【北欧女子オーサさんに聞く“マンガ”の魅力と不思議】(下) 「日本語がお上手ですね」と毎回聞かれると……

――バンドデシネもですが、アメコミもフルカラーのコミックが主流です。また、アメリカでマンガが出版され始めた頃は、現在のように日本式のコミックの形式ではなく、判型が大きく、薄いアメコミと同じフォーマットで、現地で勝手に着色されカラー化されていました。例えば、『AKIRA』『アップルシード』等はそのようにして出版されていました。また、右開きから左開きになる為に構図もひっくり返ることになります。現在では、欧米の現地語訳版でも日本式のコミックスの形が普通で、日本同様に右開きで出版されることも増えています。また、アメリカでも所謂“グラフィックノベル”等、モノクロの作品も増えています。ところで、初めに影響を受けたアニメの『美少女戦士セーラームーン』ですが、スウェーデンでは度々放送中止になっていたそうですね。
「そうなんです。スウェーデン人としては恥ずかしいことだと思います。ただ、1990年代のスウェーデンでは『アニメやコミックは小さい子供の為のもの』という“常識”がありましたから、ちょっとでも暴力があればダメで放送中止になりました。1年とか2年とか放送が中断したこともありました」

――表現規制に関しては、日本と欧米では大きく違います。日本では大人向けと子供向けの文化の間には大きなグレーゾーンがありますが、欧米ではハッキリ峻別されているという違いに因るものでしょう。日本では何の問題にもされないようなシーンが、欧米では大問題となることも多々あります。子供を学校に送迎しに行かないと“児童虐待”になるなんて日本人には理解できないし、逆に日本で小学校低学年の子供が自分で電車通学しているなんて欧米では理解できないでしょう。どちらがいいか悪いかではなく、まさに文化の違いです。暴力と同様に、セックスも同じような規制がありますよね。
「“セーラームーン”では変身の時にちょっと裸に近いような感じになるのですが、スウェーデン的にはこれは幼児ポルノと取られたりもしました。でも、“セーラームーン”には私のような熱心なファンが多くて、オタクなファンが結束してテレビ局に対して抗議の手紙を書きました。勿論、私も書きました」

――1980年代後半のフランスでは、子供向け番組の殆どが日本製アニメとなって社会問題化し、フランス政府やメディアも“文化侵略”として問題視しました。「“セーラームーン”を見るとレズビアンになる」とか、根拠の無い批判もありました。その背景には、“集中豪雨的”と呼ばれた自動車やコンピュータ等の急激に輸入される日本の工業製品に自国の市場を奪われ、更に文化でも自国が侵食されるのではという危機感がありました。スウェーデンでもそのような貿易摩擦が背景にあったのでしょうか?
「そういうものはありませんでした。どこのオリジンかもあまり気にしていないようでした。ただ、暴力やセックスがスウェーデンの基準でいえば問題だったということです。“セーラームーン”のある悪役キャラクターでBL(ボーイズラブ)的、つまり男性同性愛なキャラクターが2人いるのですが、スウェーデンではアフレコで片方のキャラクターに女性の声優を当て、そのキャラクターのことは“彼”ではなく“彼女”と呼んでいました。英語で言えば“He”ではなく“She”ですね」

――つまり、男性同士のキャラクターではなく男女のキャラクターに変えたと。
「そうです。スウェーデンは同性愛には比較的寛容ですが、それでも多分、子供に同性愛的なものを見せるのは良くないか、或いはその同性愛的なキャラクターが悪役だったので、同性愛に対するネガティブなイメージを与えない為だったのかもしれません」




manga 03
――先ほど述べたように、スウェーデンではアニメや漫画は幼児のものだという“常識”があり、それに基づいて批判された部分がある訳ですね。「一定以上の年齢になっても漫画を読んでいます」とは言い辛い雰囲気があった。
「そうですね。私が10代の頃はとてもそういう意識が強くて、私もマンガが好きだとはあまり周囲に言えませんでした」

――オタクだとバレると男の子にモテないし(笑)
「そうですね(笑)。でも、今は随分変わってきたと思います。それでも、スウェーデンでは大人向けのコミックや漫画は依然として無くて、新聞などの1コマや風刺漫画・4コマ漫画等が中心です」

