇用の常識 本当に見えるウソ』(プレジデント社)・『日本で働くのは本当に損なのか 日本型キャリアvs欧米型キャリア』(PHPビジネス新書)等著書多数。

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■正社員と労働組合はリベラル政党の“芽”を摘んだ
第2次安倍政権以降、自民1強時代が続く日本の政治。今や、民主党とその支持母体である労働組合は、嘗ての政権交代時のような勢いを完全に失っている。なぜ、民主党と労組がダメになったのか? 実は、“メンバーシップ型”の雇用慣行が、日本の政治や社会に大きな影響を与えている。メンバーシップ型と民主党の低落とには、因果関係があった。

政党は、社会保障政策や福祉政策を対立軸にして、右派と左派に明確に分けられる。大きな政府を志向し、社会保障や福祉を積極的に行うのが左派・リベラル政党であり、政府の介入をできるだけ少なくして民間に任すのが右派政党だ。社会保障の拡充には公的な財源が必要。だから、どの国でも左派は社会政策の為の増税を認めている。ところが、この分類が当て嵌まらないのが日本だ。本来、左派政党である民主党は数年前までは、仮令社会保障の拡充であっても増税には強硬に反対してきた。民主党のもう1つの大きな特徴は、霞が関官僚に対する不信である。官僚への不信が高じて、全ての権限を大臣に集中させた為、機能が事実上停止した省庁もあった。大きな政府を志向する政党が、国を上手く統治できなかった。世論が分かれるリベラル色の強い政策ならば、一層、そのハンドリングが難しい筈。とすれば、今の日本にはリベラルな政策を担う政治主体はいないことになる。なぜこんなことになってしまったのか? メンバーシップ型との関係を辿りながら見ていこう。

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毎年4月、日本企業に入ってくる新卒社員は、全員が将来の幹部候補である。真っ新な状態で入社し、企業カラーに染まっていく。労使関係は良好。社員は実務を通じて仕事を覚え、企業と自らの成長を重ね合わせる。社員は所属する組織に愛着を覚え、同僚との交際にも気を配る。友人や親戚と接するのと同じように、職場の飲み会は欠かさない。外国人からすると、所属する企業に職業と人生を丸々委ねるように見える行為かもしれない。だが、日本企業の採用が職務を通じたものでなく、先ず組織の構成員になることを求めるメンバーシップ型だからこそと考えれば、理解できないことでもない。人手不足の高度成長期、日本企業は社員の採用と定着を図る為、長期雇用を前提にして福利厚生に力を入れた。年功賃金や社内教育・独身寮・社宅・社内貯蓄や融資制度・保養所・退職金等である。ヨーロッパでは、国によっては公的制度として導入されているものも含まれる。企業は“失業対策”も行っている。1973年の石油ショックの時、日本経済はマイナス成長、企業の3割が経常赤字に陥ったが、失業率の上昇は小幅に留まった。企業が失業者を生まないように配置転換を進め、余剰人員を抱え込んだからだ。国もそれを後押しした。余剰人員を抱える企業向けに『雇用調整助成金制度』が作られ、一時休業や職業訓練、別の企業への出向時にはその費用を負担する仕組みができた。これがヨーロッパなら失業者が増加し、公的な職業訓練事業の拡充となる。逆に、日本は企業の“内部労働市場”を活用したのだ。

日本の子育てや教育(奨学金を含む)に対する公的支出は、OECD(経済協力開発機構)加盟国で下位に属する。これを補ってきたのも企業である。年功賃金が子育て世代の生活資金や子供の大学進学資金となった。「企業の家族手当があるから、政府の児童手当は不要だ」と公的な場所で真剣に議論されたこともある。社内貯蓄や社内融資制度・社宅・老後の生活保障と関連する退職金制度等、本来は社会政策として国が受け持つ事柄を、日本企業は部分的に肩代わりしてきた。こうして、正社員だけは企業が用意する恵まれた福利厚生を利用することができた。本来、左派政党と労組は様々な社会政策を提案する立場にあるが、企業別労組に属する正社員は既に恩恵を受けている。若し、企業からの恩恵を社会政策として社会全体に広げようとすれば、彼らにとっては余計な負担である公的な財源が必要になる。それを主張する意欲は労組に乏しかった。メンバーシップ型故に、日本企業の正社員は企業別組合員。企業別労組の集合体である日本の労働団体が、企業の外にある社会問題への対応に鈍かったのは、当然と言えば当然だ。

しかし、社会政策に近いものや福利厚生メニューを、日本企業が全て抱え込むのは難しくなっている。国際的な競争環境を考えれば、それは当然である。その際、注意すべき点は2つある。1つは、長期雇用や年功賃金を止めるならば、同時にメンバーシップ型の根源である職務無限定の働き方を見直し、長時間労働を撲滅すべきこと。そうでないと社員はメリットを奪われ、デメリットだけを押し付けられることになる。もう1つは、これまで企業が担ってきたものを無くす時、代替をどうするかを決めること。左派政党や労組が社会政策を打ち出すならば、財源問題に向き合うことだ。それは、ヨーロッパ各国の国作りに近いだろう。一方で、誰も負担増を言い出さない社会が続くなら、自己責任原則が強いアメリカ型に近づくことになる。 (=第1部おわり)


キャプチャ  2015年5月30日号掲載


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