――スウェーデンには、バンドデシネのような大人向けの漫画はないんですか?
「全く無いですね。勿論、輸入されたものはありますけど。私の漫画家仲間でファンタジーものを描いている人もいますが、市場はとっても小さいです。殆ど無いと言っていいです。4コマ漫画の連載を幾つか新聞で持っていれば生活できるのでしょうが、それ以外では漫画家として生計を立てることは難しく、私もスウェーデンにいる頃は漫画家よりもイラストレーターとしての収入で生活していました」

――スウェーデンでは未だに、「漫画は子供(幼児向け)のもので、ローティーン以上になったら以後は読まない」という意識が強いんですか?
「漫画に夢中になるのは10代、特にローティーンですね。以後は大抵の人は“卒業”してしまいます。スウェーデンに入ってきているのは少年・少女漫画が多いので、もっと大人向けの作品が紹介されるようになると変わってくるかもしれません」

――今、スウェーデン語版のマンガは増えてきていますか?
「殆ど英語です。“ドラゴンボール”等、一部の人気タイトルでスウェーデン語のものがある程度です。“ドラゴンボール”の出版が2000年ぐらいで、そこからマンガブームが始まりました。でも、2008年ぐらいからは経済危機の影響で出版点数が減ってしまいました。それから、スウェーデンの出版社は刊行に当たってのリスクを嫌がるようになりました。人気マンガほど長く続く訳ですが、例えば、『全30巻のマンガの出版を決めて、1巻目で売れなかったどうしようか?』ということです」

――売れなくても続けると赤字になってしまう。かといって、安易に打ち切ると読者からの信用を失ってしまう。「日本のマンガが長過ぎる、せめて5~6巻だと出しやすいのだが」という話は、海外の出版社からよく聞く話です。
「“NARUTO-ナルト-”と“ワンピース”は他のマンガが消えてしまっても出版が続いていたのですが、現在では話の途中で発行が終わってしまいました。とても悲しいです。それでも、10代の頃にマンガを読んでいた人が作家としてデビューしてスウェーデン語でマンガを描いています。そういう人が3~4人います。プロとして生活していくのは中々大変です」

――日本に住んで随分経つかと思いますが、未だに日本人から言われる、うんざりするようなステレオタイプな質問や発言があれば教えてください。
「『お箸が使えますか?』」とか、自分の名前とか『ありがとう』しか日本語で言っていないのに『日本語がお上手ですね』とかですね。多少嬉しい気持ちもあるのですが、毎回だと『本当かな?』と疑ってしまいます。友人で10年以上日本に住んでいる人も、未だに同じようなことを言われるので、『ちょっと悲しい』と言っていました」

――現在、『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』の続編を執筆中とのことですが、この種のコミックエッセイの他には今後どんなマンガを描いていきたいですか?
「いつの日かファンタジーマンガを描いてみたいですね。日本でストーリーマンガを雑誌連載で描く場合、かなりペースが早いのでそれが出来るかどうか、まだよくわかりません。連載が月刊誌や隔月誌ならばできるかも」

――描きたいというファンタジーは、既存のヨーロッパのファンタジー的な世界ですか? それとも、かなりオリジナル色が強いものとか?
「日本人には無い視点の話、例えば北欧出身なので北欧神話やバイキングの話等をベースにしたマンガが描ければと思っています」

――日本では、プロの作家も商業誌では描けない作品を同人誌で出すことがありますが、オーサさんは今後同人誌で描くようなことを考えていますか?
「今は次回作の執筆で忙しいので、そこまで考えていませんね。先程もお話ししましたが、日本の出版のペースはスウェーデンと比べて早いので大変です」

――日本ではマンガ家は“先生”と呼ばれますが、“先生”と呼ばれることにはもう慣れましたか?
「ハウスメイトの1人が以前から回りの人間を皆『○○センセイ』と呼んでいたので、ずーっと前から『オーサセンセイ』と呼ばれていて慣れてはいました(笑)。他のマンガ家の方たちを『センセイ』と呼ぶのは平気なんですが、自分がプロのマンガ家の方から『センセイ』と呼ばれるのは、まだ何か変な感じがします。まだ私は新人ですし」

――『セーラームーン』に導かれて日本に住み、マンガ家としてのデビューを果たした訳ですが、(ヒーローの)タキシード仮面は日本にいましたか?
「いませんでしたねえ(笑)」

ヨーロッパでは、フランス語圏が昔から漫画(バンドデシネ)大国で、漫画の市場が存在していた。この為、日本のマンガが他の地域に比べて売り易かった(それでも色々な困難があった)。また、ドイツでも現在は多くの漫画が出版されているが、その理由の1つにはドイツの人口が8000万人を超えてEU最大となり、一定のマーケットが形成されているからだ。この為、地元の漫画家も比較的デビューし易い。対して、人口の少ないスウェーデンでは、漫画家としてデビューすること自体がかなり厳しい。自分の母国語で漫画を描いたり読んだりすること自体が難しいのだ。子供の頃に「漫画家になりたい」という“野望”を持っても、それを実現するのはとても大変だ。オーサさんはアニメやマンガで日本に対する憧れを持ち、「日本に住みたい」「日本でマンガ家として生計を立てたい」と思い、それを実現した。本人は屈託無く話してくれるが、それは極めて困難な道だった筈だ。彼女に才能があるのは、著書を見れば一目瞭然だ。だが、何度も日本を訪れ、そして日本語を勉強し、更に専門学校に通う等の地道な努力をし、コミティアで編集者に持ち込む等の粘り強い努力と積極的にチャレンジした行動力も、彼女自らを助けたということだろう。だが、成功の一方で、彼女は既にスウェーデンでプロの漫画家・イラストレーターとしての実績があるにも係わらず、ビザが降りなかったという現実がある。今回の作品の発行が半年遅れていたら、日本での生活を続けることは結構大変だった筈だ。

筆者は1989年にロンドン在住の折り、現地で発行されていた『欧州ジャーナル』で『アニメやマンガが世界に受け入れられる』という記事を書いたが、当時は殆ど異端者扱いされた。1997年には、フランスでオタク文化が現地に根を下ろすまでの悪戦苦闘を描いた『ル・オタク フランスおたく事情』(KKベストセラーズ)を上梓したが、世間の関心は依然低かった。日本のサブカルチャーが世界中に浸透してきたことが多くの日本人に認識されてきたのは、今世紀に入ってきてからだ。昨今は『クールジャパン』という言葉が持て囃されているが、聊か夜郎自大ではないだろうか? 長年海外でリサーチをしている身から見ると、この20年ほど経済的な停滞が続き、自信を失った日本人の焦りやコンプレックスの裏返しの“自画自賛”のように見えなくもない。自信が無いから「他国から褒められたい」「評価されているのだ」という気持ちとが空回りして、「こんなに日本はスゴイんだ」という歪な愛国心の産物のようにも見える。或いは、単に「アニメやマンガ・サブカルチャーで外貨を稼ぎたい」という目先のさもしい欲ばかりが先走っていないだろうか? そのような有り様が“クール”だろうか? 政府は、経済産業省の『クールジャパン事業』に約1500億円もの予算を注ぎ込んでいる。抑々、自分のことを“クール”と呼ぶ人間が果たして“クール”だろうか? アニメやマンガに憧れて、「日本に暮らしたい」「日本でクリエイターとしてデビューしたい」という外国の若者たちに門戸を開き、彼らや彼女らをサポートして日本文化のサポーターを増やすことこそ、本当に日本のサブカルチャーの基盤を支える為に必要な政策ではないだろうか。オーサさんや彼女に続く作家の日本での活動をより容易にしてサポートすることは、マンガの多様性や新しい活力を取り入れるという面でも是非必要なことだ。長い目で見れば、外に出て物を売るだけではなく、新しい“メンバー”を受け入れることも大切ではないだろうか。



清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト・作家。1962年、千葉県生まれ。東海大学工学部卒業。2003~2008年まで英国の軍事誌『Jane's Defence Weekly』日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関『Kanwa Informtion Center』上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛 日本を支配する幻想』(祥伝社新書)・『防衛破綻 “ガラパゴス化”する自衛隊装備』(中公ラクレ新書)・『自衛隊、そして日本の非常識』(河出書房新社)・『ル・オタク フランスおたく物語』(KKベストセラーズ)、共著として『軍事を知らずして平和を語るな』(KKベストセラーズ)・『アメリカの落日 “戦争と正義”の正体』(廣済堂出版)・『すぐわかる国防学』(角川書店)等。近著に『国防の死角 わが国は“有事”を想定しているか』(PHP研究所)。


キャプチャ  2015年6月8日付掲載


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